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2010年5月24日

理化学研究所

将来のゲノム設計士を育成する国際科学技術コンテストをウェブ上で初開催

ポイント

  • グリーンイノベーションの課題「環境浄化作用高める植物のゲノム設計」を募集
  • 世界中の研究者からゲノム設計理論をコンテスト形式で蓄積し集合知として共有化
  • 研究者に限らず高校生も参加できる、バーチャルラボでの人材育成型コンテスト

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)の生命情報基盤研究部門(豊田哲郎部門長)は、「ゲノムの設計図を合理的にデザインする技能」をウェブ上で競いあう世界初の国際科学技術コンテストである「合理的ゲノム設計※1コンテスト(GenoCon)」を、2010年5月25日から9月30日まで理研サイネス※2の情報基盤上で開催します。

GenoConは、理研サイネスに統合されているゲノムデータやタンパク質データなどの公開データベース群を活用して、植物の生理機能を高めるためのDNA配列を参加者に合理的に設計してもらうコンテストです。第1回目は、『空気中からホルムアルデヒドを除去して効果的に無毒化する機能を植物(シロイヌナズナ)に付与する』という課題でゲノムデザインを募集します。参加者は理研サイネスが提供するバーチャルラボを使ってウェブブラウザ上でプログラミングを行うことで、DNA配列を合理的にデザインして提出します。参加者が設計したDNA配列は、理研などの専門の研究機関が法令などで定められた安全管理基準の下で、シロイヌナズナに導入してその機能を実験的に検証します。

GenoConは、オープン形式で共通の課題解決に取り組む「公開型最適化研究(オープン・オプティマイゼーション)※3」という連携研究の仕組みと情報基盤を新たに提供し、バイオマス工学やグリーンイノベーション分野の発展に貢献します。コンテスト形式を採用することで、世界中の研究者から合理的ゲノム設計の手法とプログラムを募集して蓄積し、クリエイティブコモンズ※4のライセンスの下で積極的に共有化していくことで、情報合成生物学※5を発展させるための集合知を形成していきます。

また、このコンテストでは、国内外の研究者や大学生に参加を呼びかける「研究部門(本選)」に加えて、高校生でも参加できる「高校生部門」も用意しました。GenoConは、ゲノム科学、環境科学、バイオインフォマティクスや情報科学など、幅広い分野の専門知識と安全管理に詳しい人材の育成を目指すとともに、ROBOCON※6のように科学技術や知識を競い合うことで若者に知的興奮と先端科学を楽しく学ぶ機会を提供し、次世代を担う科学技術人材の育成に貢献します。

GenoConは、2010年5月25日から、GenoCon公式ホームページの利用規約に従いエントリーが可能になります。

概要

グリーンイノベーションでは、石油などの化石資源に依存した有用物質生産から、再生可能な資源であるバイオマス資源への転換が求められています。特に、化石資源の少ないわが国では、将来海外の資源に頼ることなく有用物質の生産を行っていくために、多様な生物種のゲノム情報を資源として活用し、資源増産につながる機能性植物を合理的ゲノム設計(Rational Genome Design)によって創出する技術の進展が期待されています。

このため、合理的ゲノム設計学についての科学知識、標準技術、安全管理基準などの幅広い知識を身に付けた人材を長期的な視野に立って育成していく必要があります。ゲノム設計(デザイン)は建築に例えると「建物の設計図を描く作業」に相当し、ゲノムの設計図を合理的にデザインすることができる次世代の科学技術人材は、いわば「ゲノム設計士(ゲノムデザイナー)」といえます。

理研生命情報基盤研究部門は、ゲノム設計士の育成効果を期待し、「ゲノムの設計図を合理的にデザインする技能」を競いあう国際科学技術コンテスト「合理的ゲノム設計コンテスト(GenoCon)」を企画しました。GenoConは、理研サイネスにセマンティックウェブ形式※7で収録されているゲノムデータやタンパク質データなどの公開データベース群を活用して合理的にデータ処理を行うプログラムを作成することにより、植物の生理機能を高めるための最適なDNA配列を参加者に設計してもらうコンテストです。第1回目は、『空気中からホルムアルデヒドを除去して効果的に無毒化する機能をシロイヌナズナに付与する』という課題で、DNA配列を設計してもらいます。参加者は理研サイネスが提供するバーチャルラボを使ってウェブブラウザ上でプログラミングを行うことでDNA配列を合理的に設計して提出します(図1)。参加者が設計したDNA配列は、理研などの専門の研究機関が法令などで定められた安全管理基準の下で、シロイヌナズナに導入してその機能を実験的に検証します。コンテストの結果は、設計手法の評価と実験的評価の両方を総合的に審査し、それに基づいて2011年6月頃に理研サイネス上で発表と表彰を行います。

GenoConは、オープン形式で共通の課題解決に取り組む「公開型最適化研究(図2)」という連携研究の仕組みと情報基盤を新たに提供し、バイオマス工学やグリーンイノベーション分野の発展に貢献します。コンテスト形式を採用することで、世界中の研究者から合理的ゲノム設計の手法とプログラムを募集して蓄積し、クリエイティブコモンズのライセンスの下で積極的に共有化していくことで、情報合成生物学を発展させるための集合知を形成していきます(図3)

参加方法

GenoConでは、国内外の研究者や大学生に参加を呼びかける「研究部門(本選)」と、高校生でも参加できる「高校生部門」を用意しました。参加期間は2010年5月25日から9月30日までで、参加希望者は、合理的ゲノム設計コンテストの公式ホームページから理研サイネスのアカウントを取得の上、エントリーを行います。開催概要、募集要項、利用規約、コンテスト課題などの詳細は、公式ホームページに掲載しています。海外向けには英語版の公式ホームページを使って参加を呼び掛けます。

今後の期待

理研生命情報基盤研究部門では、ゲノム科学研究でこれまで蓄積されてきた膨大なデータの付加価値を高めることで「合理的ゲノム設計基盤システム」を構築しています。さらに、このシステムを有用生物資源の創造へとつなげることで、ゲノム科学研究の成果を社会に還元することが可能になります。この合理的ゲノム設計基盤システムは、理研サイネスと呼ばれる生命情報基盤をベースに構築されており、理研のバイオマス工学研究事業など実際の研究現場で活用されます。今回、この情報基盤システムの一部の機能を公開してGenoConを開催することで、世界中の研究者からゲノム設計の手法やプログラムなどを集合知として集め、実際の研究現場の活動をさらに加速させる相乗効果も期待できます。

GenoConは、科学雑誌などが公開している最新の知識情報を、合理的ゲノム設計という形で伝え合う新しいタイプの学術交流の場といえます。また、設計思想をプログラム(アルゴリズム)で合理的かつ客観的に表現させることで、「設計技法の検証と再利用」の循環を促します。さらに、設計用のプログラムを、オープンソースプログラムとして蓄積、発展させていくことで、知識の共有化が実現します。

GenoCon「研究部門(本選)」は、ゲノム科学、環境科学、バイオインフォマティクスや情報科学など、幅広い分野の専門知識と安全管理に詳しい人材の育成が期待できます。将来的には、「ゲノム設計士」という資格制度の創設を目指していきます。「高校生部門」は、ROBOCONのように、若者に知的興奮と先端科学を楽しく学ぶ機会を提供し、科学技術に対する興味と理解を深めるとともに、次世代を担う科学技術人材の育成に貢献します。GenoConの継続的な開催のために、企業スポンサーや個人からの寄付金を募集していくことも将来的に予定しています。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所 生命情報基盤研究部門
部門長 豊田 哲郎(とよだ てつろう)
Tel: 045-503-9610 / Fax: 045-503-9553

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.
    合理的ゲノム設計学(Rational Genome Design)
    合理的設計学(Rational Design)とは、対象とする生体に新たな機能を発現させるために外から生体内へ導入すべき物質の「最適な構造情報」を、生体内に存在する物質から計測されたデータに基づいて客観的なアルゴリズムにより合理的に設計するための技術体系をいう。「合理的ゲノム設計(Rational Genome Design)」とは、上記において設計の目的となる最適な構造情報が生体のゲノムの部分構造である「DNA配列」の場合をいう。ちなみに、上記において設計の目的となる最適な構造情報が、「薬物」である場合は、「合理的薬物設計(Rational Drug Design)」と呼ばれている。
    参考資料
  • 2.
    理研サイネス
    理研サイネス(SciNeS : Scientists’ Networking System=科学者達の連携網システム)は、次世代ウェブ標準であるセマンティックウェブ( ※7参照)に準拠し、セキュリティで区切られた多数のバーチャルラボを同時並列的に内包できるクラウド型のウェブシステムであり、理研の生命情報基盤研究部門で研究開発され運営されている。理研サイネスのバーチャルラボを活用することにより、個々の研究者は自らウェブサーバーを維持することなく、各自のデータベースを構築することができ、研究成果物として外部公開することも可能である。このため、日本の研究者が国際連携研究を進めるための情報基盤として役立つ。個々のバーチャルラボでは、さまざまなコンテストの開催や、公開型最適化研究の場を企画することが容易であり、今回はこのバーチャルラボの1つを使って、GenoConを開催する。理研サイネスのバーチャルラボ群は、実際のバイオマス工学の研究現場において、合理的ゲノム設計・電子ラボノート・データベースなどの総合的な生命情報基盤として実践的に使われる。今回のGenoConでは、その一部の機能を解放し、一般向けに分かりやすい形で開催する。
  • 3.
    公開型最適化研究(オープン・オプティマイゼーション)
    遺伝子組み換えなどの技術によってゲノムのDNA配列をデザインし、有用な生物資源を新規に発明すると、特許を受ける権利が与えられる。しかし多くの場合、最初の試験研究で実施例としてデザインされるDNA配列は、アイデアを検証するために簡便に合成しやすいようにデザインされたものであり、求める有用な機能を最大限に発揮するように最適化されたデザインではない。最適なDNA配列を合理的にデザインするには、生物種ごとに異なる遺伝的背景を十分考慮しつつ既存の知識やデータを最大限に活用できるバイオインフォマティクスのスキルを有する人材が必要である。そしてさらに、最適なデザイン配列を見つけるには十分な数の実施例を試験する必要があり、そのための研究開発費も必要である。このため、せっかく特許で保護されながらも最適な実施例を得られずに実用化が妨げられているケースも多い(いわゆる「死の谷」)。このため、人材育成と経済的合理性の仕組みを最適化研究のプロセスにもたらす必要があり、その方法が課題となっている。この課題に対し、GenoConが提案する「公開型最適化研究」では、最適化探索の過程をコンペ形式でオープンに実施することで、多くの参加者の知恵を結集し蓄積させ、バイオインフォマティクスによる合理的ゲノム設計の人材を育成し、コミュニティー形成による広告企業などとの連携を通じて、経済的合理性と人材育成の仕組み作りを目指すものである。理研サイネスは、このような公開参加型研究の企画をさまざまな分野で実施するためのバーチャルラボ基盤である。さらに、GenoConのオープンオプティマイゼーションはオープンイノベーションの場としても活用できるため、第2回以降のGenoCon課題を提供したいという企業や大学も募集する。その課題に対し、有効な技術を持つ別の企業や大学または個人が解決策の提案をGenoConに応募してくることで、両者を引き合わせる場の役割も果たす。
  • 4.
    クリエイティブコモンズ
    創造的な作品に柔軟な著作権を定義するライセンスシステム。ウェブなどのコンテンツに対して、著作権を保持しながら一定の自由を事前に許諾していることを分かりやすく表示することで、より自由な著作権ルールを実現し、より豊かな情報流通と文化・科学技術の発展を目指している。
    参考資料
  • 5.
    情報合成生物学
    情報生物学と合成生物学の融合領域。情報資源づくりから生物資源づくりまでを統合的にカバーすることで、人類のさまざまな問題解決に有用な生物資源を、情報資源から創造する学問分野。情報合成生物学では、近年のゲノム科学で解読された膨大な情報資源を活用して、合理的ゲノム設計学の専門知識と安全性管理に詳しい人材を育成し、合理的ゲノム設計を行う近未来の専門家(ゲノム設計士)の資格制度創設にも貢献する。
  • 6.
    ROBOCON
    日本放送協会などが主催する、ロボットによる競技会。参加者はチームを組んで参加する。参加者は大会主催者により設定されるルールに従い、競技するためのロボットを自由な発想に基づき制作し、競技に参加して勝敗を決定する。競技の様子は日本放送協会のテレビプログラムとして放送される。一方、GenoConはROBOCONとは無関係の競技会であり、テレビ放送などの予定はなく、インターネット上で開催される。
  • 7.
    セマンティックウェブ
    セマンティックウェブとは、コンピュータが論理的に自動解析可能なように表現されたウェブ形式のコンテンツをいう。通常、我々がウェブブラウザを使って閲覧する「HTML形式のウェブコンテンツ」は、各ページ同士が単純なハイパーリンクでつなげられており、人間がリンクをたどりながら読み進めることで理解可能なように表現されたコンテンツであるが、コンピュータが人間に代わってそのコンテンツの内容を論理的に自動解析することは難しい。これに対し、セマンティックウェブでは、単純なハイパーリンクではなく、意味論が定義されたセマンティックリンクを使って表現されており、コンピュータが各データの型と意味を解釈できるように定義されている。このため、プログラムを使ってコンテンツの内容を論理的に処理することができる。理研サイネスでは、タンパク質配列などのバイオデータがすべてセマンティックウェブ形式で収録されており、ウェブブラウザ上で書いたプログラムを使って論理的な解析処理を自動化できる。サンプルプログラムは理研サイネスやGenoConのサイトから豊富に提供されている。
ウェブブラウザのスクリーンショット

図1 理研サイネスのバーチャルラボを使いウェブブラウザ上でプログラムを作成して合理的にゲノム設計する様子

公開型最適化研究という連携研究の仕組みの図

図2 公開型最適化研究

情報生物学と合成生物学の関係図

図3 情報合成生物学

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