広報活動

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2014年5月22日

理化学研究所

国際がんゲノムコンソーシアムが新たながんゲノムデータ公開

-合計11,633症例のがんゲノムデータを公開-

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と国立がん研究センター(堀田知光理事長)など日本の6つの大学と4つの研究機関[1]が参加している、がんのゲノム変異カタログを作成するための国際共同プロジェクト「国際がんゲノムコンソーシアム」(International Cancer Genome Consortium:ICGC)は、2014年5月15日、16回目のデータ公開を行いました。今回、公開したのは1566症例で、日本からは50症例の肝臓がんの全ゲノムデータが公開されました。これにより、ICGC発足以来、日本からの452症例を含め、合計11,633症例のがんゲノムデータが公開されたことになります。

がん患者の数は、先進国、発展途上国を問わず世界中で急増しており、がんの早期発見や死亡者数の減少が人類社会にとって喫緊の課題となっています。がんのほとんどは、遺伝子の設計図であるゲノムに変異が生じて正常な分子経路が破綻し、無秩序な細胞増殖をきたして発症します。このことから、がんは「ゲノムの病気」であると言われています。また、特定のがんでは、特徴的なゲノム変異が認められることが明らかにされており、これらを標的とした分子標的薬が開発され実際に治療に広く使われています。このため、がんに生じているゲノム変異を網羅的に同定し、カタログ化することが、がんの新たな治療法や診断法、予防法を開発するための重要な基盤となります。

2008年に発足したICGC は、世界各国で臨床的に重要な50種類のがんを選定し、そのゲノム変異の全貌解明と包括的なカタログ化を目指して活動を行っています。2014年5月現在、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、南北アメリカの16カ国およびEUが参画しています。胆管、膀胱(ぼうこう)、血液、骨、脳、乳腺、子宮、大腸、眼球、頭頸部、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓(すいぞう)、前立腺、皮膚、軟部組織、胃、甲状腺といった部位ごとに、74の大規模ながんゲノム研究プロジェクトが進行中です。主要ながんのゲノム変異カタログが完成すれば、そのゲノム情報からがんの理解が進み、新しい治療法や診断法、予防法の開発、そして個別化医療への発展につながると期待できます。

背景

近年、がん患者の数は、先進国、発展途上国を問わず世界中で急増しており、その克服は人類共通の目的といえます。わが国においても、がんの発生・死亡者数が高齢化に伴い増加を続け、1981年に国民の死亡原因の第1位になっています(出典:厚生労働省 平成24年人口動態統計月報年計)。米国がん学会によると、2008年には全世界で約760万人ががんで死亡し1,200万人以上が新たにがんと診断され、がんの病態解明と克服に何らかの進歩が見られなければ、2030年には、がんによる死亡者数は1,320万人、罹患者数は2,140万人にまで増加すると予測されています(出典:Global Cancer Facts & Figures 2008 2nd Edition)。

がんは多数の病態を含みますが、ほとんどのがんで、遺伝子の設計図であるゲノム変異が生じます。その結果、正常な分子経路が破綻して無秩序な細胞増殖をきたすことから、がんは「ゲノムの病気」であると言われています。さらに、特定のがん腫では特徴的なゲノム変異が認められており、ゲノム変異を標的とした分子標的薬が開発され、さまざまながんに対して実際に多数使用されています。例えば、EGFR遺伝子のゲノム変異による肺がんにはイレッサなどのEGFR阻害薬を、Her2遺伝子のゲノム変異による乳がんにはHer2タンパク質に対する抗体薬ハーセプチンを投与する治療があります。

それぞれのがんにおいて、ゲノム変異がゲノムのどこで、どのようにして起きているかを網羅的に示し、それらのゲノム変異をカタログ化することは、がんに対する新しい治療法や診断法、予防法を開発するための重要な基盤となります。近年のDNAシーケンス(塩基配列解読)技術[2]の急速な進展に伴い、エクソーム解析[3]全ゲノムシーケンス[4]が容易に行えるようになり、さまざまなタイプのがんについて、ゲノム変異がどこでどのように生じているかを明らかにすることも視野に入ってきました。このような状況の中、世界各国で臨床的に重要ながんについて、国際協力によってそれらのゲノム変異の姿を明らかにする取り組みが「国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)」です。

「国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)」の概要

2008年に発足したICGCは、がんのゲノム変異の包括的なカタログを作成するという目的を達成するため、各プロジェクト間の調整(情報交換の促進、ゲノム解析作業の重複阻止など)を行う組織です。各プロジェクトでは、データ収集・解析に関するICGCの共通基準のもと、少なくとも1種類のがんについて500症例を解析し、データ化を行います。2014年5月現在、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、南北アメリカの16カ国およびEUの機関や組織が参画して、500億円以上の資金を集め、主要ながんの種類についての74の大規模ゲノム研究プロジェクトが進められています。

また、ICGCの各プロジェクトでは、共通の標準化されたインフォームド・コンセントのプロセスと倫理面での監視を行い、ICGC関連研究に参加する患者のプライバシーを保護しながらサンプルを収集保存することで同意しています。ICGCの各プロジェクトによる研究の公的意義を最大限にするため、得られたデータは全世界の研究コミュニティに迅速かつ無償で随時公開されます。さらに、各プロジェクト参加者は、ICGC研究から生じた1次データに対しての特許やその他の知的所有権の申請を行いません。

日本からは、理研と国立がん研究センターが中心となって、主にウイルス肝炎から発生する肝臓がんのゲノム解析を行っており、これまで合計452症例の網羅的ゲノムデータをICGCで公開しました。理研は208症例を担当しており、それら全ての症例は肝臓がんの全ゲノムデータになります 。

がん研究をより深く進めていくには、詳細な全ゲノムデータが望まれています。ICGCで公開している主なデータは、ゲノムの1~2%にあたるタンパク質をコードしているエクソン内でのデータです。より網羅性が高い全ゲノムデータはICGC内においてまだ1,000症例ほどで、ICGCが公開している全ゲノムデータの約20%を理研が占めていることになります。

ICGCで公開しているがんゲノムのデータをに示します。

今後の展望

DNA解析技術のさらなる進歩により、網羅性の高いがんの全ゲノムデータがさらに集積され、完全ながんゲノムの様相が明らかになると期待できます。ICGCプロジェクトの最終的な目標は、ヒトゲノムプロジェクトの25,000倍以上のがんゲノムデータの産出にあります。これらのデータは、世界中の全ての研究者にとって極めて貴重な情報源となります。今後、主要ながんのゲノム変異カタログの完成や、ゲノム情報を基盤としたがんの理解によって、新しい治療法や診断法、予防法の開発、さらには個別化医療への発展が期待できます。

ICGCの基本方針に係る事項については、ホームページ(英語)に掲載されています。

発表者

独立行政法人理化学研究所
統合生命医科学研究センター ゲノムシークエンス解析研究チーム
チームリーダー 中川 英刀 (なかがわ ひでわき)

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

補足説明

  1. 日本の6つの大学と4つの研究機関
    日本のICGC研究に関わる施設と代表研究者。
    • 理化学研究所 統合生命医科学研究センター(中川 英刀チームリーダー) 
    • 国立がん研究センター研究所(柴田 龍弘分野長)
    • 東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター(宮野 悟教授)
    • 東京大学 先端科学技術研究センター(油谷 浩幸教授)
    • 広島大学 医学部消化器内科(茶山 一彰教授)
    • 国立がん研究センター中央病院(小菅 智男副院長)
    • 和歌山県立医科大学 第2外科(山上 裕機教授)
    • 大阪府立成人病センター 消化器外科(左近 賢人院長)
    • 東京女子医科大学 消化器外科(山本 雅一教授)
    • 北海道大学 医学部消化器外科II(平野 聡教授)
  2. DNAシーケンス(塩基配列解読)技術

    2003年のヒトゲノム計画終了後、30億個のヒトゲノム配列情報を安価で高速に解読するための次世代シーケンサーが開発された。2014年においては、次世代シーケンサーによりヒトゲノム配列を約1,000ドル、1~2日の期間で解読することができるようになった。今後も、さらに高速で安価でより正確に解析できるDNAシーケンス技術が開発されてきており、個人の全ゲノムを解読する費用が数百ドルまで低下すると期待されている。

  3. エクソーム解析

    ヒトゲノム配列30億個の約1~2%を占めるタンパク質をコードする部分(エクソン)のみを特異的に捕捉して、次世代シーケンサーで解析を行う。ICGCにおいては、この解析によるデータが多くを占めている。

  4. 全ゲノムシーケンス解析

    ヒトゲノム配列30億個をほぼすべて解読する解析方法。がんの場合、がん細胞特異的に起きている変異を検出するため、がん組織からのDNAと正常組織からのDNA両方の全ゲノムを解読して、その差分をとる。全ゲノムシーケンスの場合、タンパク質をコードするエクソンだけでなく、遺伝子の発現を制御するゲノム領域の変異やさまざまな構造異常(大きなゲノム配列異常)も検出可能で、究極のゲノム解析手法である。

表:各国の解析対象となり、これまでデータ公開を行ってきたがんの種類

国名 解析担当となるがんの種類
アメリカ 膀胱がん白血病脳腫瘍乳がん子宮頸がん大腸がん頭頸部がん腎臓がん肝臓がん肺がん卵巣がん膵臓がん前立腺がん皮膚がん胃がん甲状腺がん子宮体がん
イギリス 白血病、骨肉腫、乳がん、食道がん
インド 口腔がん
オーストラリア 卵巣がん、膵臓がん
カナダ 膵臓がん、前立腺がん
サウジアラビア 甲状腺がん
スペイン 白血病
中国 胃がん
ドイツ 白血病、小児脳腫瘍、前立腺がん
日本 肝臓がん

2014年5月現在、アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、南北アメリカの16カ国およびEUの機関や組織が参画して、74の大規模ゲノム研究プロジェクトが進められている。表に示しているのはすでに公開されているがんゲノムデータ。http://dcc.icgc.org