生きものの世界を数学で読みとく
生きものの多様性を、数学注)の式を使って研究している入谷 亮介 博士を訪ねました。
博士といっしょに「生きもの」や「数学」について考えよう!
- 注)数、量、図形などを研究する学問。中学の数学ではその基礎を学びます。

地球上には、さまざまな生きものが互いに関わり合って生きています。私はこの複雑で多様な生きものたちを、数学の式を使って研究しています。観察や実験をするのではなく、生きものの世界で起きていることを式に表して計算し、理由を明らかにしたり、推測したりしています。
まったくちがう現象に見えることも式にしたら同じだったり、計算してみたら予想外の答えが出てきたり、生きものの世界の面白さに日々、わくわくしています。何より、子どものころから好きだった生きものを、好きな数学を使って研究できるのは本当に楽しいですね。将来は、生きものの多様性をどう守るかという問題に取り組みたいと考えています。どの種を優先的に守っていくべきか、異なる意見をどのように集計して社会に生かすかなど、難しい問題を数学的な視点から考えたいと思っています。

![ΔE[x]=Cov[x,w]+E[wΔx]](/medialibrary/riken/pr/hakase/r_iritani/r_iritani_fig_4.jpg)

=Cov[x,w](進化を起こす力の強さ)+E[wΔx](遺伝の差による効果)](/medialibrary/riken/pr/hakase/r_iritani/r_iritani_fig_6.jpg)


自然界で起こる現象はとても複雑だから、そのままでは理解するのが難しい。そこで、起こっていることをよく見て、重要だと思う特徴や性質を見つけ出し、それを式で表現するんだ。そうすると、複雑なことがシンプルになって理解しやすくなるんだよ。この式を「数理モデル」と呼んでいるよ。数理モデルで考えると、その現象が起こる原因がわかったり、将来を予測できたりするから、さまざまな分野の研究で使われているんだ。





生きものの数が時間とともにどう変化するのか、ウイルスがどんな速さで広まるのか、ある生きものが生き残る確率はどのくらいかなど、生きものの不思議を数学で読みとくことができるよ。どんなことがわかるのか、簡単に紹介しよう!

女王アリを助けて働く場合と助けない場合を計算で比較すると、女王アリを助けたほうが働きアリの遺伝子が多く残ることがわかるよ。働きアリは女王アリの子どもだから、女王アリと同じ遺伝子を持っている。女王アリのために働くことで、自分の遺伝子が残る確率も高まることになるんだね。


タンポポのタネの飛び方を式に表し、計算してみると、より遠くにタネを飛ばしたほうが、綿毛がないタネよりも多くの子孫が残せることがわかるんだ。同じ親から生まれたタンポポのタネがせまい土地で光や養分を取り合うより、遠くまで広がって競争をさけたほうが有利なんだね。


ハチの巣は正六角形が並んだつくりをしているけど、どうして正六角形なんだろう?
同じ図形で平面をすきまなく埋め尽くせる正多角形は、正三角形、正方形、正六角形の3つしかない。部屋を囲む壁の長さが同じだった場合、この3つの中で壁の面積がいちばん小さくなるのが正六角形なんだ。つまり、少ない材料で効率的に巣をつくれるということだよ。ハチたちは自然と一番適した形を巣に取り入れているのかもしれないね。





動物が食べものなどをめぐって同じ種の相手と戦うとき、まるで儀式のように威嚇するだけで決着をつけ、本気では戦わないことがよくあるよ。なぜだろう?
争いになりそうなとき、動物たちがとる行動は、攻撃するか、平和的にふるまうかの2つしかない。どうなるのか見てみると…。

- (左)食べものを分け合う。
- (中)攻撃的なネコがひとり占め。平和的なネコにけがはなく、おこぼれを得られることも。
- (右)食べものを奪い合う。大けがをする可能性が高く、リスクが大きい。
左右にスクロールできます
平和的なネコB | 攻撃的なネコB | |
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平和的なネコA | ![]() |
![]() |
攻撃的なネコA | ![]() |
![]() |
相手が平和的なら、攻撃的に食べものを奪ったほうが有利だけど、相手が攻撃的な場合は、けがをするから攻撃的にふるまうのはリスクが高いよ。だから、「自分は攻撃的だぞ!」というふりだけして、本気では戦わないことが多いんだね。

自然界に見られる「形」には、数学的な法則がかくれているものがたくさんあるよ。シダの葉のような複雑な形が、実はシンプルな形のくり返しなのもその一つ。こうした形はいろいろな場所にひそんでいるから、身近なものをよく観察して、見つけてみよう。

- (左下)シダの葉の一部分は全体の葉の形とよく似ている*5。
- (右下)ブロッコリーの仲間のロマネスコも、全体の形とよく似た円すい形が並んでいる*6。


(編集・文:財部 恵子/デザイン・イラスト:藤原 有紀子/撮影:古末 拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)
画像提供:よねやん/PIXTA(*1)、msks/PIXTA(*2)、Aleksrybalko/PIXTA(*3)、TOSHI.K/PIXTA(*4)、MakiEni/PIXTA(*5)、tonko/PIXTA(*6)