兵庫県立大学大学院 生命理学研究科 月原 冨武、吉川 信也、島田 敦広、理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター 吾郷 日出夫、久保 稔、高輝度光科学研究センター 馬場 清喜、他23名は、X線自由電子レーザー施設SACLA(BL3)を利用して、哺乳動物のチトクロム酸化酵素(呼吸酵素)の反応に伴う構造変化を精密に決定し、この酵素が食物から生命活動のための(生きるための)エネルギーを無駄なく獲得する仕組みを解明しました。
哺乳動物(ヒトを含む)のチトクロム酸化酵素(以下CcOと略記)は食物(エネルギー源)を酸素(O2)によって酸化し、得られたエネルギーにより水素イオンをCcO(巨大なタンパク質分子)の一方から他方へ輸送し食物のエネルギーを集積します。このようにして集積(獲得)されたエネルギーにより生命活動のエネルギー源であるATPが合成されます。水素イオンはCcO内部にあるH-経路とよばれる水素イオン輸送経路を経由して輸送されます。その時、その逆流が完全に防がれていることが無駄なく食物のエネルギーを集積するために必要です。しかし、この逆流防止の仕組みはCcOによるこのエネルギー集積(獲得)過程の最大の未解明の問題の一つとして残されていました。
本研究ではSACLAによりO2とほとんど同じ様式でCcOと反応する一酸化炭素(以下COと略記)とCcOとの反応に伴うCcOの立体構造の時間変化を追跡し、水素イオンがH-経路に取り込まれた後に、O2が活性中心に含まれている銅イオンに結合することによりH-経路を閉鎖することを明らかにしました。このようにして、水素イオンの逆流が効率よく防止されるため、取り込みも促進されます。このような発見はタンパク質の高速の立体構造変化を正確に追跡することのできるSACLAを利用することができてこそ可能であったと言えます。
CcOのエネルギー集積効率が精妙に制御されて、組織や細胞の正常な活動(恒常性)が維持されていることが、最近の種々のCcO活性制御因子(タンパク質)の発見により強く示唆されるようになっています。したがって、本研究によるCcOのエネルギー集積(獲得)機構の解明は生命現象の理解を深めることに貢献するだけではなく、CcO活性制御因子による組織や細胞の活動の制御機構の解明、したがって疾病の機構の解明に大きく寄与する可能性があります。また、H-経路の構造と機能は動物にしか保存されていないことが本研究によりさらに確実になったので創薬のターゲットになる可能性もあります。
本研究成果は世界主要科学雑誌の一つである『Science Advances』最新号(2017年7月14日号)に発表されました。
原論文情報
- Atsuhiro Shimada, Minoru Kubo, Seiki Baba, Keitaro Yamashita, Kunio Hirata, Go Ueno, Takashi Nomura, Tetsunari Kimura, Kyoko Shinzawa-Itoh, Junpei Baba, Keita Hatano, Yuki Eto, Akari Miyamoto, Hironori Murakami, Takashi Kumasaka, Shigeki Owada, Kensuke Tono, Makina Yabashi, Yoshihiro Yamaguchi, Sachiko Yanagisawa, Miyuki Sakaguchi, Takashi Ogura, Ryo Komiya, Jiwang Yan, Eiki Yamashita, Masaki Yamamoto, Hideo Ago, Shinya Yoshikawa, Tomitake Tsukihara, "A nanosecond time-resolved XFEL analysis of structural changes associated with CO release from cytochrome c oxidase", Science Advances , 10.1126/sciadv.1603042
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理化学研究所 広報部 報道担当
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