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2016年5月9日

「京」の使いやすさを究める研究者

計算科学研究機構(AICS)運用技術部門ソフトウェア技術チームの熊畑 清 開発研究員の主要な任務は二つ。スーパーコンピュータ「京」のソフトウェアに関するユーザーサポートと、「京」のリソースを無駄なく使うためのソフトウェアのチューニングだ。HPCGベンチマークプログラムのチューニングでも中心的な役割を果たしている。HPCGは、計算速度だけでなく、メモリー転送速度、通信速度などスーパーコンピュータの性能を総合的に評価する新しい指標である。HPCGランキングで「京」は、初回の2014年11月、2015年6月、11月のすべてで2位を獲得。1位の中国「天河2号」との差はハードウェアの理論性能の差に比べて小さい。「『京』は計算速度を競うTOP500では4位ですが、実用的なソフトウェアを効率的に処理できることを証明できました。HPCGなどへの参加は、高い性能を示すことで多くの人に『京』をアピールしようという、営業活動の意味もあるんですよ」と熊畑開発研究員。「迷ったら誠実な方を選びたい」。そう語る熊畑開発研究員の素顔に迫る。

熊畑 清

熊畑 清 開発研究員

計算科学研究機構 ソフトウェア技術チーム

1974年、神奈川県生まれ。博士(情報科学)。東京工芸大学工学部光工学科卒業。北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科情報システム学専攻博士課程修了。同大学院大学産学官連携研究員、㈱富士通長野システムエンジニアリングなどを経て、2012年より現職。

「京」におけるHPCGベンチマークプログラムのチューニングによる処理速度の向上を示すグラフ 図 「京」におけるHPCGベンチマークプログラムのチューニングによる処理速度の向上

「小学生のときに親戚からパソコンをもらったことが、すべての始まり」と熊畑開発研究員。「雑誌に載っているプログラムを打ち込んだり、それを改造したりして遊んでいました」。パソコン雑誌を愛読。科学ニュースを紹介する連載が特に好きで、将来はプログラマーか科学者になると決めた。中学時代は科学部で川の水質調査やピンホールカメラづくりに取り組むものの、教科の勉強は大嫌い。先生からは、「行ける高校はない」と言われるほどだった。

それでも夢は変わらず、高校卒業後は浪人して大学進学を目指した。「入学した東京工芸大学工学部光工学科では、化学から物理学、工学まで幅広く学ぶことができて充実していたのですが、科学者にはなれないと思い、コンピュータの世界で生きていこうと大学院を目指すことに。でも、大学院の入試問題集を見たら、めまいがして……」と笑う。

そして北陸先端科学技術大学院大学へ。前期課程修了後、企業で自動車の構造解析ソフトの開発に従事。大学院に戻り、血流シミュレーションのコード開発などに取り組んだが、後期課程修了まで5年かかった。「コツコツ努力するものの結果がなかなか出ずに苦しみましたが、ほかの道に進もうとは思いませんでした。コンピュータが好きなんでしょうね」

産学官連携研究員の後、富士通長野システムエンジニアリングへ。「長野へ引っ越したのですが、段ボールを開けないでそのまま神戸に行ってくれ、と言われて……。それ以来、『京』のソフトウェアのチューニングなどに携わっています」。2012年からはAICS開発研究員となり、ユーザーサポートも担当。処理速度が急に遅くなった、ソフトウェアがうまく動かない、といったユーザーからの問い合わせに一つ一つ対応していく。「大学や研究機関にもスーパーコンピュータがありますが、サポート体制はあまり整っていません。『京』では手厚いサポートが受けられることをアピールして、『京』を使いたいという人を増やしていきたいですね」

HPCGでは、どのようなチューニングを行ったのだろうか。「メモリーからデータを転送するために広い道を用意してあるのですが、一部しか使われていませんでした。そこで、道全体を使ってデータを転送するようにプログラムの書き方を変えました。ほかにもさまざまなチューニングを行った結果、処理速度は19倍速くなりました」(図)。HPCGの次の順位発表は2016年6月。ベンチマークプログラムが新しくなったため、現在チューニングの真っ最中だ。「HPCGは、産業利用などのソフトウェアでよく使われる共役勾配法という計算手法の処理速度を評価するものです。HPCGで開発したチューニング法を、共役勾配法を使っている『京』のほかのソフトウェアにも活かそうと考えています。それによって処理時間が短くなれば、空いた分で『京』をより多くの人に使っていただけるようになります」

性格はシャイで人見知り。HPCGでは順位の発表よりプレゼンテーションの方が緊張する。「世界トップクラスのスーパーコンピュータに携わることのできるこの仕事はとても楽しい。中学時代から考えたら、夢のようですよ」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『RIKEN NEWS』2016年5月号より転載

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