1. Home
  2. 採用情報
  3. 若手研究員の素顔

2020年10月7日

ミクロとマクロをつなぐ法則を探究する研究者

理研白眉(はくび) は、並外れた能力を持つ若手研究者に独立して研究を推進する機会を提供する制度である。その研究分野は、科学的あるいは社会的にインパクトの大きい野心的な領域であることが求められる。2020年、理研白眉研究チームリーダー(白眉TL)に博士号を取得したばかりの20代の理論物理学者が選ばれた。非平衡量子統計力学という未完領域の構築を目指す濱崎立資 白眉TLだ。高校時代には国際物理オリンピックで銀賞に輝いたという濱崎白眉TLの素顔に迫る。


濱崎立資の写真 撮影:STUDIO CAC

濱崎立資 理研白眉研究チームリーダー

開拓研究本部 濱崎非平衡量子統計力学理研白眉研究チーム

1992年、神奈川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。2020年4月より現職。理研数理創造プログラム(iTHEMS)上級研究員を兼務。

図 非平衡状態と平衡状態

神奈川県厚木市で生まれ育った濱崎白眉TL。「小学校のころから理科や算数が好きで、因数分解の公式を自分で導き出したりしました。そのころからずっと法則を見つけることに興味を持ち続けています」

中学・高校は私立の栄光学園へ。「授業で学習指導要領にない内容も教わりました。中学では数学の先生が出してくださる難問が面白くて、それを解くことに没頭しました」

やがてその興味は数学から物理へ。「高校に進んだ2008年、南部陽一郎、小林 誠、益川敏英の3人の先生方がノーベル物理学賞を受賞されました。それがきっかけの一つです。また、物理では実際に自然界で起きる現象の法則を数学で理解するところが、美しいと感じたのです」。そして国際物理オリンピックを目指した。「姉が生物、同級生が化学の国際オリンピック日本代表になったことに刺激され、私は物理で挑戦しようと」。5人の日本代表の一人に選ばれ、2010年のクロアチア大会に。「海外はそのときが初めて。物理学は世界共通のもので、同年代に優秀な人がたくさんいることを実感しました」

東京大学に入学して理学部物理学科へ。「一見異なる現象に、同じような法則が働く普遍性を見いだすこと。それが私にとって物理の魅力です。その普遍性を最もよく体現している統計力学を学ぶことにしました。統計力学は、ガスのように多数のミクロな粒子が集まったマクロな状態の法則を知るための学問です。例えば統計力学によって、ガスの体積・温度・圧力とそれを構成する分子の数の関係(状態方程式)など、ガスのおよその法則が分かります。さらに、この法則は酸素であっても窒素であっても同じであり、分子の詳細によらない普遍性が存在するわけです」

どんな課題に取り組んだのか。「箱の端からガスを入れると中に広がっていきます。最終的に箱の半分には、統計的にいえば全体の50%の数の分子が分布しています。当たり前ですよね。しかしそれを、量子力学に従う分子1個ずつの振る舞いから説明することはできていないのです。私は上田正仁教授の研究室に入り、ミクロとマクロをつないで量子力学の方程式から統計力学の法則を導き出す研究を始めました」

野心的な研究が求められる理研白眉で目指すものは。「大学では主に、平衡状態において統計力学の法則がなぜ正しいのかを研究しました。理研白眉ではさらに難しい非平衡状態の解明に挑みます」。ビーカーの水にインクを垂らしたとき、インクが広がる過程が非平衡状態、インクが混ざり切って動きが止まって見える状態が平衡状態だ(図)。

「非平衡状態にも何らかの普遍的な法則があるのかどうか、それは古くから多くの人たちが取り組んできた物理学の未解決問題です。ただし、それを量子力学の基本原理から導くという試みは多くはないと思います。これによって非平衡量子統計力学を解明していきたいと考えています。最近では、量子力学が予言するミクロの粒子1個ずつの振る舞いを、極低温に冷却した原子で検証する実験も可能になるなど、この分野はますます面白くなっています。実験系の研究者とも連携しながら非平衡状態の法則を量子力学から導き出し、またその普遍性を生かすことで、量子情報技術や生物学など一見関係のない研究にも応用できないかと、もくろんでいます」

子どものころ父親の影響でバスケットボールを始めた濱崎白眉TL。「栄光学園ではバスケットボール部、さらに大学でも趣味として続けました。新型コロナウイルスの感染拡大が収まれば、ぜひ再開したいですね」

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2020年10月号より転載

Top