広報活動

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2019年3月11日

理化学研究所
情報通信研究機構

タンパク質がゴルジ体内を輸送される仕組みが明らかに

-成熟する槽内に形成されるゾーンを移動しながら輸送される-

ポイント

理化学研究所(理研)光量子工学研究センター生細胞超解像イメージング研究チームの黒川量雄専任研究員、和賀美保テクニカルスタッフII、須田恭之客員研究員、中野明彦チームリーダー(光量子工学研究センター副センター長)、情報通信研究機構の小坂田裕子技術員、信藤(糀谷)知子技術員(研究当時)、原口徳子主任研究員の共同研究チームは、細胞の中でタンパク質がゴルジ体[1]内を輸送される仕組みを明らかにしました。

本研究成果は、タンパク質の輸送異常やその破綻による疾患メカニズムについての研究の発展につながると期待できます。

ゴルジ体は、小胞体[2]で新たに作られた多種多様なタンパク質(積荷タンパク質[3])を糖鎖などで修飾し、それぞれを働くべき場所へ輸送するという、細胞内タンパク質輸送の中心的な役割を担っています。しかし、そのゴルジ体の中をどのようにタンパク質が輸送されるかについてはいまだに議論が続いていました。

今回、共同研究チームは4Dライブセルイメージング[4]を用いて、ゴルジ体の槽成熟と積荷タンパク質の輸送を同時に可視化しました。その結果、積荷タンパク質は、ゴルジ体の「槽成熟」に伴って槽内に形成される領域(ゾーン)間を移動しながら輸送されることを明らかにしました。 本研究は、米国の科学雑誌『Journal of Cell Biology』の掲載に先立ち、オンライン版(3月11日付け:日本時間3月11日)に掲載されます。

※研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究S「可視化による膜交通の分子機構の解明と植物高次システムへの展開(研究代表者:中野明彦)」、同基盤研究S「ゴルジ体を中心とした選別輸送の超解像ライブイメージングによる完全解明(研究代表者:中野明彦)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読(領域代表者:清水重臣)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「ER exit siteでのGPIアンカー蛋白質選別輸送ゾーンの解析(研究代表者:中野明彦)」、同基盤研究C「細胞内新規膜構造形成の分子メカニズム(研究代表者:須田恭之)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「クロマチン機能を保証する核膜の構造と分子基盤(研究代表者:原口徳子)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「再構成とエピゲノム編集による初期胚核の機能性獲得機序の理解(研究代表者:山縣一夫)」による支援を受けて行われました。

背景

生命の基本単位である細胞の中では、多種多様なタンパク質がそれぞれ働くべき場所に運ばれて機能しています。ヒト、植物、酵母などの真核生物の細胞内にはさまざまな細胞小器官があります。その中でゴルジ体は、細胞内で作られる全タンパク質の約1/3を仕分けて目的地へと輸送するという重要な機能を担っています。

ゴルジ体は、複数の「槽」と呼ばれる膜で包まれた扁平な袋からなり、多くの生物種ではこの槽が数枚積み重なった層板構造をとっています。一方、出芽酵母[5]では、この槽が細胞内に散らばって存在しています。槽には方向性(極性)があり、小胞体で新たに作られたタンパク質(積荷タンパク質)が入ってくる側をシス槽、仕分けされて出て行く側をトランス槽、その中間をメディアル槽と呼びます。積荷タンパク質は、シス槽からトランス槽へと運ばれる間に、さまざまな酵素の働きにより糖鎖などの修飾を受けて、最終目的地へと運び出されていきます。

どのように積荷タンパク質がゴルジ体の中を運ばれるのか、その機構は長らく謎のままでしたが、大別して2つのモデルが立てられました。その一つが「小胞輸送モデル」で、このモデルではゴルジ体の槽は安定な区画で、その槽の間を小胞により積荷タンパク質が運ばれます。もう一つは、積荷タンパク質を保持しながら、槽がその性質をシス槽からトランス槽へと変えることにより輸送される「槽成熟モデル」です。

2006年に中野チームリーダーらは、細胞質に散らばって存在する出芽酵母のゴルジ体の槽を2色の蛍光タンパク質で標識し、4D(4次元;縦・横・高さ・時間)ライブセルイメージングすることで、ゴルジ体のシス槽がメディアル槽、トランス槽、さらにトランスゴルジ網(TGN)[6]へと徐々にその性質を変えていくことを明らかにし、ゴルジ体が「槽成熟」することを証明しました注1)。また、2016年には、ゴルジ体の槽成熟にCOPⅠ被覆タンパク質[7]の機能が必須であることも明らかにしました注2)

しかし、槽成熟による積荷タンパク質輸送モデルの証明には、ゴルジ体の槽が積荷タンパク質を保持しながら成熟することを示す、すなわち三つの異なる蛍光タンパク質でゴルジ槽と積荷タンパク質を標識して、ゴルジ体の槽成熟と積荷タンパク質を同時に可視化することが必要でした。

注1)2006年5月15日プレスリリース「細胞小器官ゴルジ体のタンパク質輸送の大論争に決着
注2)2016年9月2日プレスリリース「ゴルジ体槽成熟の分子機構を解明

研究手法と成果

これまでに、中野チームリーダーらは、多色・超解像・高速で蛍光イメージングが可能な「高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM」[8]を用いて、異なる時期のゴルジ体槽に局在するタンパク質をマーカーとして観察し、それぞれのマーカーが局在する領域(ゾーン)の大きさを変化させながら、前期の槽から後期の槽へと成熟することを明らかにしてきました注1,2)。しかし、蛍光タンパク質で標識したマーカーの観察では、これらのゾーンが実際に連続する一つのゴルジ体槽にあるのか、それとも離れたゴルジ体の槽にあるのかは分かりませんでした。

そこで、共同研究チームは、SCLIMと電子顕微鏡観察を組み合わせた「Live CLEM」により槽成熟を詳しく解析しました。SCLIMで観察した成熟進行中のゴルジ体の槽を固定し、ゴルジ体の膜構造を電子顕微鏡で観察しました。その結果、連続する一つのゴルジ体槽内に、異なる時期のゴルジ体槽のマーカーが別々に局在するゾーンが形成されることが分かりました。

次に、積荷タンパク質と異なる時期のゴルジ体槽のマーカー(2種)を計3色の蛍光タンパク質で標識し、ゴルジ体の槽成熟と積荷タンパク質の輸送を同時に可視化しました。その結果、積荷タンパク質は成熟する槽に保持され、槽の成熟によって、シス槽からトランス槽、TGNへと輸送されることが分かりました(図1)。さらに、積荷タンパク質はゴルジ体の槽内全体に存在するのではなく、ゴルジ体マーカーが局在するゾーン間を槽成熟に伴って移動することも分かりました(図1)。

次に、ゾーン間の移動がどのように制御されているかを調べるために、ゴルジ体槽間輸送に関わるCOPⅠ被覆タンパク質の機能が高温下で阻害される出芽酵母株を用いて、積荷タンパク質と異なる時期のゴルジ体槽のマーカーを4Dイメージングしました。その結果、COPⅠ被覆タンパク質機能が阻害されると、積荷タンパク質の成熟槽内のゾーン間移動が阻害されることが分かりました(図2)。以上の結果から、成熟槽に形成されるゾーン間の移動にもCOPⅠ被覆タンパク質が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

今後の期待

本研究では、3色同時4Dイメージングにより、どのようにタンパク質がゴルジ体の中で運ばれるかを明らかにし、ゴルジ体の槽成熟が積荷タンパク質輸送機構であることを示しました。

さらに、従来の槽成熟モデルでは、積荷タンパク質は成熟する槽内にただ留まっていると考えられていましたが、槽成熟とともに槽内に形成されるゾーン間を移動しながら輸送されることも明らかにしました(図3)。

タンパク質の最終目的地への輸送の破綻がさまざまな疾患の原因となっていると考えられています。今後、これらの疾患の原因ともなるタンパク質輸送の制御機構の研究が発展するものと期待できます。

原論文情報

  • Kazuo Kurokawa, Hiroko Osakada, Tomoko Kojidani, Miho Waga, Yasuyuki Suda, Haruhiko Asakawa, Tokuko Haraguchi, and Akihiko Nakano, "Visualization of secretory cargo transport within the Golgi apparatus", Journal of Cell Biology, 10.1083/jcb.201807194

発表者

理化学研究所
光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム
専任研究員 黒川 量雄(くろかわ かずお)
テクニカルスタッフⅡ 和賀 美保(わが みほ)
客員研究員 須田 恭之(すだ やすゆき)
チームリーダー 中野 明彦(なかのあきひこ)
(光量子工学研究センター 副センター長)

黒川 量雄専任研究員の写真

黒川 量雄

中野 明彦チームリーダーの写真

中野 明彦

情報通信研究機構 未来ICT研究所
フロンティア創造総合研究室 生物情報グループ
技術員 小坂田 裕子(おさかだ ひろこ)
技術員(研究当時) 信藤(糀谷) 知子(しんどう(こうじだに) ともこ)
(現慶應義塾大学)
主任研究員 原口 徳子(はらぐち とくこ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  1. ゴルジ体
    扁平な袋(槽;シスターナ)からなる細胞小器官の一つで、タンパク質の翻訳後修飾や仕分け、脂質の合成を行う。多くの生物種では、積み重なった層板構造をしている。積荷タンパク質を受ける側をシス槽、積荷タンパク質が仕分けされ出ていく側をトランス槽、その間の槽をメディアル槽と呼ぶ。
  2. 小胞体
    シート状またはチューブ状の膜からなる細胞小器官の一つ。リボソームが付着している粗面小胞体では、ゴルジ体に運ばれる積荷タンパク質の合成が行われる。
  3. 積荷タンパク質
    膜交通により運ばれるタンパク質の総称。リボソームが付着している粗面小胞体で作られる。
  4. 4Dライブセルイメージング
    生きた細胞内のさまざまな活動を4次元(縦・横・高さ・時間)で観察すること。細胞内の細胞小器官などを蛍光タンパク質で標識することにより、それらの変化の詳細を蛍光顕微鏡で観察できる。
  5. 出芽酵母
    パン酵母やビール酵母などと呼ばれる真核微生物で、出芽によって増えるのでこの名がある。細胞生物学や遺伝学実験のモデル生物として広く使われている。
  6. トランスゴルジ網(TGN)
    ゴルジ体トランス槽が成熟して形成される。TGNは、積荷タンパク質をそれぞれ固有の目的地へと選別輸送することに加え、細胞膜などからリサイクルされるタンパク質の選別も行う。
  7. COPⅠ被覆タンパク質
    ゴルジ体槽間の輸送、ゴルジ体から小胞体への逆行輸送に関わる輸送小胞の一つであるCOPⅠ小胞を包んでいるタンパク質。COPⅠ被覆タンパク質は、ゴルジ体間のチューブ形成への関与も示唆されている。
  8. 高感度共焦点顕微鏡システムSCLIM
    研究チームが独自開発した蛍光顕微鏡システム。ニポウディスク方式共焦点スキャナー、拡大レンズ、高性能のダイクロイックミラー、フィルターシステムによる分光器、冷却イメージインテンシファイアー(電子増倍管)と複数のEMCCDカメラシステムから構成される。複数蛍光の同時取得と高S/N比の蛍光画像取得が可能。SCLIMは、Super-resolution Confocal Live Imaging Microscopyの略。

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積荷タンパク質を保持したゴルジ体が成熟する様子の図

図1 積荷タンパク質を保持したゴルジ体が成熟する様子

SCLIMによる4Dライブイメージングによる5.6秒ごとのタイムラプス画像。上段は積荷タンパク質(緑;Axl2-GFP)、シス槽(赤;Mnn9-mcherry)、トランス槽(青;Sys1-iRFP)の3色、下段は積荷タンパク質のみの画像である。積荷タンパク質を保持したシス槽が、トランス槽へと槽成熟した。この際、新たに形成されたトランス槽マーカーのゾーンに、積荷タンパク質が移動することが見てとれる。格子の1辺は756ナノメートル(nm、1nmは100万分の1mm)である。

COPⅠ被覆タンパク質の機能が阻害された出芽酵母株における積荷タンパク質の移動の図

図2 COPⅠ被覆タンパク質の機能が阻害された出芽酵母株における積荷タンパク質の移動

SCLIMによる4Dライブイメージングによるタイムラプス画像。上段は積荷タンパク質(緑;Axl2-GFP)、シス槽(赤;mRFP-Sed5)、TGN(青;Sec7-iRFP)の3色、下段は積荷タンパク質のみの画像である。高温下(37℃)で、COPⅠ被覆タンパク質機能が阻害された出芽酵母株(ret1-1)では、シス槽からTGNへの成熟が完全に阻害される。このとき積荷タンパク質は、ゴルジ槽内のシスゴルジマーカー局在ゾーンから移動しない。格子の1辺は378ナノメートル(nm、1nmは100万分の1mm)である。

積荷タンパク質のゴルジ体内輸送モデルの図

図3 積荷タンパク質のゴルジ体内輸送モデル

積荷タンパク質は、槽成熟とともに槽内に形成されるゾーン間を移動しながら輸送される。

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