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2019年4月5日

原子核反応を利用して非破壊検査を行う研究者

鉄筋を腐食させるコンクリート内部の塩分を非破壊で検査して橋などの老朽化対策に貢献することを目指している研究者がいる。光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チームの若林泰生 研究員だ。113番元素「ニホニウム」の発見にも関わった若林研究員の素顔に迫る。

若林泰生

若林泰生 研究員

光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チーム

1979年、広島県生まれ。博士(理学)。九州大学大学院理学府基礎粒子系科学専攻 単位修得退学。東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター 特任研究員などを経て、2012年、理研 森田超重元素研究室 基礎科学特別研究員。2015年、光量子工学研究領域 研究員。2018年より現職。

中性子ビームでコンクリート内部の塩分濃度分布を非破壊 で測定する原理の図 図 中性子ビームでコンクリート内部の塩分濃度分布を非破壊で測定する原理
特定の深度からのγ線だけを検出器に導き、そのエネルギーと強度を測定し、ノイズとなる、ほかの深度からのγ線は遮蔽する。

安芸の宮島が見える瀬戸内に育った若林研究員は、野球やサッカーが好きなごく普通の少年だった、と自身を振り返る。理科が得意で九州大学理学部物理学科に進み、3年生のとき、いくつかの分野の実験を経験した。「特に加速器実験に興味をひかれました。団体競技が好きなので、巨大な装置を使い、大勢の人たちと進める実験が楽しそうだと思ったのです」

大学院修士課程に進んだ2001年からは、理研などの加速器施設で実験を続けた。「原子核をほかの原子核にゆっくり当てて複合核を形成すると、中性子や陽子などを放出して、数~10数種類の原子核ができます。その励起状態から出るγ線を測定して、原子核の種類や性質を調べました。原子核は中性子と陽子から成りますが、それらの数が1個違うだけで、まったく異なる性質を示す場合があることが面白い点です」

2009年から日本原子力研究開発機構でウランなどの重い元素の合成実験を進めた後、2012年4月に理研の基礎科学特別研究員となり、113番元素の合成実験に加わった。「その年の8月11日の21時、私は無人運転(21~9時)の実験プログラムを仕掛けて帰宅しました。翌朝8時ごろ、2004年と2005年に次いで、ニホニウムの命名権獲得の決め手にもなった3個目の113番元素が合成されたのです」(後日の解析で3個目の113番元素を見つけたのは、当時、東京理科大学博士課程だった住田貴之 氏。『理研ニュース』2017年1月号「特集」)

2015年、中性子ビーム技術開発チームへ。金属やコンクリートを透過する中性子ビームを利用できるのは、原子炉や大型加速器がある施設に限られていた。同チームでは全長15mという小型中性子源システム「RANS(ランズ)」を2013年から稼働し、高度化を続けており、さらに小型・車載化し、中性子ビームで道路や橋の内部の隙間や土砂化などの非破壊検査の実現を目指している(『理研ニュース』2017年4月号「研究最前線」)。

「画期的で面白そうな研究だと思いました。そこで大竹淑恵チームリーダーのアイデアや検査現場のニーズをもとに、中性子を利用し、屋外で、さらに非破壊でコンクリート内部の塩分(塩素)濃度分布を測定するというチャレンジが始まりました」。沿岸や山間部にある橋などのコンクリート構造物には、潮風や凍結防止剤に含まれる塩分が染み込み、表面から数~10cm程度の深さにある鉄筋を腐食させる塩害が深刻化している。内部の塩分濃度分布の測定は、コンクリートをくり抜いて調べるしか方法がないのが現状だ。

コンクリートの主成分であるカルシウムなどに比べて、塩素は中性子と複合核をつくりやすい。「塩素は、中性子による原子核反応(捕獲反応)を利用して非破壊で測定するのに適しているのです。ただし中性子は放射線なので、橋などを検査する際、安全のため、強度が低い中性子ビームしか使えません。そのような中性子ビームで微量の塩素をどれだけ効率よく測定できるかが開発のポイントです。私たちの手法は、橋やコンクリートの専門家たちにすぐには理解してもらえませんでした。まったく新しい手法だからです。RANSで実験を進め、表面から深さ5cm程度までは、求められる精度(鉄筋の腐食が始まる塩分濃度)の測定に成功するなど、現在では橋やコンクリートの専門家たちから高い期待を集めています」

「中性子でほかの元素を非破壊で測定する実験も私たちは進めています。企業との研究なので、その用途は秘密なのですが……。原子核物理の基礎研究も、RANSでの応用研究も、複合核をつくってγ線を測るという点では、私がやってきたことは一緒です。どちらも楽しいですね」

今も休みには野球やソフトボールを仲間と楽しむ。研究もスポーツもチームプレーが信条だ。

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2019年4月号より転載

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