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理事長挨拶

五神理事長の写真

理化学研究所理事長就任にあたって

20世紀に入り、科学技術こそが産業振興の基礎であり、また国力の源泉であるという認識が世界的に高まるなかで、渋沢栄一翁や高峰譲吉博士らが提唱した「国民科学研究所」構想を受け、1917年、理化学研究所(理研)は発足しました。鈴木梅太郎博士らによる高純度のビタミンAの製造法の発明などがもたらした潤沢な資金を背景として、誰もが自由に遠慮なく討論し合える空気を醸成し「科学者の自由な楽園」と評される理想的な研究環境が創り出されたことは、よく知られています。もちろん、この1世紀のあいだに理研が歩んだ道のりは決して平坦ではなく、時に社会の変化に翻弄され、逆境と呼べる時期があったことも忘れてはなりません。そうしたなかにおいても「理研精神」は研究者たちに着実に受け継がれ、「世界のRIKEN」としての今日を築く礎となってきたのです。

私は1976年に大学に入学し、以来46年間、もっぱら大学という場で研究教育活動を行ってきました。専門は実験物理ですが、研究費の乏しかった若手研究者の時代には、捨てられた機材を再利用して実験装置を自作せざるを得ず、理研の恵まれた研究環境をまぶしく感じたことを思い出します。このたび、その研究所の理事長として、新たな知の創造に向けて、卓越した研究者のみなさんの仲間となり、力を合わせて活動できることをたいへん誇りに感じるとともに、伝統ある研究所を率いることの責任の大きさに身が引き締まる思いでおります。

人類は、この1万年余り、完新世とよばれる、地球史の中でも例外的に温暖で安定した気候に恵まれています。その安定を基盤に、狩猟社会、農耕社会、工業社会、そして情報社会へと文明を発展させてきました。しかし、人類社会はいま、新型コロナウイルスの感染拡大や地球温暖化による気候変動など、私たちの日常と未来とを脅かす地球規模の課題に直面し、かつてない大きな曲がり角を迎えています。これらに共通することは、科学技術によって拡張された人類の活動が、問題発生の切り離せない要因となっている事実です。その解決には、国境を越えた地球規模の連携協力が不可欠です。にもかかわらず、昨年11月にグラスゴーで開催されたCOP26でも再認識されたように、国際協調の道筋は険しく、さらに今世界では、武力による他国への介入という極めて深刻で憂慮すべき事態も起きています。この理不尽な事象は、私たちに人類の文明がまだ未成熟で安定的でないという現実を暴露しました。とりわけ科学者にとって深刻なのは、こうした紛争と混乱の最前線で、最新のテクノロジーが用いられ、耐えがたい破壊や不幸を広範に生みだしていることです。私たち科学者はこの事実から目を背けるわけにはいきません。

それでも私は、普遍の真理を求め探究を続ける科学の力を信じています。その最大の理由は、これまでの研究者としての人生において、自然を見つめ本質と出会う発見の喜びを実感してきたからです。新しい知恵は困難を乗り越えるための技(art)を生み出しますが、それが生まれる瞬間の感動と共感は国境を越えた連携の力となりうると考えています。発見の喜びを原動力とする新しい知の創造は、困難を乗り越え、地球と人類を持続的な発展へと導く糧となるはずです。しかしながら、ただ待っているだけでは、その成果を得ることはできません。その研究が、地球や人類にどのような影響を与えるのか、より広い視点でそれを意識できるかどうかで、その結果は大きく変わるのです。
私は理研において、そのような研究者の真摯な活動をしっかり支えていきます。この研究所の原点にある、従来の学問領域を越えた連携があらためて重要になっていると思います。連携は自然科学や工学にとどまりません。人とは何か、社会とは何かといった人類への根源的な問いにも及びます。最先端の研究は、高度で先鋭化していますが、真に卓越した研究者同士は、研究分野が違っていても互いに刺激し共感しあうことができるのです。そのような場面を私は何度も見てきました。卓越した最先端の科学者同士がもたらす化学反応により、地球と人類の未来に貢献する新しい知が次々に生み出される、そういった環境を理化学研究の最前線で実現したいのです。理研でなければできないこと、理研だからできることを究めていくのです。

科学者自身が究めたいと感じる研究が、みんなの未来のためにいつか必要となる研究と自然に重なり、科学と社会の相互の信頼が深まり、互いに繋がるという姿こそが望ましいと考えています。無から有を生み出す知の創造が、地球と人類の未来の成長をもたらす光であることを、この研究所の活動を通じて、世界に発信していきたいと思います。そうした発見の喜びを推進力とする運動を促す新たな仕組みを、みなさんと一緒に創っていきたいのです。そして今後も理研が世界のセンター・オブ・エクセレンスであり続け、卓越した研究者が世界から集まり、未来を託するに足る優れた次世代の研究者が育つ場として発展していくことが、私の理想です。
理研の新たな歩みを、みなさんとともに創りあげていく所存です。

2022年4月1日
国立研究開発法人理化学研究所 理事長
五神 真

印刷用 略歴・受賞・顕彰

略歴
1980年3月 東京大学理学部物理学科卒業
1982年3月 同 大学院理学系研究科物理学専門課程修士課程修了
1983年6月 同 大学院理学系研究科物理学専門課程博士課程退学
1985年4月 理学博士(東京大学)
1983年6月 東京大学理学部助手
1988年12月 同 工学部講師
1990年11月 同 工学部助教授
1995年4月 同 大学院工学系研究科助教授
1998年10月 同 大学院工学系研究科教授
2000年4月 同 工学部物理工学科長
2001年4月 同 大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター長
2010年4月 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科附属光量子科学研究センター教授
2010年10月 同 大学院理学系研究科教授
2012年4月 同 副学長
2014年4月 同 大学院理学系研究科長・理学部長
2015年4月 同 総長
2021年4月 同 大学院理学系研究科教授
2022年4月 理化学研究所 理事長
受賞・顕彰
2001年3月 第6回日本物理学会論文賞
2001年11月 第15回日本IBM科学賞
2010年10月 第14回松尾学術賞
2012年 アメリカ物理学会フェロー
2013年 アメリカ光学会フェロー
2021年6月 第71回「電波の日」総務大臣表彰

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