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2024年5月17日

量子コンピュータ開発に挑む若手研究者たち~数学的な解を探す回路設計に魅了されて

希釈冷凍機の白い容器の中には、金色に輝く複雑な装置。超伝導量子ビット64個が配置されたチップの底部からマイクロ波の配線が無数に延び、さまざまな部品と結合しています。2023年3月にクラウド公開した量子コンピュータの本体です。実機の組み立て、デバイスの開発、回路設計など、それぞれの側面から携わった、量子コンピュータ研究センター(RQC)の研究者を取材しました。

64量子ビット集積回路チップの写真 図 64量子ビット集積回路チップ
  • (左)量子計算を行う64量子ビット2次元集積回路チップ。4量子ビットからなる基本ユニットを16個並べた設計で、超伝導体である窒化チタン膜により金色に輝く。
  • (右)4つの量子ビットからなる基本ユニットの模式図。正方形四隅に量子ビットが並び、中央に読み出し回路を配置している。

パズル的な面白さが原動力

量子コンピュータとの関わりは一直線とは言えません。2007年、京都大学 工学部の北野 正雄 教授(当時)の研究室に学部4年生のときに入り、量子光学の実験研究で学位を取りました。ですが、北野研に入った当時は量子光学の研究に特別興味を持っていたわけではありませんでした。学部時代に北野 先生の著書『電子回路の基礎』を読んで、数学的に厳密に回路素子の動作をモデル化し、その上でデバイス設計をするというスタイルに興味を引かれていました。手を動かすことが好きだったので工学部に入りましたが、数学も大好きでした。一言で言えば、「パズル的な面白さ」が好きで、それが私の研究開発の原点になっています。

大学院では2年上の物理工学科の藤井 啓祐さん(現 RQC 量子計算理論研究チーム チームリーダー)たちと議論を重ね、理論的な部分を鍛えられました。当時、藤井さんは日本で唯一と言っていいほど、誤り訂正に打ち込んでいた方で、量子コンピュータ開発に興味をもったのは、量子誤り訂正符号のパズル的な面白さに引かれた部分が大きいです。

学位取得後の2013年からポスドクとして理研の山本 喜久 グループディレクター(創発物性科学研究センター 量子光学研究グループ、当時)のところで、光量子コンピュータの実験を行い、その後、東京大学の中村 泰信 教授(現 RQC センター長)の研究室に特任助教として移って、超伝導量子コンピュータの研究開発に携わるようになりました。以後ずっと回路設計担当で、北野 先生の著書に惹かれた興味の原点に回帰できました。そして約2年前にまた理研に戻ってきたのです。

フィルター回路で高速に読み出す

今回の64量子ビットでは、とにかく多くの配線を限られた空間内にどう収めるかを考え、さらに新しい素子の設計開発も行いました。それが、計算結果の読み出し効率を上げるためのフィルター回路の設計です。量子ビットに当てたマイクロ波の反射波から計算結果が0か1かを高速に測定する必要がありますが、マイクロ波をあまり強く結合させると量子ビットの状態が壊れることがあります。量子ビットの状態を保ちつつ、測定操作を高速化させるためには、読み出し用のマイクロ波をきちんと通し、しかも量子ビットからの輻射は逃さないようなフィルターを間に設置する必要があります。64ビットでの設計業務は、始めはほとんど一人でやっていましたが、途中でこういった回路設計に長けている助っ人が現れました。オックスフォード大学からきたポスドクのピーター・スプリングさんで、最終的なものは一緒に設計しました。

目標の144ビットについては、回路設計をどうやって単純化できるかを考えているところです。また、4量子ビットのユニットセルを並列に並べていったらどういう性能が出るのか、評価方法についても検討しています。このような評価は大規模化には必要不可欠です。大学院時代に面白さを知った誤り訂正も少し追いかけていますが、そちらの"原点回帰"はもっと先になりそうです。

(取材・構成:由利 伸子/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

2023年9月4日公開「クローズアップ科学道」より一部を転載

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