広報活動

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2015年7月27日

理化学研究所

身長や認知機能の個人差を生じる新しいメカニズムを発見

-ヒトゲノムにおけるホモ接合度が影響-

要旨

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター統計解析研究チームの岡田随象客員研究員(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝子学分野 テニュアトラック講師)らの共同研究チームが参加する国際共同研究プロジェクト「ROHgenコンソーシアム[1]」は、ヒトゲノム配列におけるホモ接合度の程度が、身長や呼吸機能、学業達成度、認知機能の個人差に影響を与えることを明らかにしました。

ヒトゲノム配列において共通したゲノム配列を父親・母親の双方から受け継いでいる状態をホモ接合といい、ゲノム全体に占めるホモ接合の割合をホモ接合度といいます。一般的な集団においてホモ接合度の程度には個人差があることが知られていますが、それがヒトの形質(遺伝によって伝えられる性質や特徴)に与える影響については明らかになっていませんでした。今回、ROHgenコンソーシアムは世界中の100以上の研究施設から集められた複数人種・35万人以上のサンプルを対象に、ホモ接合度がヒトのさまざまな形質に与える影響を網羅的に調べる大規模なヒトゲノム解析を実施しました。共同研究チームは約3万人のサンプル解析を担当しました。35万人以上のサンプル解析の結果、ホモ接合度の程度が、身長、呼吸機能(一秒量)、学業達成度、認知機能スコアに対して有意な影響を与えることが明らかになりました。さらに、ホモ接合度の程度が大きくなるにつれて、これらの形質の計測値が共通して小さくなることが分かりました。これらの研究成果は、ヒトゲノム配列がヒトの形質に与える新しいメカニズムの発見と考えられます。

本研究は、文部科学省が推進するオーダーメイド医療の実現プログラムの支援のもと行われました。成果は、英国の科学雑誌『Nature』(7月23日付け:日本時間7月24日)に掲載されました。

※共同研究チーム

理化学研究所 統合生命医科学研究センター
副センター長 久保 充明(くぼ みちあき)

統計解析研究チーム
チームリーダー 鎌谷 洋一郎(かまたに よういちろう)
客員研究員 岡田 随象(おかだ ゆきのり)(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝子学分野 テニュアトラック講師)
客員研究員 高橋 篤(たかはし あつし)

東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター シークエンス技術開発分野
准教授 松田 浩一(まつだ こういち)

背景

ヒトの遺伝的背景を決定するゲノム配列には個人差がありますが、同じ人種集団や血縁関係が近いほど、ゲノム配列の多様性が似通っていることが知られています。共通したゲノム配列を父親・母親の双方から受け継いでいる状態をホモ接合といい、ゲノム配列全体に占めるホモ接合の割合をホモ接合度といいます。血縁関係が近い家系内においてはホモ接合度の程度が大きくなることが知られていますが、ホモ接合度の程度がヒトのさまざまな形質(遺伝によって伝えられる性質や特徴)にどのような影響を及ぼすかは分かっていませんでした。

2013年、ホモ接合度の程度がヒトの形質に与える影響を網羅的に調べる大規模なヒトゲノム解析を実施するために、世界中の100以上のゲノム解析施設で構成された国際共同研究プロジェクト「ROHgenコンソーシアム」が結成されました。そして今回、コンソーシアムを通じて得られた複数人種・35万人以上のサンプルが解析対象になり、理研統合生命医科学研究センター統計解析研究チームを中心とする日本の共同研究チームは、オーダーメイド医療の実現プログラムを通じて得られた約3万人のサンプル解析を担当しました。

研究手法と成果

各サンプルのヒトゲノム配列におけるホモ接合度は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)[2]などを通じて取得された、ゲノム全体を網羅する一塩基多型(SNP)[3]ジェノタイプデータ[4]に基づき推定しました。約35万人におけるホモ接合度の程度の個人差と、身体計測値(身長・肥満(Body Mass Index; BMI)・ウエスト比)、血液検査値(血糖値・ヘモグロビンA1c値・インスリン値・コレステロール値・中性脂肪値)、生理学検査値(血圧・呼吸機能検査値(一秒率・一秒量))、社会学的因子(学業達成度・認知機能スコア)の個人差との関連を解析しました。

その結果、ホモ接合度の程度が、身長、呼吸機能(一秒量)、学業達成度、認知機能スコアに対して統計学的に有意な影響を与えることが明らかとなりました。これまでの研究により、特定の遺伝子領域におけるSNPの組み合わせがこれらの形質に影響を与えることが知られていましたが、本研究でホモ接合度の影響が明らかになったことは、ヒトゲノムがヒトの形質に与える新しいメカニズムの発見と考えられます。

また、ホモ接合度の程度が大きくなるにつれて、身長、呼吸機能(一秒量)、学業達成度、認知機能スコアの計測値が共通して小さくなる方向に影響が認められました()。

今後の期待

本研究により、一般的な集団におけるホモ接合度の個人差がヒトの形質に与える影響が明らかになりました。特に、学業達成度や認知機能などは、これまでのヒトゲノム解析手法では遺伝的背景の関連の解明が難しく解析が進んでいませんでした。今後は、ホモ接合度との関連が指摘された形質を対象に、ヒトゲノム配列のどの部分がホモ接合の状態であると影響が大きくなるのかを調べることにより、具体的な感受性遺伝子領域の同定に繋がると期待できます。

原論文情報

  • Peter K. Joshi, Tonu Esko, Hannele Mattsson, Niina Eklund, Ilaria Gandin, Teresa Nutile, Anne U. Jackson, Claudia Schurmann, Albert V. Smith, Weihua Zhang, Yukinori Okada, Alena Stančáková, Jessica D. Faul, Wei Zhao, Traci M. Bartz, Maria Pina Concas, Nora Franceschini, Stefan Enroth, Veronique Vitart, Stella Trompet, Xiuqing Guo, Daniel I. Chasman, Jeffery R. O'Connel, Tanguy Corre, Suraj S. Nongmaithem, et al., "Directional dominance on stature and cognition in diverse human populations", Nature, doi:10.1038/nature14618

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 統計解析研究チーム
客員研究員 岡田 随象 (おかだ ゆきのり)
(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 疾患多様性遺伝子学分野 テニュアトラック講師)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. ROHgenコンソーシアム
    ROHgenは、Runs of homozygosity genetics consortium の略。ホモ接合度がヒトの形質に与える影響を網羅的に検討する目的で結成された国際コンソーシアム。米国ハーバード大学およびブロード研究所が主体となる形で、世界中の100以上のゲノム解析施設で構成されている。日本からは理研統合生命医化学研究センター統計解析研究チーム(鎌谷洋一郎チームリーダー)を中心とした共同研究チームが参画している。
  2. ゲノムワイド関連解析(GWAS)
    GWASは、Genome-Wide Association Studyの略。疾患の感受性遺伝子を見つける代表的な方法。ヒトゲノムを網羅した数百万~1,000万の一塩基多型を対象に、対象サンプル群における疾患との因果関係を評価できる。2002年に世界で初めて理化学研究所で実施された手法であり注1)、以後世界中で利用されている。
    注1)Ozaki K et al. Nature Genetics, 2002, doi:10.1038/ng1047
  3. 一塩基多型(SNP)
    ヒトゲノムの個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。代表的なものとして、ヒトゲノム塩基配列上の一カ所が変化して生じる一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism; SNP)がある。
  4. ジェノタイプデータ
    実際のサンプルから得られたヒトゲノム配列データの総称。個人間で異なるヒトゲノム配列部位を対象にデータ化されている。

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ヒトゲノムのホモ接合度がヒト形質に与える影響の図

図 ヒトゲノムのホモ接合度がヒト形質に与える影響

複数人種・35万人を対象に、ヒトゲノムにおけるホモ接合度がさまざまな形質に与える影響を解析した。ホモ接合度の程度が大きくなるほど、学業達成度・認知機能スコア・身長・呼吸機能(一秒量)といった形質に対して、計測値が小さくなる方向に影響があることが明らかになった。

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