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2010年5月21日

理化学研究所

国際薬理遺伝学研究連合、新たにぜんそくなど4つの共同研究を開始

-ファーマコゲノミクス研究によるオーダメイド投薬の実現へ-

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)ゲノム医科学研究センター(CGM、鎌谷直之センター長)と米国国立衛生研究所(NIH、フランシス・コリンズ所長)薬理遺伝学研究ネットワーク(PGRN、スコット・ワイス議長)およびNIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所:NIGMS、国立がん研究所:NCI、国立心臓・肺・血液研究所:NHLBI)は、2008年4月に創設した国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)において、2010年5月から、新たにぜんそくなど4件の共同研究を開始しました。

理研CGMは、個人に最適な疾患の診断・治療・予防や薬剤の投与を可能にするオーダーメイド(個別化)医療の実現に向けて、ゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法を用いて個人間の遺伝子の違い(ゲノム多様性)と疾患へのかかりやすさや薬剤の効果・副作用との関連を解明する研究を行っています。

一方、米国NIHの研究グループの連合体であるPGRNは、NIH所属の3研究機関NIGMS、NCI、NHLBIの協力を得て、体内における薬剤の作用や薬物動態と個人個人の遺伝子の相違との関係について研究を展開しています。

GAPでは、両者の研究能力や資源を基に効率的な連携研究を積極的に推進するとともに、フォーラムの開催などを通じた連携強化を図っています。2008年4月の設立時には、遺伝的要因の乳がん治療薬の有効性への影響に関する研究など5件の共同研究を開始し、同年11月には、ぜんそく治療薬への応答性に関する研究など5件の共同研究を、2009年12月には、うつ病などに関する研究など5件の共同研究を追加しました。今回、ぜんそくなどを対象に4件の共同研究を追加します。

すべての共同研究でGWASを行い、薬剤に関連する遺伝的要因を網羅的に解析し、取得したデータは、NIHの全米バイオテクノロジー情報センター内のデータベースであるdbGAPを通じて一般に広く公開し、研究成果を社会に還元しています。

GAPによる共同研究が進展し、ゲノム多様性と薬剤の効果や副作用との関連が明らかになると、個々の患者の体質に最適なオーダーメイド投薬や国際的な個別化ヘルスケアが実現するなど、臨床への応用が期待されます。

経緯

理研ゲノム医科学研究センター(CGM)は、個人間のわずかな遺伝子の違い(ヒトゲノムの多様性)であるSNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)と病気へのかかりやすさや薬剤の効果・副作用との関連を解明するために、世界に先駆けてゲノムワイド関連解析(GWAS)という手法を開発しました。このGWASを用いてゲノム多様性を網羅的に解析し、個人に最適な病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド(個別化)医療の実現に向けて、研究を推進しています。これまでに、心筋梗塞や糖尿病などの数多くの疾患関連遺伝子を同定するとともに、ゲノム多様性と薬剤への応答性との関連についても研究を実施しています。これまでに、大量・高精度な解析が可能なSNP解析システムを構築し、その解析能力を活かして、2002年には「国際ハップマッププロジェクト」(個人間の遺伝情報の違いを染色体上に示す「地図」作成プロジェクト)に参画し、単独機関として世界最大(全データの約25%)の解析を行ってSNP情報の世界的な標準化に貢献しました。国内においては、文部科学省委託事業「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト」(2003年開始)に中核機関として参画し、医療機関が収集した患者DNAと臨床情報を用いて、すべての疾患(47疾患)についてGWASによる解析を実施しています。また、医療の現場で簡便・高精度にSNP解析が可能な簡易迅速SNP解析システムを、凸版印刷株式会社、株式会社理研ジェネシスと共同で開発し、SNP解析技術の臨床応用を目指しています。

一方、米国NIHの研究グループの連合体である薬理遺伝学研究ネットワーク(PGRN)は、体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としています。

近年、ゲノム多様性と薬剤の効果や副作用との関連解明に向けたファーマコゲノミクス研究が進展しています。この新たな研究を促進して、オーダーメイド投薬を実現すべく、CGM、PGRNおよびNIHの日米の3研究機関 (NIGMS、NCI、NHLBI)は、2008年4月に「国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)」を設立し、5件の共同研究を開始 (2008年4月15日プレス発表)、同年11月には5件の共同研究を追加(2008年11月11日発表)、2009年11月にも5件の共同研究を追加(2009年12月16日発表)し、研究を展開してきました。今回、新たにぜんそくなど4件の共同研究を追加します。

共同研究(4件)の内容

今回、新たに追加する4件の共同研究(ぜんそく、急性骨髄性白血病、乳がん治療薬による骨折、うつ病)は、これまでに開始した共同研究と同様に、個人によって異なる薬剤への反応性と関連した遺伝要因を特定することを目的とします。各共同研究の長期的な目標は、一人一人の患者に最適な医療を行うための情報を医師に提供することです。

① ぜんそく

米国では2,700万人以上のぜんそく患者が存在し、治療に要する費用は1年当たり200億ドルと見積もられています。この費用の半分はぜんそくの治療薬に支払われる費用ですが、これらの治療薬は50%の患者で有効であり、現時点で効果を予測する方法がありません。この共同研究では、それぞれの患者に最適な薬剤を医師が選択することができるように、薬剤効果に関連する遺伝子多型の特定を目指します。

② 急性骨髄性白血病

ブスルファンという薬剤を用いた高用量化学療法は、急性骨髄性白血病患者の自己造血幹細胞移植時に用いられる治療法の1つです。ブスルファンの投与量が非常に多いため、それぞれの患者が持つブスルファンに対する薬剤処理能力のわずかな違いが、ブスルファンへの安全性と効果においては大きな違いとなって表れます。この共同研究では、医者が個人に適したブスルファンの投与量を事前に判断することを可能とするために、ブスルファンへの感受性と応答性に関連する遺伝子多型の特定を目指します。

③ アロマターゼ阻害剤による乳がん女性の副作用(骨粗鬆症、骨折)

アロマターゼ阻害剤は、一般的な乳がん治療薬の1つです。しかし、この薬剤はエストロゲンレベルを低下させて乳がんの進行・再発を抑える一方で、副作用として骨粗鬆症と骨折の危険性を増加させます。この共同研究では、何千人もの女性から集めたデータを用いて、アロマターゼ阻害剤による骨折のリスクに関連する遺伝子多型を特定します。この研究により、医師がこの遺伝子多型を持つ骨折のリスクが高い患者には阻害剤の使用を回避することが可能になります。また、女性の骨折のメカニズムに関する遺伝要因の理解を深めることで、将来の骨折予防薬の開発につながると考えられます。

④ うつ病

うつ病は、世界中で最も一般的な病気のうちの1つです。うつ病の治療に用いられる主要な薬剤は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)ですが、約50%の人には効果がありません。この共同研究では、大規模な研究者のコンソーシアムを通して集められるデータを分析することにより、SSRIの効果に影響する遺伝子多型を特定します。この研究から得られる成果は、医師がSSRIが有効な患者や副作用の危険性が高い患者を判別することを可能とします。

各機関概要

(1)ゲノム医科学研究センター(Center for Genomic Medicine: CGM)

2000年に遺伝子多型研究センターとして設立、ヒトゲノムの多様性を示すSNPを解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握することで、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド医療実現を目指した研究を行っている。2008年4月にゲノム医科学研究センターに改称した。

(2)米国国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)

1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。米国保健社会福祉省 (United States Department of Health and Human Services:HHS)傘下にあって、27の研究所やセンターから構成される。基礎から臨床までの広範囲な医学研究を実施または資金援助を行う。

(3)薬理遺伝学研究ネットワーク(Pharmacogenetics Research Network: PGRN)

NIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所、国立がん研究所、国立心臓・肺・血液研究所)が関与する研究グループの連合体。体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としている。PGRNの研究者は米国とカナダの研究機関から指名される。

(4)国立一般医学研究所(National Institute of General Medical Sciences: NIGMS)

米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関で、学術・医療研究機関の基礎医科学研究プログラムに資金提供を行うために設立された機関。PGRNの運営面と資金面について責任を負う。

(5)国立がん研究所(National Cancer Institute: NCI)

米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関。がんの原因究明、診断、予防、治療、がん患者およびその家族のケア、がんからのリハビリテーションなどに関する研究、人材育成、情報提供を実施し、またこれらの活動を行う機関へ資金援助を行う。

(6)国立心臓・肺・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute: NHLBI)

米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関。心・肺や血液の疾患、睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など)に関する原因究明、診断、予防、治療、研究、人材育成、情報提供、普及啓発活動を実施し、またはこれらの活動を行う機関へ資金援助を行う。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 ゲノム医科学研究センター
センター長 鎌谷 直之(かまたに なおゆき)
Tel: 045-503-9563 / Fax: 045-503-9562

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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