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2020年5月11日

タンパク質3Dプリンティングの実用化を目指す研究者

タンパク質分子だけを使った3Dプリンティングの技術開発に成功した研究者がいる。光量子工学研究センター 先端レーザー加工研究チームのDaniela Serien(ダニエラ・ゼリーン)特別研究員(以下、研究員)だ。子どものころから漫画など日本文化に親しんできたと語るSerien研究員の素顔とは。


ダニエラ・ゼリーンの写真

ダニエラ・ゼリーン 特別研究員

光量子工学研究センター 先端レーザー加工研究チーム

1987年、ドイツ・ベルリン生まれ。博士(情報理工学)。東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻博士課程修了。2016年、理研 光量子工学研究領域基礎科学特別研究員などを経て、2020年より現職。

タンパク質3Dプリンティングの原理(左)と立体構造の図 図 タンパク質3Dプリンティングの原理(左)と立体構造
タンパク質分子を純水に溶かして薄膜状にする。そこに極短時間の光(パルス)であるフェムト秒レーザーを当てると、焦点で分子同士が結合する。焦点を3次元で走査することで立体構造をつくることができる。右は、ウシ血清中のアルブミン分子を結合させたもの。

「小学生のころ、動物が好きで将来は獣医さんになりたかったですね」というSerien研究員はドイツのベルリン育ち。「漫画も好きで、欧米の作品のほか、10代になると『美少女戦士セーラームーン』など日本の作品も読むようになりました。『NARUTO』の登場人物のコスプレをしたことも(笑)」

生物学が好きで、数学が得意だったと語るSerien研究員は、ベルリン・フンボルト大学に進み、生物物理を専攻。「光に反応するチャネルロドプシンというタンパク質について学びました。光が当たる位置によって、さまざまな現象が起きます。数学を駆使したコンピュータ・シミュレーションや量子力学により、その現象の仕組みを探っているうちに、タンパク質という分子が面白くなったのです」

修士課程の途中で交換留学生として東京大学へ。さらに同大学の竹内昌治 教授の研究室で博士課程に進んだ。「ドイツで出会った日本語の美しさと、日本での2カ月間のボランティア活動経験から、日本で学ぶことを決意しました。竹内研究室は微小デバイスをバイオ分野に応用する研究を行っていて、そこでレーザーによる3Dプリンティングに出会ったのです」

3Dプリンティングでは、レーザーの強度が高くなる焦点だけで、材料となる分子同士が結合する化学反応が起きる。その焦点を3次元に走査することで、微小な立体構造をつくる。「材料に化学合成ポリマーを使った研究が多いのですが、私は天然のタンパク質を結合させることに挑みました」(図左)。先行研究では、光を吸収して結合を促進させる光活性剤を混ぜる手法が用いられてきた。「その光活性剤の濃度をさまざまに変えて実験を行った結果、光活性剤がなくても結合できることが分かったのです」

2016年、理研へ。「私はタンパク質の形や機能をなるべく変えずに結合させることを目指しています。大学ではDMSOという溶媒にタンパク質を溶かしていましたが、タンパク質の形や機能を変化させる可能性があり、純水に溶かすことにしました。そして2019年、タンパク質分子だけを結合させたマイクロサイズの立体構造の作製に成功したのです」(図右)

タンパク質製の微小立体構造は、どんな分野に応用できるのか。「人体の臓器や組織は、さまざまな種類の細胞が立体的に結合してできています。例えば、それらの細胞同士をつなぐ足場として利用できるでしょう。細胞や人体に用いる際、光活性剤などタンパク質以外の物質が混じっていると悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、タンパク質だけを結合させることを目指していたのです」

「実用化に向けて、タンパク質とレーザー光の相互作用を調べる基礎研究を積み重ねて、結合のさせ方を改良する必要があります」とSerien研究員。「今の技術では、タンパク質同士がランダムな部位で結合していますが、それではタンパク質の機能を利用できないケースがあるので、特定部位で結合させる技術も必要です」

「レーザーを扱うのが大好きだし、立体構造をデザインするのも楽しい。タンパク質という分子の可能性をさらに広げていきたいですね」。もちろん、日本を楽しむことにも意欲的だ。「今は和太鼓を習っています。通っている和太鼓教室は、アットホームな雰囲気で活動していて、私にとって気持ちをリフレッシュする大切な時間となっています。胸を張り腰を落として打ち鳴らす和太鼓は、全身を使って演奏する“音楽”であり“スポーツ”です。太鼓演奏を通して日本の伝統と文化を深く感じることができます」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2020年5月号より転載

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