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2017年3月6日

“野良酵母”の生き様に迫る研究者

特定の酵母は古くからパンや酒づくりなどに利用されてきたが、意外にも、野生の酵母“野良酵母”の専門家は、全世界で100名に満たないと推定される。日本において数少ない野良酵母の専門家がバイオリソースセンター(BRC)微生物材料開発室(JCM)にいる。遠藤力也 協力研究員(以下、研究員)だ。遠藤研究員は酵母の収集・保存・提供を行うバイオリソース事業とともに、里山などで森林害虫や昆虫と共生する野良酵母の生態の解明を進めている。「野良酵母は全部で何種類いるのか、どんな生き様のものがいるのか、分からないことだらけ。そこが野良酵母の魅力です」。そう語る遠藤研究員の素顔に迫る。

遠藤力也

遠藤力也 協力研究員

バイオリソースセンター 微生物材料開発室

1982年、東京都生まれ。博士(農学)。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員PD(森林総合研究所森林微生物研究領域)を経て、2012年より現職。

カシノナガキクイムシ(雌の成虫)の背中にあるマイカンギアの写真 図 カシノナガキクイムシ(雌の成虫)の背中にあるマイカンギア

“トトロの森”に隣接した東京都東村山市で育った遠藤研究員。中学3年生のころ、映画『風の谷のナウシカ』の原作漫画を読んだ。「蟲(むし)と菌類の共生関係や人類との関わりが描かれていました。それが現在の仕事に携わるきっかけだったかもしれません。実際に科学者を志すようになったのは、高校の授業で生物の面白さを知ってからです」

「人間の生活と関わりのある生物のことを学びたい」と京都大学農学部に進学。「授業で、地下深くには微生物の未知の世界が広がっているかもしれない、という話を聞き、バクテリアやアーキア(古細菌)、カビ、酵母などの微生物に興味を持つようになりました」

学部4回生のとき、マツ枯れを引き起こす線虫の研究室へ。「そのころ京都ではナラ枯れの被害が広がっていて、研究室ではナラ枯れに関係する病原性カビを殺す酵母を探す実験も進めていました。私は、先輩が分離した野良酵母の中から病原性カビを殺すものを見つけ出しました。野良酵母の研究をさらに深めたいと専門家を探したのですが、日本にはほとんどいないのです。私は競争が嫌いで、人がやらない研究をやりたいと思っていたので、野良酵母の専門家を目指すことにしました。そして修士課程2回生のとき、つてをたどって酵母の収集・保存を行っているJCMの研修生になりました」

遠藤研究員は修士・博士課程でナラ枯れと酵母に関する研究を続けた。ナラ枯れを引き起こす主犯は、カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)という体長5mmほどの昆虫だ。カシナガは木の幹にトンネルを掘り、その壁に微生物を繁殖させて餌にしている。トンネルを掘られた木はやがて枯れてしまう。「トンネルの壁に繁殖する菌類の種類を調べたところ、木の種類によらず、2種類の酵母と1種類のカビが共通して見つかり、それらがほとんどの割合を占めていました」

それ以外の割合はわずかだが、合計して酵母は19種類見つかり、そのうち18種が新種だった。「私は研究室に入ったころ、自分で新種を見つけて名前を付けることが夢でしたが、すぐに実現できてしまいました。昆虫は未知の野良酵母の宝庫だったのです。それ以来、私は昆虫と酵母の関係に注目した研究をライフワークとして続けています」

カシナガと酵母の共生関係には大きな謎がある。「雌の成虫の背中には、たくさんの穴(マイカンギア)があります(図)。知人の受け売りですが、私は“たこ焼き器”と呼んでいます。カシナガがトンネルから出て新しい木に飛び移る6~9月ごろ、たこ焼き器には膜に囲まれた球形の構造物“たこ焼き”があり、中には粒状の物質“具”が入っています。私は今、そのたこ焼きを単離して、具の正体を調べる世界初の実験を進めています。そこにはトンネルの壁で繁殖する酵母やカビが含まれていると考えられます。トンネルの中でたこ焼きが破裂して、中の微生物がトンネルの壁に植え付けられるのでしょう。一方、このたこ焼きは、さまざまな雑菌が入り込みやすい構造にもなっています。それにもかかわらず、トンネルの奥では限られた種類の酵母やカビしか繁殖していません。それがなぜなのかさっぱり分かりません。そこが面白いところです」

JCMでは現在、2,500株を超える酵母を保存・公開し、研究者に提供している。「世界トップクラスの酵母のコレクションです。しかし、バクテリアに比べて酵母のリクエストはまだ少ないですね。野良酵母の面白さや有用性を見いだして、情報発信していくことも、私の重要な役目です」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2017年3月号より転載

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