広報活動

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2017年5月23日

理化学研究所

木星オーロラの爆発的増光観測に成功

-「ひさき」「ハッブル」「ジュノー」の国際連携による成果-

要旨

理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター玉川高エネルギー宇宙物理研究室の木村智樹基礎科学特別研究員らの国際共同研究グループは、惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)[1]により、木星オーロラの爆発的増光を発見しました。さらに、ハッブル宇宙望遠鏡[2]木星探査機ジュノー[3]による観測データを組み合わせることで、木星周囲の広範な宇宙空間におけるエネルギー輸送機構の存在を示しました。

木星のオーロラは、木星周辺の宇宙空間からのガス[4]が木星磁場に沿って極域に降り込み、大気と衝突したときに発光します。このガスの一部は、木星の自転や磁場がエネルギー源となり何らかの過程により加速され、光速の99%以上の速度を得ると考えられています。しかし、エネルギーがどこからどのように輸送され、ガスがどのように加速されるのかは不明でした。先行研究では、木星から遠方の宇宙空間に何らかの過程で蓄積された電磁的なエネルギーが、突発的に解放され木星方向に輸送される過程で、ガスの加速やオーロラの励起が起こるという仮説が提案されていますが、実証はされていませんでした。

今回、国際共同研究グループはひさきによる木星の「連続監視」とハッブルによる「高解像度撮像」によって、数時間程度で爆発的に増光するオーロラを発見しました。そして観測結果から、オーロラの増光領域が木星極域の中緯度から低緯度に動いており、遠方の宇宙空間に高エネルギーのガスが出現し、その後、木星近傍に到達していることが分かりました。また、この爆発的増光の約15時間前に、ジュノーは木星へ伝搬する太陽風[5]が作る衝撃波[6]を検出しています。この時期、衛星イオの火山活動も活発でした。以上の観測から、木星の遠方に蓄積された火山ガスと木星磁場のエネルギーが、太陽風の衝撃波により解放され(磁場のエネルギーがガスに移動する)高エネルギーガスを生み出し、加速された高エネルギーガスが木星近傍へ輸送されたと解釈できます。これは、先行研究のエネルギー解放・輸送の仮説を強く支持するものです。

木星の周囲には、地下に液体の水の海があり地球外生命が存在している可能性がある氷衛星[7]があります。今回の発見は、これらの氷衛星の周辺へ高エネルギーガスが輸送されていることを示すことから、今後、この高エネルギーガスが氷衛星の生命環境に及ぼす影響を調査することで、地球とは全く異なる生命環境の理解につながると期待できます。

本研究成果は、5月20日(土)から25日(木)にかけて幕張メッセ国際会議場で開催される日本地球惑星科学連合学会のハイライト論文として、23日(火)9時に発表されます。また、米国の科学雑誌『Geophysical Research Letters, Special Issue Early Results: Juno at Jupiter』(5月25日付け:日本時間5月26日)に掲載されます。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 仁科加速器研究センター 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
基礎科学特別研究員 木村 智樹 (きむら ともき)

英国レスター大学 物理天文学部
リーダー ジョナサン・ニコルズ(Jonathan D. Nichols)

英国ランカスター大学 物理学部
博士課程学生 レベッカ・グレイ(Rebecca L. Gray)
講師 サラ・バッドマン(Sarah V. Badman)

情報通信研究開発機構 電磁波研究所 宇宙環境研究室
研究員 垰 千尋 (たお ちひろ)

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
助教 村上 豪 (むらかみ ごう)
助教 山崎 敦 (やまざき あつし)
太陽系科学研究系主幹 藤本 正樹 (ふじもと まさき)

東北大学 理学研究科
惑星プラズマ・大気研究センター
助教 土屋 史紀 (つちや ふみのり)

太陽惑星空間物理学講座
研究員 北 元 (きた はじめ)

東京大学 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻
講師 吉岡 和夫 (よしおか かずお)
教授 吉川 一朗 (よしかわ いちろう)

ベルギーリエージュ大学 天文地球物理海洋学部 惑星・大気研究室
教授 デニス・グローデント(Denis Grodent)

米国ジョンズホプキンス大学 応用物理研究所
研究員 ジョージ・クラーク(George Clark)

背景

木星は、地球の2倍以上の速度で自転しており、地球の約2万倍に相当する強力な磁場を持つ「回転磁化天体[8]」です。木星の衛星イオ[9]は、太陽系で最大クラスの火山を持ち、二酸化硫黄などの火山起源のガスを木星周辺に振りまいています。これらのガスの一部は、木星の自転や磁場をエネルギー源として加速され、最高で光速の99%以上の速度を得ると考えられています。また、この高エネルギーのガスは、氷衛星と呼ばれるエウロパ[7]ガニメデ[7]の表面で化学物質の合成などを引き起こします。エウロパやガニメデには、地下に液体の水の海と地球外生命が存在する可能性があります。

したがって、高エネルギーガスの加速や変動は、生命環境である氷衛星周囲の宇宙空間を理解する上で重要です。しかし、ガスを加速するエネルギーがどこからどのように輸送され、どのようにガスを加速するのかは不明でした。これは、木星周囲の宇宙空間を広範囲に、かつ連続的に観測できる機会が少ないことが原因でした。

先行研究では、木星から遠方の宇宙空間に何らかの過程で蓄積された電磁的なエネルギーが、突発的に解放され木星方向に輸送される過程で、ガスの加速やオーロラの励起が起こるという仮説が提案されていましたが、広範囲の連続観測の不足から実証はされていませんでした。

研究手法と成果

今回、国際共同研究グループは、地球を周回する異なる特性を持つ二つの宇宙望遠鏡である、惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)とハッブル宇宙望遠鏡を組み合わせ、オーロラの観測から、木星周囲の宇宙空間におけるガスの変動を広範囲かつ連続的に測定することに成功しました。さらに、木星探査機ジュノーの観測データを組み合わせることで、木星のエネルギー輸送機構を示しました(図1)。

まず、新型の惑星専用宇宙望遠鏡であるひさきを用い、半年以上の長期間にわたって、木星オーロラの変動を10分ごとに「連続監視」しました。また、ハッブル宇宙望遠鏡を用い、オーロラの形状を世界最高解像度で撮像し、オーロラと磁場を介して結合する広範囲の宇宙空間を「高解像度撮像」しました。これらのオーロラの形状や強度の変化は、木星磁場を介して結合する、広範な宇宙空間のエネルギー解放・輸送を反映する重要な情報です。

2016年5月、ひさきとハッブルは、木星極域の中緯度から低緯度に向かって、数時間程度で爆発的に増光するオーロラを発見しました。ひさきの連続監視は、オーロラの放射エネルギーが数時間で急激に増大し、1,500ギガワット(GW、1GWは10億ワット)のエネルギーに至った後、20時間程度をかけて減少することを明らかにしました。この1,500GWの増大は普段の放射エネルギーの約4倍に相当する、ひさきの観測史上最大の増大量です。また、ハッブルの撮像は極域の中緯度領域から増光が始まり、増光した領域が低緯度に拡大していくことを明らかにしました(図2)。

これらの観測から、木星の遠方100木星半径以内(1木星半径は71,492km、地球半径の約11倍)の赤道域[10]に高エネルギーのガスが出現し、数時間~20時間程度で木星方向に輸送されることが分かりました。この輸送の距離と時間は、毎秒400~800kmの速度に相当します。この高エネルギーガスは木星の磁場に沿って極域へ降下し、オーロラを爆発的に増光させたと考えられます。ひさきの観測において、赤道域で輸送された高エネルギーガスは、イオの火山ガスが濃密に滞留している6木星半径付近の領域に到達し、そこで周囲の火山ガスを100万℃以上に加熱することが明らかになりました。

一方、オーロラの爆発的増光の15時間前、ジュノーは木星へ伝搬する太陽風が形成する衝撃波を検出していました。また、この時期は衛星イオの火山活動も活発でした。これらのことから、木星遠方の100木星半径以内に大量に蓄積された火山ガスと木星磁場のエネルギーが太陽風によって解放される(磁場のエネルギーがガスに移動する)ことにより高エネルギーガスが生み出され、そのガスが木星まで輸送されたと考えられます。図3はひさきとハッブル、ジュノーの観測データを組み合わせることで示された、木星周囲の宇宙空間におけるエネルギー解放・輸送の模式図です。

一般に、木星などの地球よりも強い磁場を持ち高速自転する回転磁化天体では、磁場を介して天体が周囲の宇宙空間のガスを引きずります。そのため、天体が自転する方向の物質やエネルギーの流れが支配的です。一方で、天体に直接落下する方向のエネルギーや物質の輸送は、自転方向の流れに阻害されるため、実現が難しいと考えられていました。

しかし今回の観測結果は、木星遠方で蓄積されたエネルギーが高エネルギーガスとして、急速に木星方向に輸送されるという仮説を強く支持しています。これは、これまでの定説を覆し、回転磁化天体に直接落下する方向のエネルギー輸送が存在することを示す重要な結果です。中性子星など、その他の回転磁化天体にも普遍的に存在する過程と考えられます。

今後の期待

ジュノー探査機は、2016年7月から木星の極域を通る周回軌道に入りました。史上初めて、木星オーロラのすぐ上空において、磁場やガスを直接観測できることになります。ジュノーの観測と、ひさき、ハッブルの観測とをさらに連携させることで、本研究で発見されたエネルギーの解放の正確な位置や、エネルギー輸送を担うことができる物質・電磁場の正体が明らかになると期待できます。

惑星とその衛星は、生命にとって居住可能な貴重な環境です。木星では、氷衛星エウロパやガニメデの地下にある海が、生命居住可能環境である可能性があります。これらの氷衛星は、本研究で明らかにしたエネルギーの輸送経路上に存在します。そのため、このエネルギー輸送が氷衛星の環境にどのような影響を及ぼすかの調査に興味が持たれます。この調査は、地球とは全く異なる生命環境の理解を深め、私たち人類が持つ生命観を変える可能性があります。

原論文情報

  • T. Kimura, J. D. Nichols, R. L. Gray, C. Tao, G. Murakami, A. Yamazaki, S. V. Badman, F. Tsuchiya, K. Yoshioka, H. Kita, D. Grodent, G. Clark, I. Yoshikawa, and M. Fujimoto, "Auroral brightening at Jupiter observed by the Hisaki satellite and Hubble Space Telescope during approaching phase of the Juno spacecraft", Geophysical Research Letters, Special Issue Early Results: Juno at Jupiter, doi: 10.1002/2017GL072912

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
基礎科学特別研究員 木村 智樹 (きむら ともき)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  1. 惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)
    日本の宇宙航空開発機構(JAXA)が打ち上げた、世界初の惑星専用の宇宙望遠鏡。地上では観測することのできない惑星からの微弱な紫外線を長期間にわたって連続監視することで、惑星のオーロラや大気の仕組みを解明する。
  2. ハッブル宇宙望遠鏡
    世界最高解像度の撮像が可能な、米国の巨大な宇宙望遠鏡。銀河、恒星、惑星などから放射される紫外線の分布を撮像する。
  3. 木星探査機ジュノー
    史上初めて木星極域上空を探査し、太陽系で最も明るい木星オーロラの仕組みや、木星が形成された仕組みを解明するNASAの探査機。磁場やガスの測定器、紫外線や赤外線のカメラなどを搭載している。
  4. 木星周囲の宇宙空間からのガス
    木星の衛星イオから放出された二酸化硫黄などの火山性ガスは、木星周囲の宇宙空間に放出されたときに電離して、プラズマと呼ばれる電荷粒子の集団になっている。
  5. 太陽風
    太陽から放出され、毎秒数百kmから1,000kmの速度で惑星に吹き付ける高速のガス(プラズマ)の流れ。
  6. 衝撃波
    音速を超えて伝播する圧力波。波面の後方で媒質が圧縮され、温度・密度・圧力が上昇する。
  7. 氷衛星、エウロパ、ガニメデ
    木星の67個の衛星の中で、氷衛星は氷で覆われた衛星を指す。特にエウロパ、ガニメデの二つの氷衛星には、地下に液体の水の海「地下海」が存在すると考えられている。地下海の中には地球外生命が存在する可能性がある。
  8. 回転磁化天体
    強力な磁場を持って高速に自転している惑星や天体の総称。太陽系中では、木星、土星、天王星、海王星のガス惑星を指す。宇宙にある回転磁化天体の中でも、中性子星は究極的な存在で、木星の1012倍以上の強磁場を持ち、1秒以下で高速自転しているものもある。回転磁化天体は、磁場を介して周囲の宇宙空間のガスと結合し、ガスを引きずっている。そのため回転磁化天体の周囲のガスは、天体の自転方向の流れが支配的である。
  9. 衛星イオ
    木星の衛星の一つで、太陽系の天体中では最大クラスの火山を持つ。毎秒1トンの割合で、二酸化硫黄などのガスを、木星周囲の宇宙空間に放出している。木星から6木星半径(1木星半径71,492km)の位置で木星を周回している。
  10. 赤道域
    木星周辺の宇宙空間の中でも、木星の赤道付近の上空を指す。

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惑星分光観測衛星「ひさき」、ハッブル宇宙望遠鏡、木星探査機ジュノーの外観図

図1 惑星分光観測衛星「ひさき」、ハッブル宇宙望遠鏡、木星探査機ジュノーの外観図

左からひさき、ハッブル、ジュノーの外観図。本研究ではこれら3機の史上最大規模の連携によって、木星オーロラの爆発的増光を観測し、木星のエネルギー輸送機構の存在を示した。

木星オーロラの放射エネルギーの時間変動とそれに伴うオーロラ形状の変化の図

図2 木星オーロラの放射エネルギーの時間変動とそれに伴うオーロラ形状の変化

ひさき衛星によって連続監視された木星オーロラの放射エネルギーの時間変動(上)と、ハッブル宇宙望遠鏡によって撮像されたオーロラ形状の画像(下)。ひさきの通算142日目の観測において、オーロラの放射エネルギーが数時間で急激に増大し1,500ギガワットのエネルギーに至った後、20時間程度をかけて減少していることが分かる。このエネルギーの増大時、木星極域の中緯度帯には明るいオーロラが出現(増光の開始)し、その後、低緯度方向にオーロラが拡大した。

オーロラ観測から推定される木星のエネルギー解放・輸送過程の概念図

図3 オーロラ観測から推定される木星のエネルギー解放・輸送過程の概念図

本研究での観測により推定される木星のエネルギー解放・輸送の概念は以下の通り。
木星遠方(100木星半径以内)に大量に蓄積された火山ガスと木星磁場のエネルギーが、太陽風によって開放(磁場のエネルギーがガスに移動)され高エネルギーガスを生み出し、赤道域を木星まで輸送される。高エネルギーガスの輸送は、イオの火山ガスが濃密な領域(6木星半径)に到達する。輸送の最中、高エネルギーガスは木星磁場に沿って、極域へ降下していく。極域に到達した高エネルギーガスはオーロラを爆発的に増光させる。青-黄-橙-赤の色はガスが加速されて、高エネルギーになっていくことを示す。

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