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2023年3月13日

“微生物ダークマター”を追え!

発酵食品や抗生物質をつくったり、環境中の汚染物質を分解したり、このような微生物の働きは私たちの生活のあらゆる場面で役立てられています。しかし、人類がその正体を明らかにしている微生物は、地球上に存在する全微生物のわずか1%程度にすぎません。残りの膨大な数の微生物は謎に包まれており、宇宙を満たす未知の暗黒物質(ダークマター)になぞらえて"微生物ダークマター"と呼ばれています。加藤 真悟 開発研究員は、そんな微生物ダークマターの一つを捉えました。

加藤 真悟の写真

加藤 真悟 開発研究員

バイオリソース研究センター 微生物材料開発室

1981年山口県生まれ。東京薬科大学大学院 生命科学研究科 生命科学専攻修了。博士(生命科学)。理研 基礎科学特別研究員、米国デラウェア大学 海外特別研究員、海洋研究開発機構 特任研究員などを経て、2018年より現職。

鉄を酸化、還元する微生物「MIZ03株」の図

図 鉄を酸化、還元する微生物「MIZ03株」

茨城県つくば市の湿地帯で見つけた「鉄マット」と呼ばれるオレンジ色の酸化鉄沈殿物(左)から、鉄を酸化も還元もする新たな微生物を発見した。この「MIZ03株(JCM No.34246)」は微生物材料開発室で保存され(中)、研究機関などへも「バイオリソース」として提供される。(右)は電子顕微鏡写真。長径は約2マイクロメートル(μm、1μmは1,000分の1mm)。

99%の微生物は謎に包まれている

微生物の機能を明らかにするには、その微生物だけを分離、培養し、増殖させる必要がある。しかし、その微生物がどのような条件で増殖するかを突き止め、その環境を実験室で再現することは簡単ではない。今のところ人類が培養できる微生物は、地球上に存在する数百万種以上の微生物のうち、わずか1%と見積もられている。

「そのわずか1%の微生物から、私たちはすでに多くの恩恵を受けています。残りの99%にもまだまだ有用な機能を持つ微生物がいるかもしれない。その中から超有用な微生物を発見することは夢物語ではありません」

そう話す加藤 開発研究員は、これまで温泉や深海底の熱水噴出孔など、強い酸性や高温という特殊な環境に生息する微生物群集を採取し、その機能や生態系での役割を調べてきた。特に興味を引かれたのが鉄の酸化還元に関わる微生物だ。環境中の物質循環に重要な役割を担っているのではないかと考えたからだ。

常識を覆す微生物を発見!

そして2021年、加藤 開発研究員は地球表層の大部分を占める中性pHの環境で、鉄を酸化も還元もする微生物を発見した(図)。

「中性で酸素のある環境では、鉄は自然に酸化し、さびとなって沈殿してしまいます。今回発見した微生物は、鉄が自然にさびとなるより先に酸化することでエネルギーを得て増殖します。しかも、環境に酸素がなくなると、今度は酸化させた鉄さびを還元します。微生物が単独でこうした機能を持つことは、今までの常識では考えられませんでした」

微生物がつくるナノサイズの酸化鉄は重金属などを効率的に吸着させるため、有害な重金属の除去やレアメタルの回収など産業利用への応用が期待できる。さらに、1種の微生物単独で、鉄の酸化と還元の両方をコントロールできることは、利便性の面で大きなメリットだ。

地球上の微生物を「全て培養したい!」

今回の成果により、"微生物ダークマター"の一つが明らかになったが、まだ多くが闇の中だ。

「逆説的ですが、どうして培養できないか、その理由は培養できて初めて分かるんです。私の究極の目標は、地球上に存在する全微生物を培養し、微生物が持つ機能や有用性を全て明らかにすること。そのために、未開拓の微生物を分離・培養するための新たな方法論の構築にも力を入れていきます」

(取材・構成:秦 千里/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

2021年12月1日公開「クローズアップ科学道」より転載

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