シミュレーションで何ができるの?
スーパーコンピュータを使って、さまざまなシミュレーションを行う坪倉誠博士を訪ねました。博士といっしょに「シミュレーション」について考えよう!
坪倉 誠 博士
計算科学研究センター 複雑現象統一的解法研究チーム
チームリーダー
私は空気や水の流れ方を、コンピュータを使ってシミュレーションし、それをものづくりなどに応用しています。現在はおもに自動車メーカーと連携し、車の性能に関わるシミュレーションのシステムを設計しています。
新型コロナウイルスの感染が拡大していたころには、飛沫の飛び方を シミュレーションし、目に見える形で発表しました。それをきっかけにさまざまな研究者から声がかかり、新たな研究につながりました。見えないものを見えるようにするシミュレーションには、異なる分野の専門家たちを集め、その知識を一つにまとめる力があると実感しています。将来は、災害などの緊急時に最適な答えを導き出すためにも、シミュレーションを中心とした専門家たちの集まる場をスーパーコンピュータの中につくりたいと考えています。
あらゆる自然現象はなんらかの法則の上に成り立っていて、「式」で表すことができるよ。その式を解けば、現象をコンピュータの中に再現し、観察したり予測したりできるんだ。それが「シミュレーション」だよ。現実には実験できないことも、シミュレーションでなら調べることができるから、物事のしくみを探ったり、製品の性能を調べたり、未来を予測したり、さまざまな分野で必要不可欠な技術になっているんだよ。
大きく分けて二つの研究方法があるよ。
それらが合わさって科学は発展してきたんだ。
ものづくりの現場でもシミュレーションは大きな力を発揮しているよ。たとえば車を開発・設計するとき、どのようにシミュレーションが行われているのか、見てみよう!
走っている車は空気から力を受けていて、それが車の性能に大きく影響する。そのため、試作車や模型に送風機で風を当てて、空気の流れを調べる実験が必要なんだ。ただ、実験だと実際に走るときと状況が異なるし、時間も費用もかかってしまう。そこで、実験の代わりにシミュレーションが行われるようになっているんだよ。
最近は実験の代わりだけでなく、現実により近い状態でシミュレーションができるようになっている。コンピュータの中で車を走らせ、突風や追い越し、急ハンドルなど、現実の実験では難しいことや危険なことも調べることができるんだ。
シミュレーションでは、車の形を少しずつ変えて性能を調べ、いちばん適した形を探し出すことができる。
売れるのは性能がよくて、デザインもいい車。ただ、性能を追求するエンジニアとかっこよさを追求するデザイナーは目指すものがちがうから、バランスをとるのはとても難しいんだ。そこで、デザイナーのデザインを数値化してコンピュータに入れることで、両方がいいと思える形をAIが探し出し、提案できるようになってきたんだよ。
非常に複雑なシミュレーションやAIの計算を可能にするのが、スーパーコンピュータ「富岳」。みんなのパソコンの数十万倍ものスピードで計算できるから、短時間でものすごい量のデータを処理することができるんだ。
(編集・文:財部 恵子/デザイン・イラスト:藤原 有紀子/撮影:大島 拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)
画像提供:国土地理院(*1の地図データ)、北翔大学・神戸大学・理研(*2)、理研・豊橋技術科学大学(協力:京都工芸繊維大学・大阪大学)(*3)、マツダ株式会社(*4、*5)――マツダ(株)から許諾を得て使用しているため、他への転載・転用を一切禁ずる