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2019年9月5日

テラヘルツ量子カスケードレーザーを開拓する研究者

光と電波の間の周波数領域にあるテラヘルツ波は、非破壊検査や高速通信など幅広い用途での利用が期待されている。テラヘルツ波を発生させる方法は複数あり、その一つが量子カスケードレーザーである。高効率で長寿命、安価と優れた特徴を持つ反面、低温にしなければいけないという問題がある。動作温度が高くなると出力が低下してしまうため、液体ヘリウム温度(4K、-269℃)まで冷却することが多く、装置も大型化してしまう。その状況を打開すべく、高温動作と高出力が可能なテラヘルツ量子カスケードレーザーの開発に取り組んでいる研究者が光量子工学研究センターにいる。テラヘルツ量子素子研究チームの林宗澤(リン ソウタク)研究員だ。その素顔に迫る。

林 宗澤の写真

林 宗澤 研究員

光量子工学研究センター テラヘルツ量子素子研究チーム

1982年、台湾・新竹市生まれ。国立交通大学電子工学科卒業。同大学大学院電子工学専攻修士課程修了。東北大学大学院工学研究科博士課程修了。2010年、理研 光量子工学研究領域 テラヘルツ量子素子研究チーム 特別研究員。2016年より現職。

テラヘルツ量子カスケード レーザー発振システムの図

台湾の北部に位置する新竹市で生まれた。「IT関連企業や研究機関、大学が集まっていて、台湾のシリコンバレーとも呼ばれています」と林研究員。外遊びが好きで、小学生になると野球チームに入った。「台湾でプロ野球が誕生したころで、野球人気が高まっていました。ポジションはセカンドとピッチャーで、大学まで続けました」。アンプをつくったり、自転車を改造したり、ものづくりも好きだった。新竹にある国立交通大学の電子工学科、そして大学院へ進んだ。

国立交通大学では多くの学生が大学院に進み、修士課程を終えると新竹の企業に就職する。「私も就職活動をしましたが、企業での応用研究より基礎研究をしたいと感じていました。そんなとき、半導体工学で有名な東北大学の大野英男先生(現 東北大学総長)の講演を台湾で聴く機会がありました。その内容に興味をかき立てられ、大野先生のもとで研究をしたいと、2006年に東北大学大学院の博士課程に進学しました」

来日しても日常会話には困らなかった。「ラジオやアニメなどで日本語に触れているうちに覚え、大学の第二外国語でも学びましたから。歴史が好きなので、藤沢周平さんの江戸時代が舞台の小説も読んでいました。話すのは少し苦手でしたが、文法が間違っていてもとにかく話せば通じるものです」

研究テーマは量子カスケードレーザーを選んだ。カスケードとは階段状に流れる滝を意味し、半導体の結晶を成長させて量子力学的な階段をつくり、電子が階段を落ちていくときに「量子準位間の光学遷移」という現象によって光を発するものだ。当時大野研究室では、中赤外線の発振に成功し、次はテラヘルツ波の発振を目指そうとしていた。海外では2002年に成功していたが、動作温度と出力の向上、周波数の拡大など実用化には課題があった。「半導体の種類や、階段の高さや数によって、周波数や出力が変わります。設計の自由度が高いことにも面白さを感じ、張り切って始めたのですが、1年半、何の成果も出ませんでした。つらかった」。それでも諦めず実験を続けた。「私の性格は、真面目で細かい。緻密さが要求される設計や結晶成長に向いていたのかもしれません。2009年、従来より高い動作温度、高出力でのテラヘルツ波の発振に成功しました」。学位を取得し、2010年に理研へ。

テラヘルツ量子カスケードレーザーの高性能化に取り組み、2019年に大きな成果を発表した。「発光層中の全ての電子の振る舞いを計算する方法を開発し、電子密度と電流の分布などをシミュレーションした結果、本来流れない経路から電流が漏れ出していることが分かりました。このリーク電流が高温での動作や出力に影響していたのです」。リーク電流を抑制する構造の発光層を設計して作製し、システムを組み上げ、液体窒素温度(77K、-196℃)での高出力の発振に成功した(図)。単位面積当たりの出力では世界トップレベルの成果だ。「この改善方法を用いることで、より高温での動作と高出力化も実現できると考えています」

休日は、ロードバイクで遠出をしたり、サーキットで自動車レースに参加したりしている。「レースと研究は似ている」と林研究員。「レースでは、周りに合わせてスピードを変えるのではなく、ゴールまで自分のペースを保って走った方が、順位が高くなります。研究でも、うまくいかないからと早く結果が出そうなテーマに変えるのではなく、自分のペースで進めていく方が良い成果が得られると思うのです」。林研究員にとってのゴールは?「ラヘルツ量子カスケードレーザーの室温での連続動作を実現し、テラヘルツ波がいろいろな用途で使われるようになることです」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2019年9月号より転載

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