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2016年4月5日

自然免疫の記憶メカニズムを解明した研究者

ある病原体に感染すると、次からはその病原体に感染しにくくなる。それは、その病原体だけを攻撃する抗体をつくる獲得免疫に記憶が残るためである。一方、さまざまな病原体を攻撃するマクロファージなどが働く自然免疫にも記憶があるのかどうか、その記憶メカニズムが不明なため議論が分かれていた。理研石井分子遺伝学研究室(石井俊輔 上席研究員)の吉田圭介 特別研究員(以下、研究員)たちは2015年、自然免疫で働くマクロファージの記憶メカニズムを解明することに、世界で初めて成功した。吉田研究員は大学院生のとき、細胞分裂の際に働くコヒーシンというタンパク質複合体が、遺伝子の発現にも関係していることを発見し、その研究成果は『Nature』に掲載された。「そのとき自分がやっている研究が世界で一番面白いと思いながら、日々、実験を続けています」と語る吉田研究員の素顔に迫る。

吉田圭介

吉田圭介 特別研究員

上席研究員研究室 石井分子遺伝学研究室

1982年、東京都生まれ。博士(理学)。浅野中学校・浅野高等学校卒業。東京工業大学大学院生命理工学研究科博士課程修了。2010年、理研基幹研究所石井分子遺伝学研究室 基礎科学特別研究員。2013年より現職。

自然免疫の記憶メカニズムのイメージ図 自然免疫の記憶メカニズム
DNAはヒストンというタンパク質に巻き付いている。マクロファージでは、DNAの特定領域にATF7が付くことでヒストンメチル化酵素を呼び寄せ、ヒストンのH3K9という場所をメチル化(旗のマーク)して、自然免疫関連遺伝子の発現を抑制している。感染ストレスによりATF7がリン酸化されてDNAから離れると、その抑制が外れ、自然免疫関連遺伝子の発現レベルが上昇してマクロファージが活性化する。ストレスがなくなっても、この状態が3週間以上維持(記憶)されることが分かった。

祖父の代から続く東京・浅草橋の手芸用品問屋に生まれた吉田研究員。「父は私に好きなことをやれと言っていました。小学生のころ、NHKの大学ロボコンで東京工業大学(東工大)チームが活躍している様子を見て、将来は東工大でロボットの研究がしたいと思うようになりました」

中高一貫の私立男子校に進学して、6年間、物理部に在籍した。「ハンダごてを使ってラジオなどの電子機器を製作しました。高校のときは、講談社の『ブルーバックス』シリーズが好きで、図書室でいろいろなジャンルの本を借りては読んでいました。そして素粒子物理学や生命科学、さらには哲学や心理学にも興味を持ちました」

東工大への志望は変わらず、生命理工学部に進学して白髭克彦教授の研究室へ。「そこで、ヒトの細胞でコヒーシンがDNAのどこに付いているのかを網羅的に調べる実験を担当しました。その結果、コヒーシンが遺伝子発現に関係する領域(インシュレーター)で働いていることを発見したのです。現在、その研究にはたくさんの研究者が参入して、とてもホットな分野になっています」

吉田研究員が博士課程のとき、理研の石井上席研究員のセミナーが東工大で開かれた。「親が受けたストレスの影響が子どもへ遺伝するという実験結果を聞き、それは面白い! と理研に来ました」

生物学では、親が経験したことの影響は子どもへは遺伝しないというのが長年の常識だった。ところが石井上席研究員たちは2011年、遺伝子の発現パターンの記憶であるエピジェネティクスがストレスによって変化し、それが親から子へ遺伝するメカニズムを発見した。「研究室では、そのメカニズムに関係するATF7というタンパク質(転写因子)とさまざまなストレスとの関係を調べています。私は病原体感染によるストレスとATF7の関係について解析を進めています。マウスに感染ストレスを与えると、マクロファージのDNAの特定領域に付いていたATF7が離れ、それに伴い自然免疫の関連遺伝子の発現レベルが上昇し始め、マクロファージが活性化しました。そして、その状態が長期間維持されたのです」(図)。その研究成果は、より効果の高いワクチンの開発やアレルギー疾患の克服などに貢献すると期待されている。

「親の経験が子どもへ遺伝するには、生殖細胞のエピジェネティクスが変化する必要があります。私は今、感染ストレスにより、精子をつくる精巣の細胞のDNAで、ATF7がどのように働き何が起きるのかを調べているところです」

研究に必要なものは?「ポジティブシンキングと好奇心です。生物の実験はうまくいかないことの連続ですが、気がめいっていたら良いアイデアも浮かびません。研究を本当に好きでいることが、研究内容を考えたり、実験を効率よく進めたりする上で大切だと思います」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2016年4月号より転載

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