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2019年11月5日

卵子の特別な力から次世代誕生の謎を解く研究者

クローン胚の研究から次世代が生まれる仕組みの解明に挑む研究者が、バイオリソース研究センター(BRC)にいる。遺伝工学基盤技術室の的場章悟 専任研究員(以下、研究員)だ。「いのち」のはじまりに迫る的場研究員の素顔とは。

的場章悟の写真

的場章悟 専任研究員

バイオリソース研究センター 遺伝工学基盤技術室

1979年、島根県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程修了。2009年、理研バイオリソースセンター 特別研究員。2012~15年、米国ハーバード大学 研究員を経て、2015年、理研バイオリソースセンター研究員。2018年より現職。

マウスの胎盤の試料を手にマイクロマニピュレーターを操作する的場研究員の写真マイクロマニピュレーターを操作する的場研究員

「母が動物好きで、家で小鳥やリス、ハムスターやネコを飼っていました。私も動物が大好きになり、将来は獣医さんになりたいと思っていました」。東京大学農学部獣医学課程に進学。「学生時代は、バードウオッチングをしに北海道から沖縄まで全国各地を訪ね歩きました」

4年生から、マウスの生殖細胞などを研究する獣医解剖学教室に。「精子のY染色体にあるSRYというたった1個の遺伝子により、性別が雄に決定されます。そんな面白い現象があることを知り、生殖の基礎研究に興味を持ちました」

2009年、理研の遺伝工学基盤技術室へ。そこは、体細胞クローンマウスを作製する技術を持つ、世界でも数少ない研究室の一つだ。顕微鏡下でマイクロマニピュレーターという装置を用いてマウスの卵子から核を取り除き、ほかのマウス(ドナー)の体細胞の核を移植してクローン胚を作製、ドナーと同一の遺伝情報を持つクローンマウスを生み出す。「上手に取り扱わないと、卵子が死んでしまいます。その技術を習得するのに1年近くかかりました」

皮膚や筋肉などの体細胞では、それぞれに必要な遺伝子からタンパク質がつくられ、ほかの遺伝子は発現しないように封印マークが付いている。そのような遺伝子の発現パターンの記憶を「エピジェネティクス」という。「卵子に移植された体細胞核は、不思議なことにエピジェネティクスが初期化され、次世代の個体を生み出す全能性を持つようになります。しかし卵子の力でも書き換えが難しいマークがあるため、エピジェネティクス異常が起こり、クローン胚からマウスが誕生する成功率はわずか1%ほどです」

クローン胚のエピジェネティクス異常を調べれば、正常に進む生殖の仕組みを探ることができる。的場研究員は2012年、エピジェネティクス異常を研究すべく米国ハーバード大学へ。そこでDNAが巻き付くヒストンH3K9に付いた封印マークが、卵子の力では外れにくいことを発見。さらに、特定の酵素を使ってその封印マークを外すと、体細胞クローンマウスの成功率が大きく向上することを、2014年に証明した。この結果から、正常な生殖ではどこかの段階でこの封印マークを取り除く仕組みがあることが明らかになったのだ。

2015年、ハーバード大学から理研へ復帰。2018年には、米国の研究室で同僚だった理研の井上 梓 上級研究員(生命医科学研究センター 代謝エピジェネティクスYCIラボ)の研究をヒントに、本来は母由来の遺伝子にあるヒストンH3K27に付いた封印マークが、クローン胚では外れていることを発見。「このヒストンH3K27に制御される遺伝子の多くが胎盤形成と関係しています。それらの遺伝子を手掛かりに、クローン胚に多い胎盤形成異常の原因を探る研究を進めています。そもそも卵子にあるどのタンパク質が働き初期化が行われるのか、その仕組みはブラックボックスのままなのです。その大きな謎に迫っていきたいと思います」

「ラボで実験と研究にばかり夢中になっていると、自然界から懸け離れてしまう気もしています」と的場研究員は打ち明ける。「まったく新しい研究テーマを始めるには勇気が要ります。研究材料や分析手法などをゼロから開発する必要があり、いつ論文にまとまるかも分かりません。それでも、せっかく研究者になったからには、いずれ身近な動物の不思議を解く、自分ならではの研究領域を切り拓いてみたいですね」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2019年11月号より転載

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