広報活動

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2013年10月9日

独立行政法人理化学研究所
北京航空航天大学

「魔法数」を持つ原子核に現れる「特別な核異性体」を発見

-中性子を非常に多く含むパラジウム同位体で魔法数82の存在を実証-

ポイント

  • 国際共同研究プロジェクト「EURICA」におけるRIビーム実験で得られた最初の成果
  • 中性子魔法数82の消滅に基づく重元素合成シナリオの破綻を示唆
  • 重い中性子過剰核における魔法数の成因を探る大きな手掛かりに

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と北京航空航天大学(怀进鹏学長)は、陽子数に対して中性子数が非常に多いパラジウム-128(128Pd:陽子数46、中性子数82)に、「特別な核異性体[1]」があることを発見しました。これは、陽子もしくは中性子数が魔法数の原子核に現れる特徴的な状態を示しており、この中性子過剰な原子核領域で中性子の数82が魔法数であることを証明しました。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)櫻井RI物理研究室の渡邉寛客員研究員(北京航空航天大学招聘教授)を中心とする国際共同研究グループ[2]の成果です。

原子の中心である原子核は、陽子と中性子から構成され、それらの組み合わせによりさまざまな特徴を示します。陽子や中性子がある特定の数“魔法数”の時、原子核は特に安定になります。自然界に存在する原子核では、2・8・20・28・50・82・126が魔法数で、約半世紀にわたって普遍的な定数と考えられていました。しかし近年、理研をはじめとする放射性同位元素(RI)[3]ビームを用いた研究により、「魔法数は不変」という定説を覆すデータが次々と得られており、軽い中性子過剰核[4]では魔法数8、20、28が消滅しています。重い中性子過剰核でも、魔法数50、82が消滅するという理論予測があり、その実験的検証が待ち望まれています。

重い中性子過剰核で魔法数82が存在するかどうかを検証するため、国際共同研究グループは、世界最高性能の理研仁科加速器研究センター「RIビームファクトリー(RIBF)[5]」を使い、大強度ウラン-238の核分裂反応により中性子数82近傍のRIを大量に生成しました。RIの崩壊に伴い放出されるガンマ線を、欧州ガンマ線検出器委員会(EOC)が管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器[6]を用いて測定したところ、128Pdと126Pdに100万分の1秒程度の寿命を持つ励起状態の“核異性体”を発見しました。この核異性体の励起エネルギーと寿命を精査したところ、128Pdに現れた核異性体は魔法数を持つ原子核に特有の特別な状態であることが分かりました。「特別な核異性体」は、魔法数として中性子数50を持つモリブデン-92(92Mo:陽子数42)から、ルテニウム-94(94Ru:陽子数44)、パラジウム-96(96Pd:陽子数46)、カドミウム-98(98Cd:陽子数48)でも系統的に確認されており、これは、中性子魔法数82が重い中性子過剰核で消滅せず、魔法数のままであることを証明しています。今後、重い中性子過剰核における魔法数の成因を探る上で大きな手掛かりになります。また、観測によって得られた太陽系における元素存在度をうまく再現できない「重元素生成量の不足問題」を解決するために約20年にわたり議論されてきた「中性子魔法数82の消滅に基づく元素合成のシナリオ」が破綻し始めていることを示唆しています。

今回の成果は、理研のRIBFおよびRI寿命測定装置と、EOCが管理する大球形ゲルマニウム半導体検出器を組み合わせた国際共同核分光実験プロジェクト「EURICA(ユーリカ)」で実現した成果であり、同装置を用いる希少核種の核分光研究に弾みをつけるものです。

本研究成果は、米国の科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載されるに先立ち、オンライン版(10月8 日付け、日本時間10月9日)に掲載されます。

背景

原子やその原子核を構成する陽子と中性子が主役のミクロ世界では、それらを構成する基本粒子がある特定のエネルギーで決まる軌道上を、量子力学の法則に従い整然と動いています。各軌道に入る粒子数は決まっており、軌道のエネルギー分布も一様ではなく疎密があります。粒子が密な一群の軌道を全て占有すると特に安定になり、その時の粒子数は「魔法数」と呼ばれます。原子では、ヘリウムやネオンなどの希ガス原子が、魔法数に等しい数の電子を持ちます。

1949年に米国のメイヤーとドイツのイェンセンが、原子核にも魔法数があることを原子核の「殻構造」モデルによって説明しました。原子核を構成する陽子と中性子はそれぞれが魔法数を持ち、自然界に存在する原子核では、2・8・20・28・50・82・126が魔法数です。原子番号(陽子数)がこれらに相当する元素は、周辺の元素と比べて安定同位体が多いという特徴があります。殻構造モデルの提唱以降、約半世紀にわたって魔法数は普遍的な定数であると考えられていました。しかし近年、RIビームを用いた研究により、「魔法数は不変」という定説を覆す実験結果が次々と得られています。2000年に理研の研究グループは、軽い中性子過剰核で魔法数8、20、28が消滅し、新魔法数16が出現することを明らかにしました。一方、重い中性子過剰核では、魔法数50、82が消滅するという理論予測があり、実験的検証が待ち望まれています。

今回、国際共同研究グループは、中性子が非常に多いパラジウム同位体(原子番号46)で魔法数82が存在しているかどうかを検証するために、パラジウム-128(128Pd:中性子数82)に出現すると予測される「特別な核異性体」に着目しました(図1)。この核異性体は、陽子の対が壊れることで生じます(図2)。中性子数が魔法数の性質を持つと、中性子物質は硬く励起に関与しません。一方、陽子数は魔法数でないため、陽子物質のみが活動的になり、陽子同士の対をなしている状態を壊すことによって特徴的な励起準位が現れます。この励起準位のうちエネルギーがもっとも高い準位は比較的長い寿命を持ち、核異性体になることが知られています。そして、中性子数が魔法数になるかどうかは、励起エネルギーを調べることで分かります。

これまでに理研仁科加速器研究センターは、RIビームに関するさまざまな研究を行ってきました。2008年に、ウラン-238ビーム(238U:陽子数92、中性子数146)からの核分裂反応により45種の中性子過剰な新RIを発見しました1)128Pdは、この時に初めてその存在が確認された希少核種です。2009年に、中性子過剰な質量数110領域のRIを対象とした、RIBFで最初の崩壊核分光[7]実験を行ない、ベータ崩壊の半減期や原子核の変形に関する興味深い結果を発表しました2)。核分光研究をさらに推し進めるため、当センターは、2012年「EURICA(EUROBALL RIKEN Cluster Array)」プロジェクトを開始しました3)。EURICAの大球形ゲルマニウム半導体検出器は、2009年にRIBFの実験で使用された検出器と比べて約10倍の検出効率を備えています。これにより、希少RIからの微弱なガンマ線をとらえ、未知の原子核領域における新奇現象の発見や元素合成の解明を行う研究態勢が整いました。国際共同研究グループは、EURICAプロジェクトの一環として、重い中性子過剰核で魔法数82が存在するかどうかの検証に挑みました。

 

注1)2010年6月8日プレス発表
注2)2011年2月1日プレス発表2011年5月9日プレス発表
注3)2012年3月26日プレス発表

研究手法と成果

128Pdに出現する「特別な核異性体」の寿命は、中性子数が同じ82のカドミウム-130(130Cd:陽子数48)で確認されていた類似の核異性体の寿命をもとに、数~数十マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)と予測されていました。国際共同研究グループは、核異性体の崩壊に伴い放出されるガンマ線のエネルギーと時間を測定することで、核異性体の励起エネルギーと寿命を調べました。

128Pdは、超伝導リングサイクロトロン(SRC[8]により238Uを光速の70%(核子あたり345MeV:メガ電子ボルト)まで加速して、標的原子核ベリリウム(Be)に照射し、核分裂反応させて生成しました。生成された大量のRIの中から128Pdとその周辺の中性子過剰なRIを、超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS[9]を用いて分離・同定し、EURICA中心の高性能寿命測定装置「WAS3ABi(ワサビ)[10]」に埋め込み停止させます(図3)。このビームの埋め込み時間と停止位置を測定するとともに、RIの崩壊に伴い放出されるベータ線や内部転換電子を検出します。この際、ベリリウム標的から最終焦点位置までの輸送時間(数百ナノ秒、1ナノ秒は10億分の1秒)と同程度かそれ以上の寿命を持つ核異性体は、ビームとして取り出すことができます。

128Pdの埋め込みから100マイクロ秒の間に放出されるガンマ線をEURICAで測定したところ、4本のガンマ線を観測しました(図4)。これらのガンマ線のエネルギーと時間分布を調べた結果、核異性体の励起エネルギーは2051keV、半減期は5.8±0.8マイクロ秒と決まりました。また、128Pdの励起準位構造は、中性子数が同じ82で陽子数が2つ多い130Cdと非常に良く似ていることも分かりました(図4)。過去の研究から130Cdは、陽子と中性子の数が両方とも魔法数であるスズ-132(132Sn:陽子数50、中性子数82)の陽子軌道に穴が2つ空いた状態(空孔)として解釈されています。128Pdには空孔が4つありますが、励起エネルギーが130Cdと酷似しているので、2つの空孔だけの運動によって決まることを示しています。このようなシンプルな描像が成り立つのは、中性子が準位構造に寄与しないためであり、中性子数82が魔法数であることの証拠になります。実際、128Pdと同時に観測された魔法数を持たないことが分かっている126Pd(中性子数80)では、陽子と中性子の両方が寄与するため励起準位構造は複雑になり、成り立ちません(図4)。

魔法数を持つ原子核に特有の「特別な核異性体」は、魔法数として中性子数50を持つモリブデン-92(92Mo:陽子数42)から、ルテニウム-94(94Ru:陽子数44)、パラジウム-96(96Pd:陽子数46)、カドミウム-98(98Cd:陽子数48)でも系統的に確認されており、その最大の特徴は、陽子軌道が半分占有されたところで寿命が著しく長くなる点です(図5)。今回、同様な傾向が中性子数82の128Pdと130Cdで観測されたことにより、安定核領域で確認されていた中性子魔法数82が128Pdで消滅せず、存続していることを示すことができました。

今後の期待

今回、中性子数82が重い中性子過剰核で消滅せず、魔法数として存在することを証明しました。今後、さらに中性子数が82である中性子過剰なルテニウム-126(126Ru:陽子数44)やモリブデン-124(124Mo:陽子数42)などの原子核の励起準位構造を研究することで、重い中性子過剰核における魔法数の成因に迫り、軽い核も含めた中性子過剰領域における魔法数の変化について包括的な理解が進むと期待できます。

今回の知見は、天体における元素合成の解明においても重要な意味を持ちます。これまで、標準的な原子核理論を取り入れた天体現象のシミュレーションでは、観測によって得られた太陽系の元素存在度をうまく再現できない「重元素生成量の不足問題」がありました。これを解決するために、「中性子魔法数82は消滅している」という議論が約20年にわたって繰り広げられてきましたが、魔法数82の存在を証明したことで、この仮定に基づく元素合成のシナリオが破綻し始めていることを示唆しています。また今回の実験では、ベータ崩壊の半減期のデータも同時に得られました。r過程[11]による元素合成を解明する上で重要な基礎となる中性子過剰核の半減期と、本研究で得られた魔法数に関する情報を統合することにより、r過程シミュレーションの精度を向上させることができるかもしれません。その結果、超新星爆発や中性子星衝突など個々のr過程候補天体での元素合成の可否を議論できる段階に進めることが期待できます。

今回の実験では、RIBFが誇る世界最高のRI生成能力とEURICAの高い検出効率を組み合わせることで、良質のデータを大量に蓄積することができました。データの解析は現在も進行中で、本研究成果以外にも、核変形遷移や核異性体に関する興味深い結果が得られつつあります(Physical Review C 88, 024301,2013)。また、同装置を用いる他の実験も着々と行われており、広範囲にわたる希少RIの核分光研究が進むと期待できます。

原論文情報

  • H. Watanabe, G. Lorusso, S. Nishimura, Z.Y. Xu, T. Sumikama, P.-A. Soderstrom, P. Doornenbal, F. Browne, G. Gey, H.S. Jung, J. Taprogge, Zs. Vajta, J. Wu, A. Yagi, H. Baba, G. Benzoni, K.Y. Chae, F.C.L. Crespi, N. Fukuda, R. Gernhauser, N. Inabe, T. Isobe, A. Jungclaus, D. Kameda, G.D. Kim, Y.K. Kim, I. Kojouharov, F.G. Kondev, T. Kubo, N. Kurz, Y.K. Kwon, G.J. Lane, Z. Li, C.-B. Moon, A. Montaner-Piza, K. Moschner, F. Naqvi, M. Niikura, H. Nishibata, D. Nishimura, A. Odahara, R. Orlandi, Z. Patel, Zs. Podolyak, H. Sakurai, H. Schaffner, G.S. Simpson, K. Steiger, H. Suzuki, H. Takeda, A. Wendt, and K. Yoshinaga "Isomers in 128Pd and 126Pd: Evidence for a Robust Shell Closure at the Neutron Magic Number 82 in Exotic Palladium Isotopes" Physical Review Letters ,2013,

発表者

北京航空航天大学
物理科学与核能工程学院
招聘教授 渡邉 寛 (わたなべ ひろし)

独立行政法人理化学研究所
仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
先任研究員 西村 俊二 (にしむら しゅんじ)
主任研究員 櫻井 博儀 (さくらい ひろよし)

お問い合わせ先

仁科加速器研究推進室
Tel: 048-467-9451 / Fax: 048-461-5301

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 核異性体
    比較的長い寿命を持つ励起状態にある原子核。通常の励起状態がピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)程度で崩壊するのに対し、核異性体はナノ秒程度から、長いものでは年単位の寿命を持つ場合もある(タンタル-180の核異性体は半減期が1200兆年あり、半減期8時間の基底状態よりはるかに長寿命)。主に崩壊先の状態とのエネルギー差が小さい、核スピン差が大きい、構造的に異なる場合に核異性体になりやすい。「異性体」という言葉は、もともとは化学の分野で分子全体の化学組成は変わらずに原子配列が異なる状態に対して用いられていた。
  2. 国際共同研究グループ
    理化学研究所、北京航空航天大学をはじめとして世界12カ国(日本、中国、韓国、イギリス、フランス、スペイン、ハンガリー、イタリア、ドイツ、ベルギー、アメリカ、オーストラリア)から29大学・研究機関、52名が参加している。
  3. 放射性同位元素(RI)
    放射線を放出し崩壊する原子核。ラジオアイソトープ(RI)。放射性同位体、不安定核、短寿命核とも呼ばれる。理論的には約1万種が存在すると言われている。一方、地球上にある物質は寿命が無限かそれに近い安定核(安定同位体)で構成されている。安定同位体は約270種ある。
  4. 中性子過剰核
    安定同位体と比較して中性子を多く含んだ不安定核。ほとんどはベータ崩壊を起こし、原子番号が1つ大きな核種に壊変する。陽子と比べて中性子の分布が大きくひろがった中性子ハローや、既知の魔法数の消滅や新魔法数の出現などの興味深い現象が見つかっている。
  5. RIビームファクトリー(RIBF)
    RIビーム発生系施設と独創的な基幹実験設備で構成される重イオン加速器施設。1基の線形加速器、4 基のリングサイクロトロンと超伝導RIビーム分離装置(BigRIPS)で構成される。これまで生成不可能であったRIも生成でき、世界最多となる約4,000種のRIを生成する性能を持つ。
  6. 大球形ゲルマニウム半導体検出器
    欧州ガンマ線検出器委員会(Euroball Owners Committee)が管理する7結晶クラスター型の大球形ゲルマニウム半導体検出器。ドイツのGSI研究所において、旧RISINGプロジェクトとして使用されていた。非常に高分解能のエネルギー測定が可能となるため、少ない統計量でもガンマ線のエネルギーを精密に測定することができる。例えば、1メガ電子ボルトのガンマ線エネルギーにおいては、半値幅で3キロ電子ボルト以下のエネルギー分解能をもつ。また、1メガ電子ボルトのガンマ線に対して、約10%の検出効率を持つ。
  7. 崩壊核分光
    RIの崩壊に伴い放出される放射線を測定することで原子核の性質を明らかにする研究方法。今回の研究では主にベータ線とガンマ線を測定し、RIの半減期や励起状態のエネルギーの情報を得た。
  8. 超伝導リングサイクロトロン(SRC)
    リングサイクロトロンの1種。サイクロトロンの心臓部に当たる電磁石に超伝導を活用し、高い磁場を発生できる。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ自己漏洩磁気遮断の機能を付与している。総重量は8,300トン。このSRCを使い非常に重い元素であるウランを光の70%まで加速できる。また、超伝導という方式によって従来の方法に比べ100分の1の電力で動かせるようになり、大幅な省エネも実現している。
  9. 超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)
    標的では1次ビームが反応によってRIに変わるが、このRIを集めて必要とするRIを分離し、供給する装置。BigRIPSは、RIの収集能力を高めるため、超伝導四重極電磁石が採用されており、ドイツの重イオン研究所(GSI)など他の施設にくらべ約10倍の明るさを持つ。
  10. WAS3ABi(ワサビ)
    理研が開発した高性能寿命測定装置。1ミリメートルの位置測定能力を特長とするシリコン半導体検出器(60×40平方ミリメートル)8枚を重ね合わせた構造になっており、捕獲したRIが崩壊時に放出するベータ線の位置と時間を高感度で検出する。
  11. r過程
    超新星爆発時に起きる元素合成で、高速に連続して中性子を捕獲しながら崩壊(ベータ崩壊)するため、r(rapid:高速)過程と呼ばれる。中性子の多い鉄以上の重元素のほぼ半分は、このr過程で生成される。重元素を生成するもう一方の支配的なs(slow:低速)過程は、赤色巨星への進化段階でゆっくりした中性子捕獲によって元素合成が行われる。s過程と比較しr過程は未解明の部分が多く、このr過程が起きる場所の候補として、中性子星同士の融合も提案されている。

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核図表と原子核の魔法数の図

図1 核図表と原子核の魔法数

縦軸に陽子数、横軸に中性子数をとって既知および概念上の核種全てを配置したもので、核図表と呼ばれる。左上の核図表上で、■は自然界に存在する安定核を示しており、それ以外は時間とともに放射性崩壊する不安定核である。右下の図は、今回および2009年に研究を行った領域を拡大したもので、陽子・中性子の数が両方とも偶数の核(偶々核)の第一2+状態と第一4+状態のエネルギーの比で色分けしてある。原子核の形は、この比が1に近い(濃い緑)と球形であり、3.33に近づく(濃い赤)につれ変形が大きくなる。一般に、魔法数を持つ原子核は球形で、魔法数から遠ざかるにつれて変形が大きくなる。2009年の研究で、ジルコニウム-106,108(106,108Zr:陽子数40、中性子数66, 68)が大きく変形していることが分かった。今回、新たな核異性体が見つかったのはパラジウム-126,128(126,128Pd:陽子数46、中性子数80, 82)である。

 128Pdの配位(上)と「特別な核異性体」の発生メカニズム(下)の図

図2 128Pdの配位(上)と「特別な核異性体」の発生メカニズム(下)

上図:128Pdで陽子(赤丸)と中性子(青丸)がどのような状態にあるかを示した概念図。
陽子はg9/2軌道に穴が4つ空いた状態(空孔という)、中性子はh11/2軌道まで粒子が全て詰まった状態である。基底状態(エネルギーが最も低い状態)では、全ての粒子・空孔が対になっているため、核スピンは0+である。

下図: 2+~8+までの励起状態は、g9/2軌道の一組の陽子空孔対が壊れることにより生じる。8+状態は励起エネルギーが最も高く、6+状態とのエネルギー差が小さいため核異性体になりやすい。(補足説明[1]参照)

+:パリティ。パリティは、空間反転対称性に関する属性を表す。全核子の空間座標の符号を反対にした場合に原子核の波動関数の符号が変化しない場合にはパリティはプラス(+)、変化する場合はマイナス(-)という。

実験装置の全体像の図

図3 実験装置の全体像

SRCでウラン-238(238U)を光速の70%(核子あたり345メガ電子ボルト)まで加速し、標的原子ベリリウム(Be)に照射し、核分裂反応により大量のRIを生成する。その中から128Pdとその周辺の中性子過剰なRIを、BigRIPSを用いて分離・同定し、EURICAの中心に設置した両面分割型シリコン半導体検出器「WAS3ABi」に埋め込み停止させる。WAS3ABiでは、RIの埋め込み位置と時間を記録しておき、シリコン上の同じ位置で検出されたベータ線との時間差からRIの半減期を導出する。ベータ崩壊、および核異性体の崩壊に伴い放出されるガンマ線をゲルマニウム検出器で測定し、励起状態の研究を行う。

今回の実験で観測されたガンマ線エネルギースペクトル(上)と126Pd、128Pd、130Cdの準位図(下)の図

図4 今回の実験で観測されたガンマ線エネルギースペクトル(上)と126Pd、128Pd、130Cdの準位図(下)

上:RIビームの埋め込みから100マイクロ秒以内に放出されるガンマ線を測定したところ、128Pdでは4本、126Pdでは5本のガンマ線が観測された。

下:測定したガンマ線から構築した準位図(130Cdは既知)。半減期がマイクロ秒程度の核異性体が126Pdには2つ(0.44±0.03, 0.33±0.04マイクロ秒)、128Pdには1つ(5.8±0.8マイクロ秒)あることが分かった。また、128Pdの励起準位構造は、中性子数が同じ82で陽子数が2つ多い130Cdと非常に良く似ていることが分かる。これらは、図2で説明した一組の陽子空孔対が壊れることにより生じる特徴的な状態である。

中性子数50、82核の励起エネルギー(上)と「特別な核異性体」の半減期(下)の図

図5 中性子数50、82核の励起エネルギー(上)と「特別な核異性体」の半減期(下)

g9/2軌道上の一組の陽子対が壊れることによって形成される励起準位のエネルギーは、軌道の占有率に依らず、ほぼ一定の値を持つ。ただし、その性質は、陽子数が増えるに従い粒子的なものから空孔的なものへと変化する。(表下の矢印)
軌道が半分近く占有された核で核異性体の寿命が著しく長くなるのは、粒子としての寄与と空孔としての寄与がキャンセルしあい、ガンマ線遷移が強く禁止されるためであると解釈される。
中性子数82(青三角)のMoとRuでは核異性体は未確認であり、今後のRIBFでの研究で発見が期待される。

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