広報活動

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2016年9月26日

理化学研究所

新規セスキテルペン生合成遺伝子の発見

-麹菌二次代謝産物のアステロライド生合成の解明-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループの長田裕之グループディレクターと野田産業科学研究所らの共同研究グループは、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae、A. oryzae)が生産する「アステロライド」[1]生合成遺伝子の解析によって、新規セスキテルペン[2]環化酵素AstCを発見しました。

A. oryzaeは麹菌(こうじきん)、国菌(こっきん)とも呼ばれ、醤油、味噌、日本酒など日本の伝統的な発酵食品の生産に広く使われる糸状菌です。近年のゲノム解析の結果から、A. oryzaeは非常に多くの二次代謝産物の生合成遺伝子をゲノム中に保持していることが明らかになっています。また、最近A. oryzaeは「アステロライド」と呼ばれる抗腫瘍活性をはじめとしてさまざまな生物活性を持つ二次代謝産物を生産することが報告されました。アステロライドは、テルペン化合物[2]の一種であるセスキテルペン環化酵素により環状構造を形成した後にラクトン[3]が形成され、水酸化後にアリール酸[4]がエステル結合した化合物だと考えられています。しかし、その基本骨格の構造の形成に関わるセスキテルペン環化酵素の存在は知られていませんでした。

今回、共同研究グループは、A. oryzaeクロマチンリモデリング[5]因子の遺伝子破壊を行うことによって、アステロライドの高生産に成功しました。さらに、アステロライド生合成遺伝子群の単離にも成功し、単離した遺伝子群の中からセスキテルペン環化反応を担う可能性が考えられる遺伝子としてastCを予想しました。組換え酵素を調製し酵素反応を解析した結果、AstCが一般的なセスキテルペンの環化様式とは異なるメカニズムで環化反応を触媒する新規セスキテルペン環化酵素であることが分かりました。また、単離した遺伝子群のうちAstIとAstKは、環化されたセスキテルペンの脱リン酸化反応を触媒する新規酵素であることも分かりました。さらに、セスキテルペン環化産物へのアリール酸のエステル結合反応が、一般的にはアミド結合反応を触媒することが知られている非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)[6]によって起こることも明らかにしました。

今回、アステロライドの生合成遺伝子群より同定したAstCは、長い間機能が不明であった新規セスキテルペン環化酵素です。AstCと相同性を持つ遺伝子は糸状菌に広く存在していることから、本成果は新規生理活性テルペン化合物[2]の発見につながると期待できます。 本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific reports』(9月15日付け:日本時間9月16日)に掲載されました。

※共同研究グループ

理化学研究所 環境資源研究センター ケミカルバイオロジー研究グループ
グループディレクター 長田 裕之 (おさだ ひろゆき)

天然物生合成研究ユニット
ユニットリーダー 高橋 俊二 (たかはし しゅんじ)

野田産業科学研究所
研究所長 小山 泰二 (こやま やすじ)
研究員 篠原 靖智 (しのはら やすとも)

背景

ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae、A. oryzae)は、麹菌(こうじきん)、国菌(こっきん)とも呼ばれ、醤油、味噌、日本酒など日本の伝統的な発酵食品の生産に広く使われる糸状菌であり、長い年月をかけた育種により、毒性を持つ二次代謝産物[7]マイコトキシンの産生能を失ったと考えられています。実際に、アフラトキシン、アフラトレム、シクロピアゾン酸などのマイコトキシンについては、その非生産性のメカニズムが遺伝子レベルで明らかにされています。一方で、近年のゲノム解析の結果から、A. oryzaeが非常に多くの二次代謝産物の生合成遺伝子をゲノム中に保持していることが明らかになっています。そのため、A. oryzaeの生合成産物を明らかにすることは、麹菌のさらなる安全性向上に重要であると考えられます。また、生合成研究は、新しい生物活性物質の発見につながる可能性があります。

1975年にA. oryzaeの近縁種であるAspergillus parasiticusから二次代謝物として、「アステロライド」と呼ばれる化合物が発見され、抗腫瘍活性をはじめとしてさまざまな生物活性を持つことが知られています。アステロライドは、セスキテルペン環化酵素により環状構造を形成した後にラクトンが形成され、水酸化後にアリール酸がエステル結合した化合物と考えられています。しかし、その基本骨格の構造の形成に関わるセスキテルペン環化酵素の存在は知られていませんでした。

研究手法と成果

共同研究グループは、野田産業科学研究所が保有する約300のA. oryzae転写制御遺伝子破壊株ライブラリーを用いて、二次代謝物生産プロファイルを解析しました。そして、クロマチンリモデリング因子として知られるcclA遺伝子を破壊することによって、アステロライドが高生産されることを見出しました。

DNAマイクロアレイ解析[8]により、アステロライド高生産株で発現量が増加している遺伝子を探索したところ、一つの生合成遺伝子群を見出しました。各遺伝子をアステロライド高生産条件下で欠損させたところ、12遺伝子のうち、7つの遺伝子破壊株でアステロライド生産がみられなくなりました。これは、この遺伝子群がアステロライドの生合成に関与していることを示しています。7遺伝子の中には、既知のセスキテルペン環化酵素と高い相同性を示す遺伝子が存在せず、ハロ酸デハロゲナーゼ様加水分解酵素スーパーファミリー[9]に相同性を示すastC遺伝子産物は、ジテルペン環化酵素で保存されている機能ドメイン(領域)を持っていました。

そこで、大腸菌を用いて異種発現した酵素を使用して酵素反応を検討した結果、AstCが、脱リン酸化反応を伴わずにファルネシル二リン酸をドリマニル二リン酸に変換する活性を持つことを発見しました。一般的なセスキテルペン環化反応は、脱リン酸化反応に伴うカルボカチオン(正電荷を持つ炭素)の生成により反応が開始されます。しかし、今回発見したセスキテルペン環化酵素(AstC)は、プロトン付加(H+付加)によるカルボカチオン生成によって環化反応を開始する新規セスキテルペン環化酵素であることが示唆されました(図1上段)。

次に、アステロライド生合成には、ドリマニル二リン酸の脱リン酸化が必要であることから、ハロ酸デハロゲナーゼ様加水分解酵素スーパーファミリーに属する機能未知の酵素(AstIおよびAstK)が脱リン酸化反応に関与する可能性が考えられました。そこで、機能を解明するために、それぞれ大腸菌で異種発現した酵素を精製し反応を解析した結果、AstIおよびAstKによってドリマニル二リン酸が段階的に脱リン酸化され、ドリム-8-エン-11オールに変換されることが明らかになりました(図1下段)。

さらに、遺伝子破壊株の解析結果から、非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)と相同性を示すAstAが、アリール酸のエステル結合に関与している可能性が示唆されました。そこで、AstAを大腸菌で異種発現・精製した酵素を用いて検証を行った結果、安息香酸やパラヒドロキシ安息香酸などのアリール酸とセスキテルペンラクトンをエステル結合させる活性を持つことが明らかになりました(図2)。

今後の期待

本研究により、A. oryzaeの産生する二次代謝産物であるアステロライドの生合成遺伝子群を同定することができました。また、同定したアステロライドの生合成は三つの酵素からなる新規セスキテルペンの生合成経路や、NPRSによるセスキテルペンのエステル修飾などの酵素反応からなっていることを発見しました。

テルペン化合物は、抗腫瘍活性をはじめとするさまざまな生理活性を持つことで知られています。今回、アステロライドの生合成遺伝子より同定したAstCは、長い間機能が不明であった新規セスキテルペン環化酵素です。astCと相同性を持つ遺伝子は糸状菌に広く存在していることから、本研究成果は、新規生理活性テルペン化合物の発見につながることが期待できます。

原論文情報

  • Yasutomo Shinohara, Shunji Takahashi, Hiroyuki Osada, Yasuji Koyama, "Identification of a novel sesquiterpene biosynthetic machinery involved in astellolide biosynthesis", Scientific reports, doi: 10.1038/srep32865

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループ
グループディレクター 長田 裕之

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. アステロライド
    一部のAspergillus属糸状菌によって産生されることが知られている二次代謝産物であり、パラシチコリドとも呼ばれる。誘導体の一つである14-デアセチルアステロライドBは、各種がん細胞の増殖抑制活性を持つ。
  2. セスキテルペン、テルペン化合物
    テルペン化合物は、炭素5個のイソプレンを構成単位とする天然有機化合物の総称。セスキテルペンは、イソプレンが3個つながった炭素15個のファルネシル二リン酸から誘導される化合物。環化の様式によって多様な構造が存在する。
  3. ラクトン
    エステル基(-COO-)を環内に含む複素環式化合物の総称。
  4. アリール酸
    芳香族炭化水素にカルボキシ基(-COOH)が結合した化合物。安息香酸やその誘導体などはその一例。
  5. クロマチンリモデリング
    DNAとヒストンタンパク質からなるクロマチンの構造変化による遺伝子発現の制御機構。近年、このクロマチンリモデリングがカビの二次代謝産物生合成遺伝子の発現レベルに影響を及ぼすことが明らかにされている。
  6. 非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)
    二次代謝物の一種である非リボソームペプチドを生合成する酵素。複数の機能ドメインからなる巨大な多機能型酵素であり、リボソームを介さずにペプチド鎖を合成する活性を持つ。NRPS はnon-ribosomal peptide synthetaseの略。
  7. 二次代謝産物
    生物体を構成、維持する上で重要な物質を一次代謝物、生育に必ずしも必須ではない物質を二次代謝物と呼ぶ。微生物において、二次代謝物の生合成に関わる酵素遺伝子はゲノム中のある特定の領域に並んで存在している。
  8. DNAマイクロアレイ解析
    DNAマイクロアレイは別名DNAチップとも呼ばれ、数万に区切られたスライドグラスやシリコン基盤の上に、DNAの部分配列を高密度に固定化したもの。この実験器具を用いることにより、数万にも及ぶ遺伝子発現を一度に検出する解析のこと。
  9. ハロ酸デハロゲナーゼ様加水分解酵素スーパーファミリー
    タンパク質スーパーファミリーの一つ。タンパク質の機能の多くは明らかにされていないが、その一つに脱リン酸化活性が知られている。haloacid dehalogenase-like hydrolase superfamilyの直訳である。

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セスキテルペン(ドリム-8-エン-11オール)の新規生合成経路の図

図1セスキテルペン(ドリム-8-エン-11オール)の新規生合成経路

上段:今回発見された新規セスキテルペン環化酵素AstCによって、ファルネシル二リン酸はプロトン付加反応(H付加)によるカルボカチオンオン(正電荷を持つ炭素)生成によって環化反応を始め、ドリマニル二リン酸に変換された。
下段:その後、新規脱リン酸化酵素AstI、続いてAstKによって、それぞれ段階的に脱リン酸化され、ドリム-8-エン-11オールが生成された。

セスキテルペンのエステル修飾によるアステロライドの生合成の図

図2セスキテルペンのエステル修飾によるアステロライドの生合成

ドリム-8-エン-11オールは、数段階でラクトン化、水酸化され、セスキテルペンラクトン(トリヒドロキシコンフェルチフォリン)が形成される。AstAは、セスキテルペンラクトンの6位の水酸基と安息香酸(上)やパラヒドロキシ安息香酸(下)などのカルボキシル基をエステル結合させる活性を持ち、それぞれ対応したアステロライドが生合成される。

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