広報活動

Print

2018年6月19日

理化学研究所

光による植物遺伝子の新たな発現制御機構を解明

-環境に順応しやすい作物の作出へ-

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター合成ゲノミクス研究グループの栗原志夫研究員、蒔田由布子研究員、松井南グループディレクターと、開拓研究本部岩崎RNAシステム生化学研究室の藤田智也大学院生リサーチ・アソシエイト、岩崎信太郎主任研究員らの研究チームは、光受容による植物の新たな遺伝子発現制御機構を解明しました。

本研究成果は今後、遺伝子発現方法の選択肢を広げ、環境に順応しやすい作物の作出につながると期待できます。

植物は土の中で発芽後、地上に芽を出し、光を受容することで形態形成を始めます。しかし、光受容によって起こる遺伝子発現の変動やその制御機構については、まだよく分かっていません。

今回、研究チームは暗所で発芽したシロイヌナズナを青色光下へ露光したときの転写開始点の位置をゲノム全域にわたって調べました。その結果、220個の遺伝子で、暗所において主要だった転写開始点の位置が下流[1]へと移行し、mORF(main open reading frame、タンパク質をコードする領域)より上流[1]に位置するuORF(upstream open reading frame)が読み飛ばされる現象を発見しました。つまり、暗所では主にuORFを含む遺伝子領域がメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され遺伝子発現が抑制されること、一方、青色光下への露光後は主にuORFを含まない遺伝子領域がmRNAに転写されることでuORFの抑制を免れ、遺伝子発現が促進されることが分かりました。

本成果は、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of AmericaPNAS)』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月18日の週)に掲載されます。

※研究チーム

理化学研究所
環境資源科学研究センター 合成ゲノミクス研究グループ
グループディレクター 松井 南(まつい みなみ)
研究員 栗原 志夫(くりはら ゆきお)
研究員 蒔田 由布子(まきた ゆうこ)
テクニカルスタッフI(研究当時) 川島 美香(かわしま みか)
開拓研究本部 岩崎RNAシステム生化学研究室
主任研究員 岩崎 信太郎 (いわさき しんたろう)
大学院生リサーチ・アソシエイト 藤田 智也(ふじた ともや)

※研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費 新学術領域研究(研究領域提案型)「植物発生ロジックの多元的開拓(領域代表:塚谷裕一)」、「新生鎖の生物学(領域代表:田口英樹)」および同 若手研究A「翻訳開始因子パラログによる選択的翻訳の網羅的解析(研究代表者:岩崎信太郎)」の支援を受けて実施されました。

背景

植物は土の中で発芽した後、地上に芽を出し、光を受容することで形態形成を開始します。植物が持っている青色光・赤色光・遠赤色光(赤色光よりも波長の長い光)に対する各受容体のうち、青色光に対する受容体は胚軸(発芽した苗の茎の部分)の伸長や花成形成時期の調節に重要な役割を果たします。光を受容した植物の内部では、ダイナミックに遺伝子発現が変動しますが、その変動や制御機構については、まだ多くの謎が残っています。

ゲノム上の遺伝子の情報(塩基配列)は、まずメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる分子に転写されます。そしてmRNAは細胞小器官の一つ、リボソームへと運ばれタンパク質に翻訳されます。

mRNA上には「ORF(open reading frame)」と呼ばれる領域があります。ORFには「mORF(main open reading frame)」と「uORF(upstream open reading frame)の2種類あり、mORFはタンパク質をコードする領域です。一方のuORFは、多くの遺伝子に見られる領域でmORFより上流に位置し、mORFの翻訳を阻害することが知られています(図1)。さらにuORFは、自身のmRNAがNMD[2](nonsense-mediated mRNA decay)と呼ばれるRNA品質管理システムにより選択的に分解されるための仕組みとして働くことも知られています。

これまでに、複数の転写開始点(塩基配列がmRNAに転写される際、最初に写し取られる塩基)を持つ遺伝子が存在することが分かってきていました。しかし、環境変化、特に光の受容において、どのように転写開始点の位置が変化するのか、そして、どのように転写開始点とuORFの位置関係が遺伝子発現に影響するのかについては全く分かっていませんでした。そこで今回、これらの点について調べることにしました。

研究手法と成果

研究チームは、暗所で発芽したシロイヌナズナを青色光下へ露光したときの転写開始点の位置を、CAGE法[3]を用いてゲノム全域にわたって調べました。その結果、220個の遺伝子において暗所で主要だった転写開始点の位置が下流へと移行し、uORFが読み飛ばされる現象を発見しました(図1)。つまり、これらの遺伝子からは、暗所では主にuORFを含む遺伝子領域がmRNAに転写されること、一方、青色光への露光後は主にuORFを含まない遺伝子領域がmRNAに転写されることが分かりました。そして、遺伝子特徴解析[4]の結果、これらの遺伝子の多くが、光応答時に働く重要な遺伝子であることが分かりました。

次に、リボソームプロファイリング法[5]を用いて各遺伝子のタンパク質への翻訳効率を調べました。その結果、青色光への露光によってuORFを読み飛ばすことで、220個の遺伝子の多くで翻訳効率が上昇する傾向がみられました。

さらに、NMDの機能低下変異体を作製し、各転写開始点に由来するmRNAの蓄積をCAGE法によって調べました。その結果、前述の220個の遺伝子のうち45個の遺伝子において、uORFより上流の転写開始点から転写されるmRNAの蓄積が野生型より多くなることが分かりました。これは暗所において、それらの遺伝子のmRNAがNMDによって選択的に分解されている可能性を示します。つまり、暗所では主にuORF含む遺伝子領域がmRNAに転写され、uORFが原因となりNMDによってmRNAが分解されるか、リボソームがuORFに停滞することでmORFの翻訳が阻害されます。その結果、遺伝子発現が抑制されます。一方で、青色光への露光後は、主にuORFを含まない遺伝子領域が分解されずにmRNAに転写され、mORFの翻訳が抑制されません。その結果、遺伝子発現がより促進することが分かりました(図2)。

今後の期待

本研究によって、植物が光応答時における転写開始点とuORFの位置関係によって遺伝子発現を調節する仕組みが明らかとなりました。この仕組みは、光応答に限らず、さまざまな環境への応答に利用されていると考えられます。

本研究成果は今後、遺伝子発現方法の選択肢を広げ、環境に順応しやすい作物の作出につながると期待できます。

原論文情報

  • Yukio Kurihara, Yuko Makita, Mika Kawashima, Tomoya Fujita, Shintaro Iwasaki, Minami Matsui, "Transcripts from downstream alternative transcription start sites evade uORF-mediated inhibition of gene expression in Arabidopsis", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 10.1073/pnas.1804971115

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 合成ゲノミクス研究グループ
研究員 栗原 志夫(くりはら ゆきお)
研究員 蒔田 由布子(まきた ゆうこ)
グループディレクター 松井 南(まつい みなみ)

主任研究員研究室 岩崎RNAシステム生化学研究室
大学院生リサーチ・アソシエイト 藤田 智也(ふじた ともや)
主任研究員 岩崎 信太郎(いわさき しんたろう)

松井南グループディレクター、栗原志夫研究員、川島美香、蒔田由布子研究員の写真岩崎慎太郎主任研究員の写真藤田智也大学院生リサーチ・アソシエイトの写真

左から松井南、栗原志夫、川島美香(写真中央)、蒔田由布子、岩崎慎太郎、藤田智也

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

産業利用に関するお問い合わせ

お問い合わせフォーム

このページのトップへ

補足説明

  1. 下流、上流
    ゲノム上で遺伝子の読まれる方向と同じ向きを下流、逆の向きを上流と呼ぶ。
  2. NMD
    変異による未成熟終止コドンを持つ異常なmRNAやuORFを持つmRNAを選択的に分解し、細胞内から除去するRNA品質管理機構のこと。NMDはnonsense-mediated mRNA decayの略。
  3. CAGE法
    理研が独自に開発した手法で、耐熱性逆転写酵素やmRNAのCap構造を捕捉する技術を組み合わせて転写産物の5'末端の塩基配列を決定する実験手法。この塩基配列を読み取ってゲノム配列と照らし合わせて、どこから転写が始まっているかを調べることができる。遺伝子の転写開始点をゲノムワイドに同定できる。Cap Analysis Gene Expressionの略。
  4. 遺伝子特徴解析
    ある遺伝子群の中に、どのような特徴を持つ遺伝子が多く含まれているのかを明らかにする解析のこと。
  5. リボソームプロファイリング法
    組織からリボソームを抽出し、リボソームと結合しているRNA配列を同定することにより、どの遺伝子がどの程度の効率で翻訳されているかを知る解析法。

このページのトップへ

転写開始点の位置の変化によるuORFの読み飛ばしの図

図1 転写開始点の位置の変化によるuORFの読み飛ばし

植物は光を受容すると遺伝子発現が変動する。そのときシロイヌナズナでは220個の遺伝子において、暗所で主要だった転写開始点の位置が下流へと移行(赤矢印)し、uORFが読み飛ばされる。黄化とは、暗所で植物を育てた際に色素が合成されずに淡色となること。

暗所および青色光への露光後の遺伝子発現の比較の図

図2 暗所および青色光への露光後の遺伝子発現の比較

左:暗所。主にuORFを含む遺伝子領域がmRNAに転写され、uORFが原因となりNMD(RNA品質管理システム)によってmRNAが分解されるか、リボソームがuORFに停滞することでmORFの翻訳が阻害される。その結果、遺伝子発現が抑制される。
右:青色光への露光後。主にuORFを含まない遺伝子領域が分解されずにmRNAに転写され、mORFの翻訳が抑制されない。その結果、遺伝子発現がより促進する。

このページのトップへ