広報活動

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2015年10月15日

理化学研究所
大阪市立大学
熊本大学
兵庫教育大学
生理学研究所

小児慢性疲労症候群患児の脳活動状態を明らかに

-注意配分時に広範囲の前頭葉を過剰活性させてしまう-

要旨

理化学研究所(理研)ライフサイエンス技術基盤研究センター健康・病態科学研究チームの渡辺恭良チームリーダー、水野敬上級研究員らと、大阪市立大学、熊本大学、兵庫教育大学、および生理学研究所との共同研究グループは、小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome) [1]の患児の脳では、注意配分(2つ以上のことを同時に遂行すること)を行う際に前頭葉が過剰に活性化し、非効率な脳活動状態となっていることを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)[2]を使って明らかにしました。

CCFSは3ヶ月以上持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害を伴う病気であり、不登校の児童・生徒の多くが発症しています。CCFSによる記憶や注意力の低下は学校生活への適応を妨げている可能性があることから、子どもの疲労と脳機能の関係の解明が期待されています。共同研究グループはこれまで小・中学生を対象に、平仮名で書かれた物語を読ませ、母音の拾い上げと物語の内容理解の同時処理を要求する仮名拾いテスト[3]と呼ばれる注意配分課題(二重課題)を実施し、同時に行った疲労度調査との関連について検討を行ってきました。その結果、CCFS患児の成績は健常児より低く、また健常児でも疲労を強く感じている状態では成績が低くなることを明らかにしました。しかし、注意配分機能が低下している脳内で何がおきているのかは分かっていませんでした。

共同研究グループは、CCFS患児15名と健常児13名を対象に、二重課題および一重課題(母音拾い上げ、または内容理解のどちらか一方)遂行中の脳活動状態をfMRIで測定しました。その結果、CCFS患児と健常児、いずれも、二重課題遂行中は一重課題遂行中に比べて前頭葉の一部である脳の左側の下前頭回背側部と頭頂葉の一部である左側の上頭頂小葉が活性化していました。つまり、これら2つの脳部位が、二重課題の遂行に必要な脳領域であることが示されました。次に疲労と脳の活性化の関係を調べたところ、疲労している健常児は、二重課題遂行中に左下前頭回背側部をより強く活性化させていることが分かりました。一方、CCFS患児と健常児を比較すると、CCFS患児では一重課題と二重課題いずれの時も右中前頭回が特異的に活性化し、活性度は物語の内容理解度と正の相関関係にあることが分かりました。さらに二重課題においては右中前頭回に加え、前帯状回背側部と左中前頭回も特異的に活性化することも分かりました。このことから、CCFS患児は過剰に神経を活動させて脳の情報処理を行っているために、さらに疲労が増強していることが懸念されます。前頭葉の過活動の抑制がCCFSの症状の緩和につながる可能性など、CCFSの病態の解明や治療法の開発への貢献が期待できます。

本研究成果はオランダのオンライン科学雑誌『Neuroimage: Clinical』(9月10日付け)に掲載されました。

※共同研究グループ

理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門
イメージング応用研究グループ 健康・病態科学研究チーム
チームリーダー 渡辺 恭良(わたなべ やすよし)(ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長)(大阪市立大学大学院医学研究科システム神経科学 特任教授)
上級研究員 水野 敬(みずの けい)(大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座 特任講師)

大阪市立大学大学院 医学研究科システム神経科学
講師 田中 雅彰(たなか まさあき) (理研 健康・病態科学研究チーム 客員研究員)

熊本大学大学院生命科学研究部
小児発達学分野・名誉教授 三池 輝久(みいけ てるひさ)(兵庫県立リハビリテーション中央病院子どもの睡眠と発達医療センター 特命参与)
小児科学分野・助教 上土井 貴子(じょうどい たかこ) 

兵庫教育大学 大学院学校教育研究科
教授 松村 京子(まつむら きょうこ)

生理学研究所 心理生理学研究部門
教授 定藤 規弘(さだとう のりひろ)

背景

慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎)は原因不明の疲労・倦怠感により半年以上も正常な社会生活が送れなくなる病気で、主に20~50代の成人で患者が多いことが知られています。一方、小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome)は不登校児童・生徒に多く存在し、3ヶ月以上の持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害などの症状が現れます。小児の疲労は学力の低下と関連し、CCFSに伴う記憶や注意力の低下が学校生活への適応を妨げている可能性があることから、CCFSにおける疲労と脳機能の関係を解明し、有効な治療法を開発することが課題となっています。

疲労により低下する作業処理能力の一つとして、注意配分機能(2つ以上のことを同時に遂行する能力)が挙げられます。これは、共同研究グループが実施した「仮名拾いテスト」による先行研究で明らかとなりました。仮名拾いテストは、被験者となる小・中学生に平仮名で書かれた物語を読んでもらい、テキストに含まれる母音を拾い上げながら、物語の内容を理解するという同時処理能力を測るための注意配分課題(二重課題)です。この成績が、CCFS患児および疲労している健常児で低いことを発見しましたが注1, 2)、その注意配分機能低下に関する脳内での情報処理メカニズムは解明されていませんでした。そこで、CCFS患児と健常児を対象に、二重課題および一重課題(母音拾い上げ、または内容理解のどちらか一方)遂行中の脳活動をfMRIで測定し、疲労・慢性疲労が注意配分機能に及ぼす影響の脳内メカニズムを検討しました。

注1)Mizuno, K., Tanaka, M., Fukuda, S., Imai-Matsumura, K. and Watanabe, Y.: Relationship between cognitive functions and prevalence of fatigue in elementary and junior high school students. Brain Dev., 33(6): 470-479, 2011.

注2)Tomoda, A., Mizuno, K., Murayama, N., Joudoi, T., Igasaki, T., Miyazaki, M. and Miike, T.: Event-related potentials in Japanese childhood chronic fatigue syndrome (CCFS). J. Pediatr. Neurol., 5: 199-208, 2007.

研究手法と成果

共同研究グループは、CCFS患児15名(平均13.5歳、女児6名、男児9名)と健常児13名(平均12.2歳、女児9名、男児4名)を対象に、仮名拾いテスト遂行中の脳活動状態をfMRIで測定しました。実際には、健常児においては、13名に対し1年間隔で計3回の測定を行いました(13名×3回=のべ39名としてデータを解析)。CCFS患児、健常児ともに、fMRI試験実施前にチャルダーの疲労スケール[4](11項目の質問票)により直近の数週間の疲労度(疲労スコア)を算出しました。

本研究で用いた仮名拾いテストの概要を図1に示します。課題は、母音の拾い上げと内容の理解を同時に課す二重課題、2種類の一重課題(母音の拾い上げ、または内容理解)、および、対照実験としてのボタン押し課題(コントロール課題)の計4つで構成されています。

コントロール課題は、ボタンを押すという行為そのものや、単純な視覚刺激処理に関する脳領域(運動野と視覚野)の活動の影響を除くために設定しました。例えば、「母音」の一重課題処理に関わる脳活動は、「母音の一重課題のfMRI像」-「コントロール課題のfMRI像」の差により評価しました。さらに、「母音+内容」の二重課題に関する特異的な脳活動は、「母音+内容の二重課題のfMRI像」―「(母音の一重課題+内容の一重課題)のfMRI像」の差により評価しました。

CCFS患児と健常児のいずれも、二重課題では、一重課題に比べて前頭葉の一部である脳の左側の下前頭回背側部と、頭頂葉の一部である左側の上頭頂小葉がより活性化しました。このことから、これら2つの脳部位が、仮名拾いテスト遂行に必要な領域であることが分かりました(図2)。

次に、健常児における脳活動と疲労の関係を調べました。その結果、疲労スコアが高いほど左側下前頭回背側部の活動度が高く、また物語の内容理解度が乏しい場合も活動度が高いことが分かりました(図3)。これは、疲労していると脳の活動が活性化するものの、それが課題成績(内容の理解度)には結びつかないことを示します。

一方、CCFS患児と健常児の脳活動を比較すると、二重課題および、一重課題のいずれにおいても、CCFS患児では右中前頭回が特異的に活性化することが分かりました(図4)。そして、この活性度は内容理解度と正の相関関係にあることも分かりました(図5)。さらに、二重課題においては、右中前頭回に加え、前帯状回背側部と左中前頭回も健常児に比べ、特異的に活性化していました。つまり、健常児の場合は疲れていても疲れていなくても、注意配分時に左下前頭回のみの活性で情報処理するのに対し、CCFS患児の場合は右中前頭回と前帯状回背側部を活性化させ、内容の理解度を高めようとすることが分かりました。しかしながら、これらの過剰な神経活動は、非効率的な前頭葉の活動状態を示すだけでなく、精神的な負荷となってさらなる疲労増強の原因となりえることが懸念されます。

今後の期待

fMRIを用いてCCFS患児の脳の活動状態を測定した研究はこれが世界で初めてであり、CCFS患児は、疲労により脳が活動しにくくなっているというよりも、脳の機能低下を補うためにむしろ脳を過剰に活動させていると考えられます。今後、健常児の疲労およびCCFSにおける慢性疲労により引き起こされる前頭葉の過活動が、疲労回復または治療的介入により低減、消失するかどうか研究を続けていきます。また、注意欠陥多動性障害など注意の制御機能に関わる症状を持つ小児疾患に対しても本fMRI試験を実施し、治療効果も視野に入れた応用研究が可能と考えられます。

原論文情報

  • Kei Mizuno, Masaaki Tanaka, Hiroki C. Tanabe, Takako Joudoi, Junko Kawatani, Yoshihito Shigihara, Akemi Tomoda, Teruhisa Miike, Kyoko Imai-Matsumura, Norihiro Sadato and Yasuyoshi Watanabe, "Less efficient and costly processes of frontal cortex in childhood chronic fatigue syndrome.", Neuroimage: Clinical, doi: 10.1016/j.nicl.2015.09.001

発表者

理化学研究所
ライフサイエンス技術基盤研究センター 生命機能動的イメージング部門 イメージング応用研究グループ 健康・病態科学研究チーム
チームリーダー 渡辺 恭良 (わたなべ やすよし)(センター長)
上級研究員 水野 敬 (みずの けい)

水野 敬

お問い合わせ先

理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター
広報・サイエンスコミュニケーション担当 山岸 敦 (やまぎし あつし)
Tel: 078-304-7138 / Fax: 078-304-7112

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. 小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome)
    有病率は0.2~2.3%といわれ、不登校の児童・生徒に多く存在し、3ヶ月以上の持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害などの症状を特徴とする。
  2. 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)
    MRI(磁気共鳴画像法)の一種で、脳内の酸素濃度に依存して変化する信号(BOLD信号)を捉え画像化することで、脳血流や脳神経活動の変化を同定する手法。1990年代初頭に日本の小川誠二博士がBOLD信号変化の現象を発見して以来、非侵襲的にヒトの脳機能を解明するツールとして利用が拡大した。
  3. 仮名拾いテスト
    ひら仮名で書かれたテキストから、一定時間内に母音のみを抽出する作業を行うテスト。早期認知症のスクリーニングとして開発されたが、近年では前頭葉の機能や注意機能の検査としても広く用いられる。
  4. チャルダーの疲労スケール (Chalder Fatigue Scale)
    ここ数週間の精神的疲労と身体的疲労を調べるため心理尺度。原典は英語であるが、日本語版チャルダーの疲労スケールを用いた。「活力がないと思うことは?」や「なかなか集中できないことは?」など11項目の質問で構成され、4段階(3, 強い疲労~0, 疲労なし)で回答を求める調査法である。

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fMRI試験課題の概要

図1 fMRI試験課題の概要

【二重課題】(母音+内容)課題では、ディスプレイに呈示される言葉の中に母音が含まれていれば右のボタン、含まれていなければ左のボタンを押しつつ、物語の内容も理解してもらう。内容の理解度は、20個の言葉を提示した後に提示される4つの質問で評価した。

【一重課題】(母音)課題では、呈示される言葉に母音があるかないかのみの判断を行い、左右のボタンで回答する。(内容)課題では、次々と呈示される言葉から物語の内容を理解する。

【コントロール課題】
左右のボタンを交互に押す作業のみを行う。

二重課題遂行中でより活性化する脳部位の図

図2 二重課題遂行中でより活性化する脳部位

二重課題では、一重課題に比べて前頭葉の一部である脳の左側の下前頭回背側部と、頭頂葉の一部である左側の上頭頂小葉がより活性化した。

疲労スコア、内容の理解度と左下前頭回背側部の活動レベルの相関関係の図

図3 疲労スコア、内容の理解度と左下前頭回背側部の活動レベルの相関関係

左側下前頭回背側部の活動は疲労スコアが高いほど高く、また物語の内容理解度が乏しい場合もその活動が高いことが分かった。

課題遂行中にCCFS患児でより活性化する脳部位の図

図4 課題遂行中にCCFS患児でより活性化する脳部位

二重課題および、一重課題のいずれにおいても、右中前頭回が特異的に活性化することが分かった。

CCFS患児における右中前頭回の活動レベルと内容の理解度との相関関係の図

図5 CCFS患児における右中前頭回の活動レベルと内容の理解度との相関関係

右中前頭回の活性度は内容理解度と正の相関関係にあることも分かった。

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