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2016年5月20日

理化学研究所

機能性ポリマーの新しい合成法を開発

-副生成物を出さない高効率的な合成が可能に-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループの侯召民グループディレクター、西浦正芳専任研究員、侯有機金属化学研究室の石暁超特別研究員らの研究チームは、希土類[1]触媒を用いて、ジメトキシベンゼン[2]とジエン化合物から、副生成物を一切出さずに、ジメトキシベンゼンとさまざまな炭化水素骨格が交互に連結した新しい「交互共重合体[3]」を合成する手法を開発しました。

性質の異なる複数のモノマーが交互につながっている交互共重合体は、特異な機能を発揮できる重要な機能性ポリマーとしてさまざまな分野で応用されています。現在、これらのポリマーは主に重縮合反応[4]によって合成されています。しかし、重縮合反応では事前にハロゲンやホウ素など反応性の高い官能基を持つ原料が必要であり、また、原料と同量の副生成物を生じるという問題がありました。

一方、ジアルコキシベンゼンを持つポリマーは、スマートフォンやノートパソコンなどで使われる「リチウムイオン電池[5]」の過充電防止機能を発揮することが期待されていますが、これらを合成するためには複雑な多段階反応を用いる必要があります。そのため、ジアルコキシベンゼンを持つポリマーを効率的に合成する手法の開発が求められていました。

研究チームはこれまで、希土類触媒を用いた有機合成やポリマー合成反応について研究を進めてきました。今回、希土類触媒を用いてジアルコキシベンゼンの1種である、ジメトキシベンゼンとジエン化合物を反応させることにより、副生成物を一切出さずに、ジメトキシベンゼンとさまざまな炭化水素骨格が交互に連結した新しい共重合体を合成することに成功しました。

今後、この手法を用いることで、リチウムイオン電池の過充電防止機能を発揮するさまざまなポリマーの合成が期待できます。

本研究は、米国化学会(ACS)誌『Journal of the American Chemical Society』のオンライン版(5月5日)に掲載されました。

背景

性質の異なる複数のモノマーが交互につながっている「交互共重合体」は、特異な機能を発揮できる重要な機能性ポリマーとしてさまざまな分野で応用されています。現在、これらの機能性ポリマーは主に金属触媒を用いたカップリング反応による重縮合反応によって合成されています。しかし、この手法では事前にハロゲンやホウ素など反応性の高い官能基を持つ原料が必要であり、また、原料と同量の副生成物を生じるという問題点がありました。

一方、ジメトキシベンゼン、特に2位、5位がアルキル化されたジメトキシベンゼンユニット(図1)は、4V付近でレドックスシャトル[6]として機能し、リチウムイオン電池の過充電防止剤として機能します。このユニットを含むポリマーを合成するためには、モノマー合成を含めて多段階反応が必要であり、より簡便なポリマー合成手法の開発が求められていました。

研究手法と成果

研究チームはこれまで、希土類金属触媒を用いてメトキシベンゼン化合物などのアニソール類と二重結合を持つ炭化水素であるオレフィン類を反応させて、副生成物を一切出さない、アニソール類のアルキル化反応の開発を進めていました注)。この研究過程でジメトキシベンゼンと炭素―炭素二重結合を2つ持つジエン類を70℃に加熱して反応させたところ、アルキル化反応が連続して起こり、完全な交互共重合体を選択的に生成できることを発見しました。

さらに詳しく検討したところ、スカンジウム触媒を用いた場合はジメトキシベンゼンとノルボルナジエンとの交互共重合反応が選択的に進行し、イットリウム触媒を用いた場合はジメトキシベンゼンとジビニルベンゼンとの交互共重合が選択的に進行することが明らかとなりました(図1)。この手法を用いることで、入手が容易な原料から副生成物を一切出さずに、極性基[7]であるジメトキシベンゼンと非極性基[7]であるさまざまな炭化水素骨格が交互に連結した、新しい共重合体の合成が可能となりました。

注)Oyamada, J.; Hou, Z. Angew. Chem. Int. Ed. 51, 12828.(2012)

今後の期待

研究チームは、希土類触媒を用いてジメトキシベンゼンとジエン化合物から、副生成物を一切出さずに新しい交互共重合体を合成することに成功しました。この交互共重合体には、2位、5位がアルキル化されたジメトキシベンゼンユニットが含まれており、新しいリチウムイオン電池の過充電防止剤の開発への展開が期待できます。

原論文情報

  • Xiaochao Shi, Masayoshi Nishiura, and Zhaomin Hou, "C-H Polyaddition of Dimethoxyarenes to Unconjugated Dienes by Rare Earth Catalysts", Journal of the American Chemical Society, doi: 10.1021/jacs.6b03859

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民 (コウ・ショウミン)
専任研究員 西浦 正芳 (にしうら まさよし)

主任研究員研究室 侯有機金属化学研究室
特別研究員 石 暁超 (シー・シャオチャオ)

侯グループディレクター、石特別研究員、西浦専任研究員の写真 左から侯グループディレクター、石特別研究員、西浦専任研究員

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.希土類
    元素の周期表で第3族にある、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)と原子番号57のランタン以下のランタノイド族の計17元素のこと。
  • 2.ジメトキシベンゼン、ジアルコキシベンゼン
    ジメトキシベンゼンは、ベンゼン環にメトキシ基(-OCH3)が2個結合した化合物。ジアルコキシベンゼンは、ベンゼン環にアルコキシ基(-OR)が2個結合した化合物で、ジメトキシベンゼンも含まれる。
  • 3.交互共重合体
    2種類のモノマーが交互に並んだ共重合体。
  • 4.重縮合反応
    複数の化合物が、互いの分子内から水や塩などの小分子を取り外しながら結合(縮合)し、それらが連鎖的につながって高分子が生成(重合)すること。
  • 5.リチウムイオン電池
    充電式の電池の1種。正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで、充電・放電を行う。正極にリチウム酸化物、負極に炭素化合物を用いる。電解液には有機溶媒にリチウム塩を溶解した非水溶液が使われるのが一般的である。ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池よりも、小型化・軽量化がしやすく、電力が大きい。スマートフォンやノートパソコン、デジタルカメラなどの電源として普及している。
  • 6.レドックスシャトル
    酸化および還元可能な電荷移送種が、負極と正極との間で電荷を繰り返し輸送すること。ジアルコキシベンゼンは4V付近で酸化還元活性があり、ひとたび充電電位が一定の値に到達すると、リチウムイオンに代わり、負極と正極との間で電荷を繰り返し輸送し過充電を防止できる。
  • 7.極性基、非極性基
    極性とは電荷が正・負にそれぞれに偏ることで、極性を持つ基を極性基と呼ぶ。互いに結合している原子の電気陰性度の差が大きい場合に極性が現れ、主な極性基として、アミノ基(-NH2)、カルボキシル基(-COOH)、水酸基(-OH)、アルコキシ基(-OR)などがある。一方、炭素原子(C)と水素原子(H)のみで構成される炭化水素基は極性を持たず、非極性基と呼ぶ。
希土類触媒によるジメトキシベンゼンとジエン化合物の交互共重合反応の図

図1 希土類触媒によるジメトキシベンゼンとジエン化合物の交互共重合反応

ジメトキシベンゼンとジエン化合物(ノルボルナジエン、ジビニルベンゼン)の交互共重合反応が希土類触媒存在下、70℃に加熱するだけで起こる。希土類金属を適切に使い分けることで、2位、5位(赤線で示した位置)がアルキル化されたジメトキシベンゼンユニットを持つさまざまな交互共重合体の選択的な合成が可能である。原子効率は100%なので、副生成物が一切出ない。生成物は、極性基のメトキシ基(-OCH3)を含む芳香族ユニットと非極性の炭化水素骨格からなる重合体である。

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