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研究最前線 2022年7月25日

有機分子と金属のハイブリッド磁石

らせん状の有機分子が"金属と熱"で磁石になることを、独自発想の実験で示した近藤浩太上級研究員(以下、研究員)。この磁石はナノサイズの薄膜で、磁気メモリなどの金属磁石とは違い、温度を上げると磁性が強くなります。この不思議な磁石をどうやって発見し、今後どのように研究を進めるのか、近藤研究員に聞きました。

近藤 浩太の写真

近藤 浩太(コンドウ・コウタ)

創発物性科学研究センター
量子ナノ磁性研究チーム
上級研究員

有機分子磁石の可能性を追い求めて

磁石を分子サイズにできれば、磁気メモリの容量が飛躍的に大きくなるなど、多大なメリットがある。しかし、金属磁石は小さくしていくと、室温では外部の熱エネルギーによって磁性を保てなくなる。そこで注目されるのが有機分子だ。

1999年にらせん状の有機分子(バネ分子とも呼ぶ)に電流を流すと磁石になり、左巻きと右巻きでは磁性の向きが逆になることが発見された。2017年には、コバルトと金の2層薄膜の上にバネ分子を付けると、コバルトの磁性の向きが反転するという論文が発表された。「これは、電流を流さなくてもバネ分子が磁石になる可能性を示しています。面白い!探ってみようと思いました」と近藤研究員。

電気抵抗で磁性を感知

物理の先端分野「スピントロニクス」に携わってきた近藤研究員は、巨大磁気抵抗効果に着目した。これを用いると、電気抵抗の変化から高感度で磁性の有無と向きを知ることができる。

そこで考えたのは、バネ分子の膜と強磁性金属の膜(ニッケル膜)の間に電流を流し、外部から磁場をかけてニッケル膜の電気抵抗を測る実験(図1)。電流は抵抗の低いニッケル膜に流れ、バネ分子膜には流れない。実験の結果、右巻きのバネ分子の場合、正の向きの外部磁場をかけると電気抵抗が小さくなり、負の向きの外部磁場では大きくなった。一方、左巻きでは逆の現象が生じた。

電気抵抗の変化は、電流なしでバネ分子が磁石になっていることを示す。バネ分子とニッケル膜の磁性の向きが同じだと電気抵抗が小さくなり、逆だと電気抵抗が大きくなるのだ。

バネ分子(右巻き)による磁気抵抗効果の実験の図

図1 バネ分子(右巻き)による磁気抵抗効果の実験

  • 上:正の磁場をかけると、ニッケル膜の磁性の向きがバネ分子の磁性の向きと同じになるので、電気抵抗が小さくなる。
  • 下:負の外部磁場をかけると、ニッケル膜の磁性の向きが逆になるので、電気抵抗が大きくなる。

金属の電子が熱でバネ分子に飛び移る

実験は室温で行われたため、「さらに冷やせば雑音が減り現象がクリアになる」と考えられたが、実際に行ってみたところ、低温にするほど抵抗の変化が小さくなり、ついには消えてしまい磁石ではなくなった。

このことから温度と磁性の関係について考察を重ね、強磁性のニッケルから熱で電子がバネ分子に飛び移る「ホッピング伝導」によりバネ分子に磁性が生じることが分かった。温度が上がると電子の飛び移る確率が上がり、より強い磁石になる。「強磁性でなくても"金属と熱"で磁石になるはずです。今後、種々の金属を用い、バネ分子の構造も変えて試します。金属膜上でバネ分子がどんな構造と密度で並んでいるかも探りたい。基礎を固め、分子磁石への足がかりになれば」と意欲を示す。

仲間との連携が研究進展のバネに

今回の成果は、近藤研究員が学部では有機化学、大学院では化学専攻の中でも物理の先端分野を扱う研究室で学び、両分野の知識と技術を繋いだことにある。また、仲間の支えも大きい。バネ分子の作成は同じ創発物性科学研究センターの宮島大吾ユニットリーダーたち、それをニッケルとの2層膜にしたのは東京大学三輪真嗣准教授のグループだ。「分野ごとに価値観も違うので刺激的です。バネ分子の構造の確認は、東大の新たなグループと組むので、楽しみです」

(取材・構成:由利伸子/撮影:古末拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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