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2016年2月5日

光格子時計の振り子を最初に振った研究者

理研香取量子計測研究室の髙本将男 研究員たちは2014年、宇宙の年齢である138億年で1秒も狂わない18桁(10-18)台の精度で再現する「光格子時計」を実現した。香取秀俊 主任研究員が発明した光格子時計は、レーザーでつくった光格子の中にたくさんのストロンチウム原子を閉じ込め、その原子の振り子の振動数を数えて時を計る。原子の振り子を振るには、特定の周波数(遷移周波数)の光を原子に当てる必要がある。髙本研究員は光格子時計の開発にスタート時から参加し、2003年にストロンチウムの遷移周波数を突き止め、光格子時計の原子の振り子を最初に振ることに成功した。「今後は、光格子時計が社会に役立つことも実証していきたい」と語る髙本研究員の素顔に迫る。

髙本将男

髙本将男 研究員

主任研究員研究室 香取量子計測研究室

1978年、東京都生まれ。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻香取研究室 助教を経て、2011年より現職。

2003年に初めての実証実験で使用した光格子時計システムの写真 図 2003年に初めての実証実験で使用した光格子時計システム
髙本研究員は、このシステムを用いてストロンチウムの遷移周波数を突き止めた。

「子どものころから理科が好きで、人体や宇宙、相対論などを特集したNHKの科学番組をビデオにとって繰り返し見ていました。ピアノ演奏やスポーツも好きで、中学・高校では野球部に入り、野球に打ち込んでいました」

やがて東京大学大学院に進み香取研究室へ。香取主任研究員は2001年に光格子時計の原理を発表し、光格子時計の開発を本格的に始めようとしていた。「2002年に博士課程に進んだ私が、その担当に指名されました。香取研究室ではさまざまなテーマの研究を進めていて、光格子時計の担当は最初、私だけでした」

ストロンチウム原子を使った光格子時計は18桁の精度を実現できると香取主任研究員は発表していた。「その精度を実現できるのは遠い先のことだろうと、漠然とその当時は思っていました。まず、光格子の中にストロンチウム原子を閉じ込め、そこに少しずつ違う周波数の光を当てて、振り子が振れる遷移周波数を探しました。大海で1円玉を探すような実験でしたが、振り子が振れた瞬間は今でも鮮明に覚えています。その感動が忘れられず、光格子時計の開発を続けてきました」

現在、光格子時計の開発は、東大(東京都文京区)と理研(埼玉県和光市)において、総勢25名ほどで進められている。「両方の研究室で同一の光格子時計をつくり、それを光ファイバーでつないで時間の進み方の違いを比べています。文京区と和光市は標高差が15mほどあって重力ポテンシャルが異なるため、相対論の効果で、標高の低い文京区の時間は和光市よりもわずかにゆっくり進みます。その時間の遅れを光格子時計で計ることができます。最近、3日間連続で光格子時計を動かす実験を行いました。数十台のレーザーや制御系の装置のうち、室温のわずかな変化などで1ヶ所でも不具合が出ると光格子時計は止まってしまいます。すぐに調整して動かすために、誰か1人が光格子時計に張り付いている必要があります。理研では学生と私が交代で担当していましたが、東大側ではほぼ1人で担当しており、大変な実験でした」

今では世界の20を超える研究グループが光格子時計の開発を進めており、より高い精度を目指して激しい国際研究競争を繰り広げている。「欧米のライバルは、精度の高い時計の開発において長い歴史と高い技術力を誇る研究グループです。光格子時計の本家として、それらと伍していくのは大変です」

髙本研究員たちは、光格子時計の小型化も進めている。「実験室から持ち出せる時計を開発して、いろいろな場所で時間の進み方を調べてみたいと思います。地下で地殻変動が起きれば、重力ポテンシャルが変化して時間の進み方が変わる可能性があります。地震発生予測のようなまったく新しい技術を、光格子時計は生み出せるはずです」

趣味のピアノ演奏や草野球は中断して、休日は子育てに専念している。「研究はやはり面白いです。子どもにも、同じように夢中になれることを見つけてほしいですね」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2016年2月号より転載

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