広報活動

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2013年8月16日

独立行政法人理化学研究所
公益財団法人高輝度光科学研究センター

電子ビームをオーダーメードで加速

-XFELマルチビームライン運転に向けた新技術-

ポイント

  • レーザー発振に最適なエネルギーを持つ電子ビームを全てのビームラインに供給
  • 線形加速器の安定性やビーム品質を全く損なわない
  • 放射光を約100倍明るくするSPring-8次期計画に不可欠な技術

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と高輝度光科学研究センター(土肥義冶理事長)は、加速器の安定性やビーム品質を落とさずに線形加速器[1]の電子ビームを電子バンチ(電子の集団)ごとに異なる目標ビームエネルギーまで加速する方法を考案し、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA[2]を用いて実証しました。これは、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)XFEL研究開発部門加速器研究開発グループ先端ビームチームの原徹チームリーダー、田中均部門長、ビームライン研究開発グループ理論支援チームの玉作賢治専任研究員らの共同研究グループの成果です。

SACLAでは、構造解析や物性測定など、さまざまな利用実験が行われています。各実験には、それぞれに適した波長のレーザー光が必要なため、電子ビームのエネルギーを変えることにより波長を調整し、供給しています。SACLAでは、今後増大する利用実験に対応するため、ビームラインの増設を計画しています。このとき問題になるのが、電子ビームのエネルギーをどのビームラインに最適化するかということでした。ビームラインごとに行われるそれぞれの利用実験は独立しており、使用するレーザー光の波長も異なります。波長はある程度であればアンジュレーター[3]で調整できますが、電子ビームのエネルギーが最適な条件からずれるとレーザー光の強度が大幅に低下するため、複数のビームラインを、その性能を最大限に引き出しつつ並行運転するには大きな制約が生じるのではないかと懸念されていました。

共同研究グループはこの問題を解決するため、線形加速器の一部の加速管ユニットの動作周波数を変えることで、複数のビームラインへ供給する電子ビームのエネルギーを電子バンチごとに制御し、全てのビームラインにおいて最適な条件でレーザーを発振させる方法を考案しました。実際にSACLAで実証実験を行ったところ、電子ビームの安定性や品質を損なうことなく10 Hz(ヘルツ)の電子バンチを複数の目標ビームエネルギーまで加速し、レーザー発振させることに成功しました。

今回考案した方法は、複数のビームラインを用いたSACLAマルチビームライン運転時のレーザー性能向上だけでなく、現在検討中の「SPring-8次期計画[4]」においてSACLAの利用運転と大型放射光施設SPring-8[5]の蓄積リングへのトップアップ運転(電子を継ぎ足し入射し蓄積電流を通常運転時の上限一杯に維持する運転)を両立する上でも不可欠な技術です。本研究成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Special Topics-Accelerator and Beams』に掲載されるに先立ち、オンライン版(8月15日付け:日本時間8月16日)に掲載されます。

背景

X線自由電子レーザー(XFEL)施設から発振されるレーザー光は、パルス幅が10 fs(フェムト秒)以下でピークパワーが10 GW(ギガワット)以上と、既存の放射光に比べ100億倍明るいため、原子や分子の瞬間的な動きが観察でき、物理学、化学、生物学などさまざまな分野の実験に使われ始めています。これまでSPring-8などが放つ放射光では不可能と考えられていた実験が行えるようになるため、SACLAやLCLS[6]などXFEL施設の利用実験は、今後増大すると予想されます。これに対応するため、ビームラインの複数化が世界の各XFEL施設で計画されています。しかし、複数のビームラインで同時に利用実験を行う場合、ビームラインごとに異なるレーザー波長に対し、電子ビームのエネルギーを電子バンチ(電子の集団)ごとにどのように変化させるかが課題となっていました。

複数のビームラインを同時に用いるマルチビームライン運転では、線形加速器で加速された電子バンチを、パルス電磁石などを用いてそれぞれのビームラインに振り分けます。しかし、線形加速器のパラメータを電子バンチ加速の度に変更することは技術的に難しく、できたとしても線形加速器の安定性を大きく損ないます。これを避けるため従来考えられていたのは、低エネルギーの電子ビームを線形加速器途中のエネルギーがまだ低い部分で取り出し、アンジュレーターに通す方法でした。(図1a)。しかし、この方法では、アンジュレーターや利用実験を行う建屋が新たに必要なためコストがかかるだけでなく、レーザー光の波長によって実験する建屋が変わるので実験装置を移動しなければならず、効率的な施設の運用に支障が出ます。そこで、共同研究グループはこのような課題を解決するため、効率的に電子ビームをオーダーメードで加速する手法の考案に挑みました。

研究手法と成果

共同研究グループは、線形加速器の終端に全てのビームラインを展開し、各ビームラインに最適なエネルギーを持った電子バンチの供給を可能にする方法を考案しました(図1b)。この方法は、線形加速器の加速管ユニットを動作させるタイミングシステムを工夫することにより、下流の加速器を構成する加速管ユニット(SACLAの場合、有効なユニット数は52)を、電子バンチの繰り返し周波数の整数分の1の周波数で動作させ、電子バンチごとに異なる目標エネルギーまで加速するものです(図2)。このとき、加速器は全て一定の繰り返し条件で動く定常状態で運転されるため、加速器の安定性や電子ビームの品質を損なうことはありません。

次に、今回考案した手法で実際にSACLAを用いて実証実験を行いました。その結果、10 Hzの電子バンチを、異なる2つの目標ビームエネルギー(8 GeVと6.9 GeV)まで交互に加速するができました(図3)。また、これらの電子ビームをSACLA ビームライン(BL3)のアンジュレーターに通して異なるビームエネルギーでレーザー発振を得ることに成功しました。さらに、10 Hzの電子バンチを3つの目標ビームエネルギーまで電子バンチごとに加速し、レーザー発振させることにも成功しました(図4)。各ビームエネルギーでレーザー発振が得られていることからも分かるように、電子ビームの安定性や品質は損なわれないことも確認できました。

今後の期待

今回SACLAで実証した技術は、加速管ユニット単位でビームエネルギーを変えることができ、安定にレーザー発振が可能な条件において、4 GeVから8.5 GeVの範囲で異なる電子ビームの供給が可能になります。また、パルス電磁石を用いた電子バンチ振り分けシステムと組み合わせることで、多数のビームラインに最適なエネルギーを持った電子ビームを供給し、全てのビームラインで強度の強いレーザー光の利用が可能になります。この技術は、全てのビームラインを同じ建屋内にコンパクトに並べて配置することができるため、今後計画されているXFEL施設の基本設計に大きなインパクトがあると予想できます。

また、SPring-8次期計画において予定されている、SACLAからSPring-8蓄積リングへのトップアップ運転(電子を継ぎ足し入射し蓄積電流を通常運転時の上限一杯に維持する運転)のための電子ビーム入射では、不可欠な技術要素となります。

原論文情報

  • Toru Hara, Kenji Tamasaku, Takao Asaka, Takahiro Inagaki, Yuichi Inubushi, Tetsuo Katayama, Chikara Kondo, Hirokazu Maesaka, Shinichi Matsubara, Takashi Ohshima, Yuji Otake, Tatsuyuki Sakurai, Takahiro Sato, Hitoshi Tanaka, Tadashi Togashi, Kazuaki Togawa, Kensuke Tono, Makina Yabashi, Tetsuya Ishikawa
    "Time-interleaved multi-energy acceleration for an XFEL facility"
    Physical Review Special Topics-Accelerator and Beams
    , 2013  DOI: 10.1103/PhysRevSTAB.16.080701

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 加速器研究開発グループ 先端ビームチーム
チームリーダー 原 徹 (はら とおる)

お問い合わせ先

放射光科学研究推進室
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 線形加速器
    電子銃から放出された電子ビームを、RF電磁場を用いて加速する直線型加速器。サイン波であるRF電磁場を用いるため、電子ビームは連続ではなく、バンチと呼ばれる電子の集団ごとにパルス的(間欠的)に加速される。
  2. SACLA
    理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL(X-ray Free-Electron Laser)施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で建設・整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1と、コンパクトであるにも関わらず、 0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有している。
  3. アンジュレーター
    NとSの極性を交互に反転させた永久磁石列を上下に並べた装置。電子ビームが上下の磁石列の間を通過するとき、アンジュレーターの周期磁場によって電子ビーム軌道は左右にうねり放射光を発生する。XFELでは、さらにアンジュレーター内で放射光と電子ビームを相互作用させることにより電子と光の間のエネルギー交換が生まれ、放射光を増幅することでX線領域のレーザー光を得る。また上下の磁石列間のギャップ距離を変えることで、レーザー光の波長を調整することができる。
  4. SPring-8次期計画
    SPring-8の放射光を現状よりも約100倍明るくするための、SPring-8蓄積リングのアップグレード計画。SPring-8次期計画では、リングの電子ビームの光源サイズを極限まで絞り込むため、電子ビームの周回可能な領域が現状に比べ狭くなる。この蓄積リングへ効率よく入射するには、品質のよい(細い)電子ビームを用いる必要があるため、SACLAで加速した電子ビームの一部をSPring-8蓄積リングへ入射する。SPring-8次期計画ではビームエネルギーを6GeVにする想定であり、SACLAのレーザー利用運転とSPring-8への入射を両立させるには、電子バンチごとのビームエネルギー制御が不可欠となる。
  5. 大型放射光施設SPring-8
    理研が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す放射光施設。利用者支援はJASRIが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
  6. LCLS
    米国スタンフォード線形加速器センター(現在のSLAC国立加速器研究所)で建設された世界で初めてのXFEL施設。Linac Coherent Light Sourceの頭文字をとってLCLSと呼ばれている。2009年12月から利用運転が開始された。

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施設デザインの図

図1 XFELマルチビームラインの施設デザイン

(a)従来のデザイン
線形加速器の動作繰り返しが同一で低エネルギービームは加速器途中から取り出す。

(b)今回の方式を採用したデザイン
線形加速器の繰り返しを一部変えることで電子バンチごとのエネルギーを制御する。

オーダーメード電子加速の例

図2 今回考案したオーダーメード電子加速の例

今回考案した方法で3本のビームラインに最適なエネルギーの電子バンチを供給することができる。
8 Gevの電子バンチ(緑)の場合、加速管52ユニット(赤と青と緑)全てで加速される。
5.4 Gevの電子バンチ(赤)の場合、上流側加速管32ユニット(赤)のみで加速される。
6.7 Gevの電子バンチ(青)の場合、加速管42 ユニット(赤と青)だけで加速される。

図3 10Hzの電子バンチを異なる2つの目標ビームエネルギーまで交互に加速した実験結果
(各点は繰り返し10Hzの電子バンチのエネルギーを示す)

図4 異なる3つのビームエネルギーまで電子バンチを加速し、
各エネルギーに対応した波長でレーザー発振させた時のスペクトル

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