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2016年1月6日

メタボロミクスと天然物化学を結ぶ研究者

生物がつくる代謝物を質量分析計などで網羅的に解析するメタボロミクス。さまざまな代謝物の中から特定の代謝物を精製し、その化学構造と機能を明らかにして、人工的に合成する方法を開発する天然物化学。この二つの分野を結び付けることで、代謝物を効率的に解析して植物の多様な物質生産のメカニズムを解明する。また有用な代謝物を発見して医薬品や保健機能性食品の開発につなげる。それを目指している研究者が、環境資源科学研究センター(CSRS)にいる。統合メタボロミクス研究グループの中林 亮 研究員だ。自分の性格をあまのじゃくと分析。「人と同じことはやりたくないので、常に新しい手法を模索しています」。そんな中林研究員の素顔に迫る。

中林 亮

中林亮 研究員

環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ

1980年、大阪府生まれ。博士(薬学)。鳥取大学農学部生物資源環境学科卒業。同大学大学院農学研究科修士課程修了。千葉大学大学院医学薬学府創薬生命科学専攻博士課程修了。理研植物科学研究センターメタボローム機能研究グループ特別研究員などを経て、2015年より現職。

アスパラガスから発見されたアスパラプチンのS-オミクスによる同位体イオン測定結果 図1 アスパラガスから発見されたアスパラプチン S-オミクスによる同位体イオンの測定結果。このデータから組成(C10H19N4O3S2)が分かる。 アスパラガスから発見されたアスパラプチンの化学構造 図2 アスパラプチンの化学構造

「観戦も含めて球技が好き」と言う中林研究員。小・中学校では野球、高校ではハンドボール、大学ではソフトボールに打ち込んだ。理学療法士の両親に同じ道を勧められるも、「砂漠の緑化に貢献したい」と鳥取大学農学部へ。「環境問題には小学生のころから興味がありました。石油タンカーの座礁は生態系にとって大問題だ、ファストフード店のトレーの紙は無駄だ、と書いた作文が残っています」。研究分野は、天然物化学を選んだ。微生物がつくる代謝物を精製し、植物に投与して成長を促進あるいは阻害するなどの活性のある新しい代謝物を、ひたすら探した。「宝探しのようで面白かったですね」

鳥取大学の大学院に進んだが、そう簡単には新しい有用代謝物は見つからない。「もっと楽な方法はないかと思案していたところ、セミナーでメタボロミクスという新しい分野があることを知りました。試料を質量分析計にかけると代謝物が網羅的に検出され、データベースで照会すれば既知か未知か分かるという。何と簡単な! ぜひその研究がしたいと、千葉大学の斉藤和季教授(現 CSRS副センター長・統合メタボロミクス研究グループ グループディレクター)の門戸をたたきました」。2010年からは理研植物科学研究センター特別研究員に。「実はメタボロミクスはまだ、最初にイメージした魔法のような技術ではなかったのです。そこで、代謝物を素早く的確に取りこぼしなく解析するための技術開発をしています」

2013年には、硫黄を含む代謝物を網羅的に高速・高精度に測定して化学組成を決定できるS-オミクスを開発。含硫黄代謝物に注目したのは、抗炎症や抗酸化作用があるからだ。そして、S-オミクスを用いてアスパラガスから未知の含硫黄代謝物を検出し、化学組成を決定することに成功(図1)。さらに天然物化学の手法を使って化学構造を決定し(図2)、また血圧調節に関与している酵素に対して阻害活性があることを明らかにした。「この代謝物をアスパラプチンと名付けました。新興のメタボロミクスと従来の天然物化学にはそれぞれ専門家がいて、両者には距離がありました。幸いにも私は両方を知っていたので、二つの分野を結び付けることで有用な代謝物に素早くたどり着くことができました」。現在は、保健機能性食品への応用も視野に入れ、アスパラプチンの詳細な機能を調べている。窒素を含む代謝物を解析するN-オミクスも開発中だ。

ある植物の代謝物のうち化学構造まで分かっているものは1割にも満たないといわれている。検出された代謝物をデータベースで照会すると、ほとんどが未知と出る。「その結果に落胆する人もいますが、私は未知が多いほどうれしいですね。未知は、新しい構造や機能の発見につながるということ。研究のやりがいがあります」。未知をなくしていくことも、任務の一つである。「未知の代謝物の構造を一つ一つ解析し、その情報をデータベースに入れていく。その手作業を積み重ねることで、既知情報を増やします。蓄積した情報を駆使することで未知の代謝物の構造を一斉に推定できるようになります。メタボロミクスが魔法のようになる日は必ず来るでしょう」

子どものころは植物には興味がなく、大学でも植物の種類を覚えたり葉から名前を答えたりするのは嫌いだったが、今は植物園に行くのも楽しみの一つだ。「色や形が珍しい植物を見ると、どんな代謝物があるのか解析してみたいと、うずうずします。見たこともない化学構造の代謝物にもっと出会ってみたいですね」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2016年1月号より転載

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