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2019年10月7日

アルツハイマー病の進行に関わるタンパク質を発見した研究者

日本では高齢化に伴って認知症の患者数が急増している。認知症患者の半数以上を占めるのがアルツハイマー病である。アルツハイマー病が進行する機構を明らかにし、治療薬の開発につなげようとしている研究者が、脳神経科学研究センター(CBS)にいる。神経老化制御研究チームの橋本翔子 基礎科学特別研究員(以下、研究員)だ。「性格なのでしょう、なかなか自分に自信が持てないんです。だからこそ、自信を持てるまで何度も検証する。それが私の研究スタイルです」。そう語る橋本研究員の素顔に迫る。

橋本翔子の写真

橋本翔子 研究員

脳神経科学研究センター 神経老化制御研究チーム

1984年、滋賀県生まれ。博士(理学)。関西学院大学理工学部生命科学科卒業。同大学大学院理工学研究科生命科学専攻博士課程修了。2012年、理研脳科学総合研究センター神経蛋白制御研究チーム研究員。2017年、同チーム基礎科学特別研究員。2018年より現職。

CAPONによるタウ病理・神経細胞死の促進の図図 CAPONによるタウ病理・神経細胞死の促進

琵琶湖の近くで生まれた。小学生のころは、当時できたばかりで話題になっていた気象予報士の資格を取りテレビのお天気お姉さんになりたい、と思ったことも。3歳からピアノを習い始め、中学校と高校では吹奏楽部でクラリネット、パーカッションを担当した。音楽好きは今でも変わらない。

進路を決定付けたのは、高校の生物の授業だった。「ヒトゲノム計画が進行中で、遺伝子の機能を調べることで生物について分かるようになることを知りました。遺伝子の研究に興味を持ち、生命科学科のある大学を目指しました」。当時、関西の私立大学で唯一、生命科学科があった関西学院大学に進学。「大学院に進みましたが、修士課程を終えたら就職するつもりでした。ところがあるとき、自分は研究が好きだ、と気付いたのです。研究はパズルにも似ていて、問題を解く過程も楽しいのです。研究を続けようと決めました」

当時、プラスチックの原料のビスフェノールAが脳神経系に影響を及ぼすことが報告されていたことから、その機構の解明に取り組んだ。そして、ビスフェノールAが酵素であるプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)と結合すること、結合によりPDIの機能が阻害されることを明らかにした。PDIは、タンパク質が正しく折りたたまれるのを助ける働きをしている。

学位を取得すると、研究者としてどういうテーマに取り組んでいくべきか自問した。「何かを明らかにするだけでなく、病気の治療薬につながるなど社会の役に立つことをしたい。PDIの研究経験からタンパク質の折りたたみの異常が発症に関わる病気を研究しようと、神経変性疾患をテーマに、2012年から理研脳科学総合研究センターで研究を始めました」

代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病は、アミロイドβタンパク質の断片が沈着するアミロイド病理が引き金となり、タウタンパク質が凝集するタウ病理を経て、神経細胞が細胞死を起こし脳が萎縮すると考えられている。しかし、どのように進行するのか、その機構はよく分かっていなかった。橋本研究員らはまず、CAPONというタンパク質がタウと結合することを発見。さらに、研究チームで開発したタウ病理と神経細胞死を再現するモデルマウスを用いて、CAPONはタウ病理と神経細胞死を促進することを明らかにした(図)。「この成果は新聞やニュースサイトなどでも紹介され、アルツハイマー病への社会の関心の高さを実感しました。CAPONの機能を阻害する薬を開発できれば、病気の進行を止められる可能性があります」。タウと結合するタンパク質を標的とするアルツハイマー病の治療薬はこれまでなく、新しいタイプの治療薬として期待できる。

現在は、アルツハイマー病で起きる神経細胞死の機構を明らかにしようと、研究を進めている。「CAPONによって引き起こされる神経細胞死には、さまざまな形態があることが分かっています。CAPONを介さない細胞死もあるでしょう。細胞死の全容が明らかになれば、細胞死を阻止し脳の萎縮を防ぐ治療薬の開発につながるかもしれません」

1歳の男の子の母でもある。「もう少し実験をやっておきたいのに、思うように研究に時間がかけられないこともあります。焦る気持ちがないわけではありませんが、今はほかの人とは比べないでいようと思っています」

今後は?「 研究者としては長期のビジョンを持った方がいいのかもしれませんが、私はそのときにやりたいことを大事にしてきました。例えば5年後は、そのときにやりたいことをやっていたいですね」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2019年10月号より転載

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