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2018年5月7日

一夜だけのきのこ、ヒトヨタケを狙うモノトリ屋

ヒトヨタケというキノコがつくり出す代謝物の中から新規化合物を見つけ出し、その構造や機能を調べている研究者が、環境資源科学研究センターにいる。ケミカルバイオロジー研究グループの大髙潤之介 基礎科学特別研究員(以下、研究員)だ。「俗に言う『モノトリ屋』です」と大髙研究員。これまでに、アカマツの根から抗マラリア活性がある化合物などを発見している。キノコは糸状菌のうち肉眼で見える大きさの子実体たい(一般に「きのこ」と呼ばれる部分)を形成するものの総称で、環境に応じて形態を変化させ、またマツタケのように特定の環境でなければ生えないものもある。そうした環境とのやりとりをつかさどっている化合物を見つけ、農業などに役立てようとしているのだ。生物がつくり出す化合物の探索は、よく宝探しに例えられる。「直感的でマイペースの私には合っているのかもしれない」と大髙研究員。その素顔に迫る。

大髙潤之介

大髙潤之介 基礎科学特別研究員

環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループ

1987年、東京都生まれ。博士(農学)。明治大学農学部農芸化学科卒業。同大学大学院農学研究科博士後期課程修了。農業生物資源研究所(現 農業・食品産業技術総合研究機構)特別研究員を経て、2015年に理研 環境資源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループ 特別研究員。2016年より現職。

ウシグソヒトヨタケ(Coprinopsis cinerea)の子実体形成の図 図 ウシグソヒトヨタケ(Coprinopsis cinerea)の子実体形成
子実体が成熟するにつれ黒い胞子を含む傘部が融解し始め、一晩で溶けてしまう。

「理科は嫌いでした。成績も悪く、理科の何が面白いのかまったく分かりませんでした」と大髙研究員。しかし、このままでは留年してしまうと、高校では化学部に入部した。「山へ行き海に潜り、いろいろな植物を採取して光合成色素の数を数えたりしていました。そうしているうちに自然や科学が好きになりました」。演劇も好きで、高校時代にはたくさんの舞台を鑑賞していた。「大学の付属校(明大明治高校)だったので進学したい学部学科の希望を出せるのですが、文学部演劇学と農学部農芸化学で悩んだ時期もありました」

選んだのは、農学部農芸化学科だ。3年生になると生態化学研究室(現 天然物有機化学研究室)に所属し、そのまま大学院へ。「キノコ・山菜狩りに行くのが研究室の恒例行事だったこともあり、キノコに興味を持ち、ヒトクチタケの研究をしました」。ヒトクチタケが落ちているところでは、その周りの植物が枯れていることに気が付き、その原因を探った。そして、ヒトクチタケ子実体のエキスから新しい化合物を発見し、それが植物の成長を阻害することを明らかにした。除草剤への応用にもつながる成果である。学位を取得後、農業生物資源研究所(現 農業・食品産業技術総合研究機構)で1年間の特別研究員を経て、2015年に理研へ。「自分が研究者になるとは思っていなかった」と笑う。

現在は主に、ヒトヨタケの研究を行っている。名前は、子実体が形成してから一夜で溶けてしまうことに由来する(図)。ヒトヨタケは培養が簡単で成長が速いことから実験によく使われ、同属のウシグソヒトヨタケは全ゲノムが解読され子実体形成時に発現する遺伝子や酵素も詳しく研究されている。一方、「化学的研究は遅れています」と大髙研究員は指摘。「だからこそ、新規化合物をたくさん発見できるのではないかという期待もありました」。狙いどおり、ヒトヨタケの培養液抽出物から10種類の新規化合物が得られた。「2種類は、骨格と呼ばれる炭素原子のつながり方も新しいものでした。ヒトヨールAとヒトヨールBと名付け、理研の計算化学とX線結晶構造解析の専門家に協力いただいて立体構造も解明しました」

ヒトヨールという名前の由来は?「 たくさんの人がこの化合物に興味を持ち集まってきて研究が進んだらいいなということで、『人寄~る』です。名前のとおりになりましたが、恥ずかしいので共同研究者には内緒です」と笑う。現在、ヒトヨールAとヒトヨールBの活性や、ほかの新規化合物について詳細な研究を進めている。

大髙研究員は最近、ヒトヨタケが子実体を形成するときだけ生合成される化合物を発見。その働きを調べているところだ。「買っておいたキノコが溶けてしまったことはありませんか。キノコを長持ちさせることに役立てたいと考えています」

趣味は、歩くこと。2時間でも3時間でも平気だ。最近では、理研がある埼玉県和光市から東京都の新宿まで歩き、末廣亭で落語を聴いたという。「舞台に出ている人は輝いている。もし演劇学に進んでいたら……と考えることはありますよ。脇役で舞台に上がっていたかもしれません。でも、この道を選んだからには、モノトリ屋を究めたいですね」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2018年5月号より転載

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