広報活動

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2013年12月4日

独立行政法人理化学研究所
公益財団法人高輝度光科学研究センター

2つのX線波長で同時レーザー発振に成功

-新しい実験手法を可能にする新光源-

ポイント

  • 従来の「X線+可視光」から「X線+X線」の組み合わせで物質を探求
  • 2つのフェムト秒パルスをアト秒で制御、高精度時分割測定が可能に
  • XFEL光源のポテンシャルや自由度を高め、新規実験手法を開拓

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と高輝度光科学研究センター(土肥義治理事長)は、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA[1]」を用いて、硬X線領域[2]で任意の2つの波長のレーザーを同時に発振させる2色XFELの生成に初めて成功しました。高精度時分割測定や、複数波長で回折像を同時測定することなどが可能になります。これは、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)XFEL研究開発部門 加速器研究開発グループ 先端ビームチームの原徹チームリーダーらの共同研究グループの成果です。

XFELは、フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の短パルス、100ギガワット(GW)レベルの高ピークパワーのX線レーザーで、波長可変性も備えています。XFELを試料に照射し、その回折光や透過光、放出される電子などの測定を通じて試料の構造や物性などを明らかにできるため、XFELは既に生物学や化学、物理学、材料学など幅広い分野で利用されています。SACLAでは、線型加速器[3]で加速した電子ビームを長さ約120 mの放射光発生装置(アンジュレータ[4])に通すことで、実験に最適な波長のX線レーザーを発振させます。しかし、装置や実験手法を改良していくことで、より高度な実験を実現できるポテンシャルを秘めています。例えばXFELを利用した動的観察には、外部レーザーの可視光パルスとXFELのX線パルスを試料に照射する手法を用いています。この手法では、一方の光パルス(ポンプ光)で現象を励起し、時間差を付けたもう一方のパルス(プローブ光)で反応過程を時分割測定します。しかし、外部レーザーの波長が可視光や赤外線に限定されること、また2パルス間の時間差の精度が低いことなどが、実験上の大きな制約となっていました。

共同研究グループは、アンジュレータを2つに分けてXFELを発振させることにより、異なる2波長の光パルスの同時生成を可能にしました。これは、硬X線領域では世界初の成果です。今回実現した2色XFELでは、同じ電子ビームから2つのX線光パルスが放射されるため原理的に2パルス間の時間差に誤差はなく、ポンプ光とプローブ光の両方にX線波長のレーザーを用いることが可能になります。これによって、従来見ることができなかった現象の時間変化を、非常に精度よく観測することが可能です。またSACLAで実現した2色XFELは、可変ギャップアンジュレータを用いることで波長間隔を30%以上に広げられるため、小型X線レーザー発振装置の開発につながる原理検証や、これまで1波長で行われていたタンパク質の構造解析を複数の波長で同時に行うなど、新しい実験手法の開拓が期待できます。

本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(12月4日付け:日本時間12月4日)に掲載されます。

背景

X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のXFEL光は、大型放射光施設「SPring-8[5]」などの放射光よりも約100億倍明るいだけでなく、パルス幅が約1,000分の1、10フェムト秒以下と非常に短いのが特徴です。パルス幅が短いほど、高速の現象をカメラのストロボ撮影のようにコマ送り(時分割)で詳しく見ることができるため、原子や分子の瞬間的な動きを観察するには最適な光源です。SACLAではX線分光法やコヒーレントX線回折イメージング法などいくつかの計測手法がありますが、その中でも、物理現象や化学反応の時間変化を観察する時分割測定では、反応や現象を引き起こす「ポンプ光」と、時間差をつけてそれを観測する「プローブ光」の2つの光パルスが必要となります。現在は、可視光レーザーを用い、X線と可視光の2つの光パルスを使っていますが、片方の光が可視光の場合、X線との波長差があまりに大きいため、調べることのできる反応や現象が制約されてしまいます。また、XFELと可視光レーザーは独立した光源であるため、2パルス間の時間差の精度が10~100 フェムト秒程度と、現象の撮影に時間的なブレが生じることが避けられませんでした。

共同研究グループは、これらの課題を解決するために、波長の異なる2つのX線光パルスを同じ電子ビームから発生させる2色XFELの実現に取り組みました。2色XFELでは、同じ電子ビームから2つの光パルスを発生させるため、2パルス間の時間差の精度を、従来の可視光レーザーを使う場合に比べ約1,000分の1の数10アト秒(1アト秒は100京分の1秒)まで向上させることができます。さらに、2つのX線波長はアンジュレータの磁場を変えることで自由に選択することができるため、実験に最適な波長の光を使うことが可能です。

自由電子レーザー(FEL)の2色発振は1990年代から赤外線で行われ、最近では真空紫外や軟X線の波長領域でも報告があります。しかし、これらの2色発振では波長間隔の差が数%しかなく、極めて使いにくい光源でした。

研究手法と成果

XFEL施設では、線型加速器で加速、圧縮した電子ビームを全長約120 mの長いアンジュレータ(図1)に通し、光と電子ビームを相互作用させることによって光を増幅します。このとき、電子ビームのエネルギーとアンジュレータの磁場で相互作用の共鳴波長が決まり、これがXFELの波長になります。ビームエネルギーや磁場を変化させることで、XFELの発振波長を自由に選ぶことができます。

共同研究グループは、電子ビームを光に対して遅らせるシケイン(電子ビームのみを迂回させる減速用コーナー)をアンジュレータの途中に設置し、シケインの上流と下流のアンジュレータ磁場を独立に変えることで2つの波長でレーザーを発振させること、つまり、2色XFELの発振に成功しました(図2)。シケイン上流のアンジュレータでは1色目の波長を持つ光パルスを、シケイン下流のアンジュレータでは2色目の波長の光パルスをそれぞれ発振させ、独立した異なる波長の2つの光パルスを生成します。また、電子ビームはシケインで迂回するため、迂回量を制御することにより1色目の光パルスと2色目の光パルスの時間差を0~40フェムト秒の範囲で変えることができます。

図3はSACLAで実現した2色XFELのスペクトル例です。2つのパルスのピークパワーは約4 GWに達し、アンジュレータの台数を変えることでパルス間の強度比を調整することも可能です。図4は上流のアンジュレータから出る1色目のエネルギーを11.4 keVに固定し、下流のアンジュレータの磁場を変えることで2色目の波長を変化させた時の様子を示しています。SACLAでは、磁場の制御範囲が大きい真空封止型の可変ギャップアンジュレータを採用しているため、2色の波長間隔を相対的に30 %以上離すことができます。

また、2色XFELでは、2つの光パルスを異なる方向へ放射させることも可能です。図5では、シケイン下流の電子ビーム軌道を変えることにより2色目の光軸を変え、2色の光を空間的に分離して発生させています。このようなX線光源はこれまで例がなく、アンジュレータ内の上下に設置されている磁石列の位置や電子ビーム収束用電磁石位置を、サブミクロンの精度で電子ビーム軌道に合わせることができるSACLAならではの成果です。これにより、異なる方向から異なる波長のX線パルスを試料に同時照射し、多波長回折像を同時に得るなど、新しい実験手法が可能になります。

今後の期待

従来の実験で使われてきたX線パルスと可視光パルスの組み合わせではなく、2色XFELの2つのX線パルスを用いることにより、これまで観測できなかった現象の解明が期待できます。また、2色XFELでは、2パルス間の時間差を高精度で制御できるため、フェムト秒の高精度な時間分割測定が可能になります。

さらに、例えば、タンパク質の構造解析における多波長回折像測定や原子内核励起を用いた小型X線レーザー光源の原理検証実験、X線非線形光学現象の観測など、新しい実験手法が2色XFELを用いることで可能になるため、物理、化学、生物学、材料学など幅広い分野への応用が期待できます。

原論文情報

  • Toru Hara, Yuichi Inubushi, Tetsuo Katayama, Takahiro Sato, Hitoshi Tanaka, Takashi Tanaka, Tadashi Togashi, Kazuaki Togawa, Kensuke Tono, Makina Yabashi, Tetsuya Ishikawa.
    "Two-colour hard x-ray free-electron laser with wide tunability"
    Nature Communications, 2013,doi:10.1038/ncomms3919

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 加速器研究開発グループ 先端ビームチーム
チームリーダー 原 徹 (はら とおる)

お問い合わせ先

放射光科学研究推進室
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. SACLA
    理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL(X-ray Free-Electron Laser)施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で建設・整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。諸外国の同様の施設と比べて大きさが数分の1と、コンパクトであるにも関わらず、 0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有している。
  2. 硬X線領域
    光子エネルギーが軟X線よりも高い(波長が短い)領域のX線。一般的に5 keVより高い領域を指し、SACLAの現状の光子エネルギー範囲4〜20 keVは、硬X線領域にあたる。
  3. 線型加速器
    電子銃から放出された電子ビームを、RF電磁場を用いて加速する直線型加速器。サイン波であるRF電磁場を用いるため、電子ビームは連続ではなく、バンチと呼ばれる電子の集団ごとにパルス的(間欠的)に加速される。
  4. アンジュレータ
    NとSの極性を交互に反転させた永久磁石列を上下に並べた装置。電子ビームが上下の磁石列の間を通過するとき、アンジュレータの周期磁場によって電子ビーム軌道は左右にうねり放射光を発生する。XFELでは、さらにアンジュレータ内で放射光と電子ビームを相互作用させることにより電子と光の間のエネルギー交換が生まれ、放射光を増幅することでX線領域のレーザー光を得る。また上下の磁石列間のギャップ距離を変えると磁場が変化するため、レーザー光の波長を調整することができる。
  5. 大型放射光施設「SPring-8」
    兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring 8GeVに由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、偏向電磁石やアンジュレータによって進行方向を曲げた時に発生する、角度発散の小さい強力な電磁波のこと。

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 SACLAの真空封止可変ギャップアンジュレータ写真

図1 SACLAの真空封止可変ギャップアンジュレータ

SACLAの通常運転では、全長約120 mの真空封止アンジュレータを使って0.6~3 オングストローム(Å;4~20 keV)の波長範囲で、実験に最適な1波長を選びレーザーを発振させている。

概念図

図2 SACLA 2色XFELの概念図

シケインを全長約120 mのアンジュレータの途中に設置し、シケインの上流と下流のアンジュレータ磁場(K1、K2)を独立に変えることで、2つの波長のレーザーを発振させる。上流側アンジュレータでは1色目の光パルスを、下流側では2色目の光パルスを生成。2パルス間の時間間隔は、シケインの4台の偏向電磁石で電子ビームの迂回量を変えることで、0~40フェムト秒の範囲で調整可能。

スペクトル図

図3 2色XFELのスペクトル

2つのパルスのピークパワーは約4 GWに達した。アンジュレータの台数を変えることでパルス間のピークパワーを相対的に調整することもできる。

2色XFELの波長可変性

図4 2色XFELの波長可変性

1色目のX線パルスの波長を11.4 keVに固定し、下流側アンジュレータの磁場(K2)を変えることで2色目のX線パルスの波長(光子エネルギー)を変化させている。

2色の2つのパルスを異なる光軸上に放射したときの光プロファイル

図5 2色の2つのパルスを異なる光軸上に放射したときの光プロファイル

アンジュレータ下流端から約100 m離れたスクリーンで測定。上図(a)はシケイン下流側の電子ビーム軌道を水平方向に10マイクロラジアン(マイクロ:10-6、1ラジアン:約57.3°)、下図(b)は垂直方向に10マイクロラジアン変化させ、2色目のX線パルス(9.7 keV)を空間的に分離。

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