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2017年1月18日

理化学研究所

高アスペクト比シリコン貫通穴の作製技術

-フェムト秒ベッセルビームの最適化に成功-

要旨

理化学研究所(理研)光量子工学研究領域 理研-SIOM連携ユニットの杉岡幸次ユニットリーダーらの国際共同研究チームは、最適化した「フェムト秒ベッセルビーム[1]」(1フェムト秒は1,000兆分の1秒、10-15秒)を用いて、次世代の3次元シリコン大規模集積回路(SiLSI)の高集積化・高速度化につながる高品質・高アスペクト比[2]の「シリコン貫通穴(TSV)[3]」を作製する技術を開発しました。

電子機器の小型化・高密度集積化を実現するために3次元SiLSI実装技術の開発が急務の課題となっています。3次元SiLSI作製には、高品質・高アスペクト比のTSV作製技術が鍵になると考えられています。TSV作製には、現在、反応性イオンエッチングの一種であるボッシュ法[4]が一般的に用いられています。しかし、ボッシュ法ではエッチング速度が遅い、レジスト(保護膜)を用いたリソグラフィ[5]過程が必要になるといった問題があります。

今回、国際共同研究チームは、レジストを用いずに高品質な微細加工を高速で行うことができるフェムト秒レーザー[6]加工に着目しました。高アスペクト比加工を行うためにフェムト秒レーザー光を、微小な集光スポットが長い距離を伝搬するベッセルビーム(回折しない光)に整形・加工しました。さらに、伝搬するレーザー光の空間強度分布を最適化するために、フェムト秒ベッセルビームの形成過程で二段階構造の位相板[7]アキシコンレンズ[8]を組み合わせました。その結果、厚さ100マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)のSi基板へ、穴径~7μm、アスペクト比~15のサイドローブ(回折リング)による損傷の全くない高品質・高アスペクト比のTSV作製を実現しました。

本研究のフェムト秒ベッセルビームは、TSVの作製だけでなく、さまざまな基板の深穴加工や切断加工に応用することができます。

本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(1月18日付け)に掲載されます。

※国際共同研究チーム

理化学研究所 光量子工学研究領域 理研-SIOM連携研究ユニット
ユニットリーダー 杉岡 幸次 (すぎおか こうじ)

中国科学院(SIOM)上海光学精密機械研究所
准教授 フェイ・ヘ (Fei He)
教授 ヤ・チェン (Ya Cheng)

背景

電子機器の小型化・高密度集積化を実現するために、3次元シリコン大規模集積回路(SiLSI)実装技術の開発が急務の課題となっています。3次元SiLSI作製では、高品質・高アスペクト比の「シリコン貫通穴(TSV)」作製技術が鍵になると考えられています。半導体製造におけるアスペクト比とは、エッチングなどで基板上に形成されたパターンの深さと幅の比のことで、この値が大きいと加工が難しくなります。

TSV作製には現在、反応性イオンエッチングの一種であるボッシュ法が一般的に用いられていますが、エッチング速度が遅い、レジスト(保護膜)を用いたリソグラフィ過程が必要といった問題があります。

TSV作製では現状、穴径50マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)以下、アスペクト比10程度が要求されています。また将来的には、穴径10μm以下、アスペクト比5以上が要求されるようになります。しかし、レーザーから発振されるガウスビーム[9]をレンズで集光する従来のレーザー加工法では、集光したレーザー光の焦点深度の制約により、穴径が小さくなるほど深穴(ふかあな)加工が難しくなります。そのため、微細で高アスペクト比の深穴加工を行うには多くの課題が残っていました。

そこで国際共同研究チームは、レジストを用いずに高品質な微細加工を高速で行うことができるフェムト秒レーザー(1フェムト秒は1,000兆分の1秒、10-15秒)に着目しました。このフェムト秒レーザーをベッセルビーム(フェムト秒ベッセルビーム)にしてTSVの作製を試みました。ガウスビームは伝搬により直ちにビームが広がってしまいますが、ベッセルビームは微小な集光スポット(直径数μm程度)が長い距離(数mm以上)広がることなく集光径を保ったまま伝搬するという利点があります。

研究手法と成果

まず、国際共同研究チームは、アキシコンレンズ(円錐形状のレンズ)のみで生成した通常のベッセルビームを用いてTSV加工を行いました。厚さ50μmのシリコン(Si)基板に形成したTSVの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ほぼ加工壁面に傾斜のない高アスペクト比のTSVが形成されました。しかし、TSVの周辺に同心円状の損傷が生じることが分かりました(図1)。この損傷は、ベッセルビームのサイドローブ(回折リング)により発生したと考えられます。回折リングによる損傷は、回折リングエネルギー比(回折リングエネルギー/中心スポットエネルギー)を低減するほど減らすことができます。

そこで、回折リングエネルギー比を低減するために、二段階構造の位相板をアキシコンレンズと組み合わせ、フェムト秒ベッセルビームの空間強度分布を最適化することを考案しました。まず、位相板とアキシコンレンズを透過したレーザー光の3次元空間強度分布をシミュレーションすることにより、位相板のデザインを調整しました。

シミュレーションの結果、アキシコンレンズのみを用いた従来のベッセルビームでは、回折リングエネルギー比が15.6%と大きい値を示しました(図2a、2c)。一方、調整したデザインの位相板をアキシコンレンズと組み合わせると、回折リングエネルギー比を0.6%に低減できました(図2b、2d)。

続いて、シミュレーションにより調整したデザインをもとに、BK7という光学ガラス材料の基板に二段階構造の位相板を作製しました。実際に、この位相板によって最適化したフェムト秒ベッセルビームを用いて厚さ100μmのSi基板へTSV加工を施した結果、回折リング損傷の全くない高品質・高アスペクト比の TSV(穴径~7μm、アスペクト比~15(将来的に要求される性能の3倍))の高密度2次元アレイ(アレイ=配列)を作製することに成功しました(図3)。

一方、従来の位相板を用いないベッセルビームでも同様に、厚さ100μmのSi基板へのTSV加工を試みましたが、貫通穴は作製できませんでした。これは回折リングエネルギーがSi基板表面で多光子吸収[10]を起こし、Si基板内の深い領域で中心スポットが形成できないためだと考えられます。

今後の期待

最適化したフェムト秒ベッセルビームはTSVの作製だけでなく、さまざまな基板の深穴加工や切断加工に応用できると考えられます。また加工分野だけでなく、細胞レベルでタンパク質などの分布・動態を捉えるバイオイメージングや、レーザー光によって接触せずに微小物体を捕捉・操作するレーザートラッピングによる多重粒子捕捉など、広範な分野への応用が期待できます。

原論文情報

  • Fei He, Junjie Yu, Yuanxin Tan, Wei Chu, Changhe Zhou, Ya Cheng, and Koji Sugioka, "Tailoring femtosecond 1.5-μm Bessel beams for manufacturing high-aspect-ratio through-silicon vias", Scientific Reports, doi: 10.1038/srep40785 (2017)

発表者

理化学研究所
光量子工学研究領域 エクストリームフォトニクス研究グループ 理研-SIOM連携研究ユニット
ユニットリーダー 杉岡 幸次 (すぎおか こうじ)

杉岡 幸次ユニットリーダーの写真

杉岡 幸次

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. ベッセルビーム
    回折しない光のこと。集光した通常のガウスビームは伝搬により直ちにビームが広がるが、ベッセルビームはビームが広がることなく集光径を保ったまま伝搬する。ベッセルビームの空間強度分布は、第1種ベッセル関数で記述され、セントラルローブ(中心スポット)と複数のサイドローブ(回折リング)で構成される。
  2. アスペクト比
    広義には長方形の縦横比のこと。半導体製造におけるアスペクト比は、エッチングなどで基板上に形成されたパターンの深さと幅の比のこと。アスペクト比=深さ/幅 で表され、高アスペクト比はこの値が大きいことを表し加工が難しくなる。
  3. シリコン貫通穴(TSV)
    シリコン基板内部を垂直に貫通する穴のこと。現在の3 次元シリコン大規模集積回路(Si LSI)は、Si LSIチップを複数枚重ねて一つのパッケージにしたものである。従来、上下のチップ同士の配線はワイア・ボンディングで行われていたが、現在ではシリコン貫通孔に金属を充填したSi貫通電極により配線が行われている。TSVを用いることにより、3 次元Si LSIにおける金属配線の長さを縮小し、高密度化が可能になった。TSV はThrough Silicon Viaの略。
  4. ボッシュ法
    反応性イオンエッチングの一種。SF6ガスとC4F8ガスを交互に流し、高アスペクト比エッチングを可能にする。まずC4F8ガスを流すと、側壁がレジスト(保護膜)でコーティングされる。その後SF6ガスに切り替えると、底面のレジストが削られてSiが露出しSiがエッチングされる。側面のレジストがなくならないうちに、またC4F8ガスに切り替え、次のレジストを堆積する。これを繰返すことにより、高アスペクト比エッチングが実現される。
  5. リソグラフィ
    原版に描かれた半導体デバイスの回路パターンを、露光装置を介してシリコン基板上の薄膜に転写すること。
  6. フェムト秒レーザー
    パルス幅が数十~数百フェムト秒(フェムト=1x10-15)のレーザー。パルス幅が極めて短いため、非常に高いピークパワー(パルスエネルギー/パルス幅)を持ち、それを集光することにより容易に数十ペタワット/cm2(ペタ=1015)のピーク強度が得られる。
  7. 位相板
    光に位相差を与えるために、光学系内に入れる透明板のこと。
  8. アキシコンレンズ
    円錐形状のレンズ。アキシコンレンズを透過したレーザー光は、光軸を中心とする複数のポイントにライン状に集光する。理想的なベッセルビームを生成することは技術的に不可能だが、アキシコンレンズを用いるとビームの自己干渉効果により、微小な集光スポット(直径数μm程度)が長い距離(数mm以上)を伝搬する擬似的なベッセルビームを生成できる。
  9. ガウスビーム
    光学において、ビーム面内の強度分布が正規分布(ガウス特性)とみなせるレーザーなどの電磁波ビームのこと。
  10. 多光子吸収
    半導体や絶縁体のような材料では、その材料のバンドギャップ(電子が存在できないエネルギー帯)より小さい光子エネルギーの光を入射した場合、電子を励起できないため吸収は生じない。しかし、レーザー強度を大きくし単位時間あたりの光子密度を大きくていくと、束縛電子が複数の光子を同時に吸収してイオン化が生じる。このような非線形な吸収を多光子吸収と呼ぶ。フェムト秒レーザーはピーク強度が極めて高い(単位時間あたりの光子密度が極めて高い)ため、透明材料に対して効率よく多光子吸収を誘起できる。

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シリコン貫通穴(TSV)断面の画像

図1 シリコン貫通穴(TSV)断面の画像

厚さ50μmのシリコン(Si)基板に、従来のベッセルビームを用いて形成したTSV断面の走査型電子顕微鏡写真。ほぼ加工壁面に傾斜のない高アスペクト比のTSVが形成されているが、TSVの周辺(上側)に同心円状の損傷が生じている。

ベッセルビームの空間強度分布シミュレーションの図

図2 ベッセルビームの空間強度分布シミュレーション

上段のaとcは、アキシコンレンズのみで生成した従来のベッセルビームの空間強度分布。下段のbとdは、位相板とアキシコンレンズで最適化したフェムト秒ベッセルビームの空間強度分布。a、bの色分けはレーザー強度を示す。cとdの色分けは、ビーム軸方向において強度が最大となる地点でのビーム面内強度分布(赤)およびベッセルビームが生成されたビーム軸方向全域の平均のビーム面内強度分布(緑)を示す。従来のベッセルビームの回折リングエネルギー比が15.6%なのに対し、最適化したフェムト秒ベッセルビームでは0.6%に低減した。

位相板により最適化したフェムト秒ベッセルビームを用いて作製したTSVの画像

図3 位相板により最適化したフェムト秒ベッセルビームを用いて作製したTSVの画像

位相板により最適化したフェムト秒ベッセルビームを用いて、厚さ100μmのSi基板に作製したTSVの走査型電子顕微鏡写真。左はSi基板表面、中央はSi基板裏面、右は断面。回折リング損傷の全くない高品質・高アスペクト比の TSV(穴径~7μm、アスペクト比~15)の高密度2次元アレイを作製できた。

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