「すごい光」で小さな世界を観察する
今回は放射光科学研究センターのセンター長 石川哲也博士を訪ねました。博士といっしょに、小さなものを見るための「光」について考えよう!

ものを見るには光が必要です。顕微鏡でも見えない小さなものでも、X線という光を使って見ることができます。大型放射光施設「SPring-8(スプリングエイト)」は、強力なX線を発生させて、非常に小さなものを観察する研究施設です。
私たちのまわりには、光合成のように「何が起こっているか」はわかっていても「なぜ起こるのか」がわからない現象がたくさんあります。SPring-8は「なぜ起こるのか」を原子のレベルで見つけるための施設です。世界各地から研究者が「なぜ」の答えを求めてここに集まり、研究を行っています。多くの企業も利用し、たくさんの製品がここから誕生しています。研究だけでなく、SPring-8をもっとほかのことに生かせないか?そんなアイデアを考えるのもセンター長である私の役割の一つです。2029年にはより性能の高いSPring-8-Ⅱが完成する予定です。今後も最先端の研究はもちろん、みなさんの生活が豊かになるような研究を支えていきたいと思っています。

太陽の光には、さまざまな種類の光がふくまれているよ。

実は光は「電磁波」という波の一種なんだ。波と波の間の長さのことを「波長」というよ。この波長のちがいによって、光の性質が異なるんだよ。




すべての物質は「原子」という目に見えない小さな粒でできているよ。その大きさは1㎜の1,000万分の1。とっても小さいから、ふつうの顕微鏡では見ることができないんだ。原子を観察するには、波長が短い光が必要なんだ。X線の波長は可視光の約1万分の1。波長がとても短いX線は、小さなものを見るために欠かせない光なんだよ。

波長が長い波の中に小さなものがあっても、波は何事もなかったように伝わっていくね。波長が短い光を使わないと、小さなものをとらえることはできないんだ。




兵庫県佐用町にある巨大な研究施設「SPring-8」。世界最高レベルの強いX線(放射光)をつくり出し、原子のようなとても小さなものを調べることができる施設だよ。どんな施設なのか見てみよう!

SPring-8。Super(超高性能)、Photon(光の粒)、ring(蓄積リング)、8ギガ電子ボルトから名づけられたよ。



より強い放射光を発生させる装置アンジュレータ

蓄積リング棟の実験ホール。1日300人もの研究者が24時間ここで実験・分析していることもあるよ。

1周約1,500mの蓄積リング。電子のエネルギーや量をつねに一定に保ちながら、周回させているよ。

光速に近いスピードで進む電子は、曲がるときに太陽の100億倍も明るい「放射光」という強い光を出す。SPring-8ではたくさんの磁石などで電子を次々に曲げて放射光を発生させ、そこから強力なX線を取り出しているよ。


SPring-8の強力なX線は、原子や分子の並び方を観察したり、内部を透視したり、ふくまれている元素の種類を明らかにしたりすることができるよ。








今あるSPring-8を一新し、現在の100倍の明るさになるSPring-8-Ⅱを建設する計画が進んでいるよ。建物やビームラインはそのまま使い、蓄積リングだけを新しくするんだ。性能が大きく上がるだけでなく、使う電力を今の60%に減らす予定だよ。2029年に完成したら、世界一の大型放射光施設になるんだよ。

SPring-8-Ⅱには上の図のような、より性能を高めるための新しい装置が導入されるよ。


制作協力 / サイテック・コミュニケーションズ、編集・文 / 財部恵子、デザイン・イラスト / 藤原有紀子、撮影 / 大島拓也