広報活動

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2016年9月1日

理化学研究所

生体親和性の高いバイオプラスチック

-土壌細菌から組織工学で有用な新しい材料を開発-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター酵素研究チームの沼田圭司チームリーダー、チャヤティップ・インソムファン特別研究員、ジョアン・チュア特別研究員らの共同研究チームは、土壌細菌のRalstonia eutrophaR. eutropha)を用いて、水酸基(-OH)を持つジヒドロキシブタン酸(DHBA)からなる生体親和性の高いポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の生産に成功しました。

PHAは微生物が体内に蓄積するバイオプラスチック[1]の一種で、生物が栄養不足時に備える炭素およびエネルギーの貯蔵物質です。PHAは生分解性などの特性があるため、石油由来のプラスチックの代替材料として注目されています。また、細胞への毒性が低く生体親和性が高いことから、再生医療などの組織工学の分野で細胞増殖の足場となる材料として用いられています。

今回、共同研究チームは、より生体親和性の高いPHAの生産を目指しました。そして、R. eutrophaの遺伝子を改変し、炭素源としてグリコール酸を与えることにより、新しいバイオプラスチック「PHBVDB」の生産に成功しました。PHBVDBは、従来のバイオプラスチックと比較して高い親水性[2]と細胞接着性を示し、細胞への毒性もほとんどみられませんでした。親水性の高さは、細胞増殖の足場となる材料には重要な要因の一つです。

今後、PHBVDBの親水性を調節することにより、細胞接着性や生分解性などの物性が、さらに向上すると期待できます。

本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」(研究開発責任者:沼田圭司)の支援を受けて実施されました。

本成果は、米国の科学雑誌『ACS Biomaterials Science & Engineering』に近日掲載予定です。

※共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター
酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)
特別研究員 Chayatip Insomphum(チャヤーティップ・インソムファン)
特別研究員 Jo-Ann Chuah (ジョアン・チュア)

株式会社カネカR&D企画部GPグループ
グループリーダー 古川 直樹 (ふるかわ なおき)
研究員 小林 新吾 (こばやし しんご)

背景

バイオプラスチックの一種であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、微生物が栄養不足時に備えて生産する炭素やエネルギーの貯蔵物質です。PHAは生分解性などの特性があるため、石油由来のプラスチックの代替材料として注目されています。また、細胞への毒性が低く生体親和性が高いことから、主に組織工学の分野で、細胞の増殖や接着の足場となる材料として用いられています。

細胞は親水性のより高い材料表面に接着しやすく増殖しやすいため、細胞増殖の足場となる材料の表面の親水性の高さは細胞増殖にとって重要な要因の一つです。したがって、PHAをさらに優れた足場材料として利用するには、その親水性を調節することが必要とされています。

微生物が生産するPHAの代表的なモノマー(単量体)は3-ヒドロキシブタン酸(3HB)ですが、炭素源や培養条件、PHA生産株を調節することにより他のモノマー成分を持つコポリマー(共重合体)を生産できます。共同研究チームは、水酸基(-OH)を持つことで親水性が高まることが期待されるジヒドロキシブタン酸(DHBA)に注目し、より生体親和性の高いバイオプラスチックの開発を目指しました。

研究手法と成果

共同研究チームはまず、PHA生産菌として用いられている土壌細菌「Ralstonia eutrophaR. eutropha)」にDHBAモノマーの取り込みを促進させるため、乳酸利用菌のプロピオン酸CoAトランスフェラーゼ(pct)遺伝子を導入し、PHA生産関連遺伝子を改変した株を作製しました。

次に、このPHA生産関連遺伝子を改変した株を用いてグリコール酸から生産されたPHAの性質を評価するため、生産されたPHAのモノマー組成比をプロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法[3]で解析しました。その結果、PHA生産関連遺伝子改変株は3HB・3-ヒドロキシ吉草酸(3HV)・DHBAからなる新しいPHA「PHBVDB」を生産することが分かりました()。また、PHBVDBには、3 mol%のDHBAが組み込まれていました。

続いて、PHA生産関連遺伝子改変株からPHBVDBを抽出・精製してフィルムを作製しました。そして、このフィルムの表面の親水性・疎水性を評価するため水滴接触角[4]を測定した結果、PHBVDBフィルムは従来のPHAから作製したフィルムなどと比較して接触角が低く、親水性が高くなっていました。

また、PHBVDBの多孔質スポンジを相分離法[5]により作製し、その機械的特性を圧縮試験[6]で評価しました。その結果、従来のPHAよりも高い弾性率[7]を示しました。

さらに、PHBVDBの多孔質スポンジを足場として、ヒト間葉系幹細胞[8]を培養したところ増殖しました。また、細胞への毒性をLive/Deadアッセイ[9]を用いて評価した結果、死んだ細胞は観察されず、細胞形態の異常もみられませんでした()。

今後の期待

本研究で開発したPHBVDBは、組織工学における新しい生体材料につながると期待できます。今後、PHBVDBの親水性を調節することにより、細胞接着性や生分解性などの物性が、さらに向上すると考えられます。

原論文情報

  • Insomphun, C. Chuah, JA. Kobayashi, S. Fujiki, T. and Higuchi-Takeuchi, M. Morisaki, K. Toyooka, K. and Numata, K. , "Influence of hydroxyl groups on the cell viability of polyhydroxyalkanoate (PHA) scaffolds for tissue engineering ", ACS Biomaterials Science & Engineering, doi: 10.1021/acsbiomaterials.6b00279

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター バイオマス工学研究部門 酵素研究チーム
チームリーダー 沼田 圭司 (ぬまた けいじ)
特別研究員 Chayatip Insomphum (チャヤティップ・インソムファン)
特別研究員 Jo-Ann Chuah (ジョアン・チュア)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. バイオプラスチック
    原料として再生可能な生物(動物・植物)資源由来の物質からなる高分子材料。
  2. 親水性
    水への親和性を示す材料の特性。材料の親水性が増すと、材料表面へのタンパク質の吸着が増し、細胞の接着・増殖が可能となる。
  3. プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)法
    分子中の原子核の磁気双極子モーメントは、原子の化学結合の状態によってわずかに変化する。この変化(化学シフト)は、NMRシグナルの違いとなって検出できる。プロトン(1H)では、原子核の周囲を回転する電子が一つしかないため、離れた場所に存在する電子の作り出す磁場が化学シフトに大きな影響を与えることからプロトンNMR法は分子の構造決定に広く利用されている。
  4. 水滴接触角
    静止液体の表面が固体に接する場所で、液面と固体面とのなす角度。水滴接触角が65度以下の場合は親水性の表面であるとみなされ、65度以上の場合は疎水性の表面であるとされる。
  5. 相分離法
    有機溶媒を利用した相分離により、多孔質材料を調製する方法。多孔質の高分子材料を調製する際に用いられる。
  6. 圧縮試験
    サンプルに圧縮力を加えて材料の機械的性質を知る試験。
  7. 弾性率
    変形のしにくさを表す指標であり、数値が大きいほうがより歪みが小さい材料となる。
  8. ヒト間葉系幹細胞
    骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能を持つとされる細胞。骨、血管、心筋の再構築などの再生医療への応用が期待されている。
  9. Live/Deadアッセイ
    2種類の色素を利用して生細胞と死細胞を染色する手法。

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土壌細菌による新しいPHA(PHBVDB)の生産の図

図 土壌細菌による新しいPHA(PHBVDB)の生産

PHA生産関連遺伝子を改変した土壌細菌R. eutrophaに、グリコール酸を炭素源として与えることにより、新しいPHAであるPHBVDBが生産された。PHBVDBの多孔質スポンジ(左下画像)を足場としてヒト間葉系幹細胞を培養したところ、増殖した。また、細胞への毒性をLive/Deadアッセイを用いて評価した結果、死んだ細胞は観察されず、細胞形態の異常もみられなかった。右下画像の緑色蛍光は生きた細胞を示し、黒い部分はPHBVDBの多孔質スポンジである。どちらの画像でも、スケールバーは50マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)。

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