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2017年6月5日

植物の巨大なY染色体の謎に挑む研究者

植物にはおしべとめしべを別々の個体に付けるグループがあり、ヒトと同様にXとYの2種類の性染色体を持ち、XY型は雄、XX型は雌となる。その中には、Y染色体のサイズがヒトのY染色体の10倍以上になるものがある。巨大Y染色体はゲノムが大きく、かつ配列の反復が多いためゲノム配列の決定は難しく、研究が進んでいない。仁科加速器研究センター生物照射チームの風間裕介 協力研究員(以下、研究員)は、巨大Y染色体を持つ植物の代表であるナデシコ科のヒロハノマンテマに「重イオンビーム」を照射して遺伝子を欠損させたさまざまな変異体をつくることで、性染色体の進化やY染色体にある性決定遺伝子を明らかにしようとしている。2017年1月からは1年間の予定で、英国のオックスフォード大学へ。「よく観察することを心掛けています。実験で得られたデータから必ず新しい情報を取るんだ、という根気強さには自信があります」そんな風間研究員の素顔に迫る。

風間裕介

風間裕介 協力研究員

仁科加速器研究センター 生物照射チーム

1977年、東京都生まれ。博士(生命科学)。埼玉大学理学部生体制御学科卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻博士課程修了。理研生物照射チームリサーチアソシエイト、基礎科学特別研究員などを経て、2014年より現職。

ヒロハノマンテマの変異体の顕微鏡写真の画像 図 ヒロハノマンテマの変異体の顕微鏡写真  『Scientific Reports』より転載

「実験が大好きな子どもでした」と風間研究員。チラシを入れた封筒に「金一封」と書いて自宅2階のベランダから落とし、通行人の反応を調べたことも。「実験というより、いたずらですね」と笑う。そんな風間研究員がヒロハノマンテマの巨大Y染色体の研究を始めたのは、大学院修士課程からだ。「染色体に興味がありました。中でもY染色体が巨大で、一つの個体におしべとめしべを付ける両性花から進化して間もないと考えられているヒロハノマンテマは、研究対象として面白そうだと思ったのです。すでに知られていた遺伝子に蛍光標識を付け、Y染色体上の遺伝子の位置を顕微鏡で調べていきました。しかし時間もかかるし、詳細な位置までは分かりません。そこで、重イオンビームを照射して変異体をつくり、それを解析してみてはどうだろうと考えたのです」

重イオンビームとは、ヘリウムより重い原子から電子を剝ぎ取った重イオンをまとめて加速したものだ。それを照射すると、一部の遺伝子が欠損し、効率よく変異体ができる。変異体を調べることで、欠損した遺伝子の機能などが分かる。「重イオンビームでさまざまな生物の変異体をつくっていた生物照射チームの阿部知子チームリーダーに相談すると、試してみましょう、ということに。すると、いきなり変異体ができたのです。これはいける!と確信し、理研で研究を始めました」

花粉に炭素イオンのビームを照射し、受粉させ、できた種子を育てて花を咲かせ、花の器官の形態が変わった変異体を探す。それを繰り返し、おしべとめしべを両方持つ両性花や、どちらも持たない無性花などの変異体を40個体作製(図)。そして、各変異体についてどの遺伝子が欠損しているかを調べた。1回のビーム照射で複数の遺伝子が欠損した場合、それらの遺伝子は近くにあると考えられる。その条件を満たす遺伝子の並び順を推定するために「巡回セールスマン問題」を応用したプログラムを物理学者の協力を得て開発。そして、Y染色体上の遺伝子の位置情報を記した遺伝子地図の作成に成功した。以前作成したX染色体の遺伝子地図と比較した結果、Y染色体は進化の過程で遺伝子の並び順が逆になる「逆位」を起こしていることが分かった。

「めしべの発達を抑制する機能を持つ領域と、おしべの発達を促進する機能を持つ領域がY染色体のどこにあるかは分かりました。次は、その領域にあるどの遺伝子が性を決定しているのかを突き止めたい。そのためにオックスフォード大学に来たのです」。この大学の共同研究者はヒロハノマンテマのゲノム研究の先駆者で、現在はY染色体の全ゲノム配列の決定を進めている。「私が持っている変異体と彼が持っている塩基配列のデータを組み合わせることで、性決定遺伝子をはじめ性染色体のさまざまな謎が解けると期待しています」

英国では家族5人で暮らしている。「週末には庭の手入れをしています。実は、植物の種類についてはあまり詳しくありません。子どものころから昆虫はよく採っていたのですが」と風間研究員。「でも、大学で植物の研究をしていると近所の人に話してしまったので、素敵な庭にしなければというプレッシャーが……。子どもたちと一緒に球根を植えたりしています。『パパ、植物のこと何も知らないね。一緒に図鑑を見てもっと勉強しよう!』と言われながら」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2017年6月号より転載

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