2010年6月4日
理化学研究所
第21回国際シロイヌナズナ研究会議(ICAR2010)を日本で初めて開催
-2001年に始まったシロイヌナズナのポストゲノムプロジェクトを総括-
ポイント
- 植物科学の発展、さらに食糧、環境、物質生産など地球規模の問題解決に向け討論
- 約1,300名(33カ国、海外から約700名)の植物研究者が参加
- 私たちの食に関連する重要な植物がどう研究されているか、市民講座も開催
植物科学研究全体に大きなインパクトをもたらす第21回国際シロイヌナズナ研究会議(The 21st International Conference on Arabidopsis Research, ICAR2010)が、6月6日(日)から10日(木)までの5日間、日本で初めてパシフィコ横浜にて開催されます。独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)植物科学研究センター(PSC、篠崎一雄センター長)とバイオリソースセンター(BRC、小幡裕一センター長)は、共催機関として会議の運営に参加します。
最近の地球規模レベルでの食糧問題、エネルギー問題、環境問題などの解決に向けて、植物科学の成果が貢献することが期待されています。この分野では、シロイヌナズナというアブラナ科の1年生草本植物がモデル高等植物として広く利用されており、1980年代から始まった国際連携による強力な研究基盤整備を背景に、遺伝子レベルでの理解が著しく進んできました。特に、シロイヌナズナの基盤的な研究は、イネゲノム研究と並んで最も進んだ植物科学分野であり、農業や産業への応用展開による社会への貢献が期待されています。
1987年以来、ほぼ毎年開催されている国際シロイヌナズナ研究会議(ICAR)は、シロイヌナズナ研究者の重要な情報交換の場であるとともに、国際協力による研究プロジェクトを推進しており、2001年からは、シロイヌナズナの全遺伝子に機能注釈を付与するArabidopsis 2010 projectに取り組んでいます。ICAR2010では、”2010 and beyond”をテーマに、約1,300名(33カ国、海外から約700名)の植物研究者が参加し、シロイヌナズナのポストゲノムプロジェクト10年間の総括となるゲノム発現・機能解析研究など、多数の成果が発表されます。具体的には、シロイヌナズナ研究と作物や樹木研究の連携という新たな取り組みや、食糧、環境、物質生産などの諸問題解決に向けた課題などについて活発な討論を行います。さらに7日(月)の午後6時45分から展示ホールAで、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の高校生が研究者の前でポスター発表を行う企画も予定しています。また、一般の方々向けに、私たちの食にとって重要な植物がどのように研究されているのかをテーマに、市民公開講座を8日(火)の午後3時30分から会議センター3階315号室で開催致します。ICAR2010の詳細は、 ホームページ に掲載しています。
研究分野の背景
植物の多様な機能の解明を目指す研究は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)をモデル実験系に用いて、1980年代後半から国際的な協力体制の下で開始され、1990年代に入ると、分子遺伝学的、分子生物学的、さらにゲノム科学的研究手法による遺伝子の研究を基盤として急速に進展してきました。中でも1965年から開始されたICARは、シロイヌナズナ研究者の重要な情報交換の場としてだけでなく、国際協力での研究プロジェクトを進めるために、1987年以降はほぼ毎年、数百人を越える研究者が主に米国に集まって開催されてきました。2008年からは北米、欧州、アジア・オセアニアの3地域が持ち回りで開催することとなり、2010年はアジア・オセアニア地域の代表として日本が開催地に選ばれました。
日本のシロイヌナズナ研究は、米国、欧州と並んで大きな成果を上げており、ゲノム解読では財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所が全ゲノム配列の27%を決定し、ゲノム機能研究では理研が完全長cDNA、遺伝子破壊変異体や過剰発現体の開発、それらの収集、保存、提供など、基盤的な分野で大きな貢献をしてきました。最近では、比較ゲノム解析的手法による作物や樹木の遺伝子の機能解析をはじめ、分子生物学者、微生物遺伝学者、バイオインフォマティクス研究者、集団遺伝学の研究者などが植物科学分野に参入し、研究の領域が拡大しています。
現在は、植物科学の成果を基に、作物の分子育種や植物バイオテクノロジーへの応用展開が急速に進みつつあります。すでに、基礎的な植物科学に大きな成功をもたらしたArabidopsis 2010 projectの後継プロジェクトの検討が行われており、次期プロジェクトの中では、シロイヌナズナの研究コミュニティと応用研究のコミュニティとの連携が議論されています。
日本開催の意義
ICAR2010が日本で開催されることで、アジア・オセアニアの研究者の会議参加が容易になるとともに、若い日本の研究者も世界の先端的研究に接することができます。今後、アジア・オセアニア諸国から、シロイヌナズナを用いた最先端の植物科学研究、特にシステムバイオロジー(Systems Biology)や統合ゲノム解析であるオミックス研究(Omics)、植物バイオテクノロジーへの橋渡し研究(Translational research)への関心が高まることも期待できます。実際に2007年に北京で開催したICAR2007は、アジア諸国に大きなインパクトを与えました。
ICAR2010では、基礎研究としてのシロイヌナズナ研究の成果発表と同時に、作物や樹木などへの橋渡し研究の新たな取り組みに関する発表が行われます。これまでの基礎植物科学の成果を農業や工業、医薬だけでなく、二酸化炭素の増加による地球環境温暖化の解決という長期的な研究にも大きな貢献を果たすものと期待されます。
本会議の概要
(1)開催日程
2010年6月6日(日)~10日(木)
(2)開催場所
パシフィコ横浜
横浜市西区みなとみらい1-1-1
(3)スケジュール
左右にスクロールできます
6日(日) | 午後2時00分~午後8時00分 | 登録 |
---|---|---|
午後3時30分~午後3時40分 | 開会のあいさつ | |
午後3時40分~午後5時40分 | 基調講演 | |
午後6時00分~午後8時00分 | レセプション | |
7日(月) | 午前9時00分~午後12時30分 | プレナリーセッション |
午後12時45分~午後1時45分 | MASC小委員会フォーラム | |
午後2時00分~午後6時00分 | コンカーレントセッション | |
午後6時30分~午後7時45分 | ワークショップ | |
午後6時45分~午後8時45分 | ポスターセッション | |
(スーパーサイエンスハイスクールの高校生による発表があります) | ||
8日(火) | 午前9時00分~午後12時30分 | プレナリーセッション |
午後1時00分~午後3時00分 | NSF 2010 and Beyondセッション | |
午後3時30分~午後5時00分 | 市民公開講座 | |
午後6時30分~午後7時45分 | ワークショップ | |
午後6時45分~午後8時45分 | ポスターセッション | |
9日(水) | 午前9時00分~午後12時30分 | プレナリーセッション |
午後2時30分~午後6時30分 | コンカーレントセッション | |
午後7時00分~午後9時00分 | バンケット | |
10日(木) | 午前9時00分~午後12時30分 | プレナリーセッション |
午後12時30分~12時40分 | 閉会のあいさつ |
(4)講演・討議題目(使用言語は英語)
基調講演(2題)
プレナリーセッションでの招待講演(24題)
コンカーレントセッションでの招待講演(24題)
ワークショップ(24題)
NSF 2010 and Beyond セッション (5題)
ポスターセッション(832題)
“シロイヌナズナ研究はすべての植物の基本的な機能の理解に役に立つとともに、作物や樹木への橋渡し研究においても役に立つ”という基本的な考え方のもと、以下の分野で討議を行います。
- プレナリーセッション
植物ホルモン制御、細胞生物学、環境応答、エピゲノミクスとRNA制御、作物ゲノミクス、システムバイオロジーと代謝、進化と自然変異、発生。 - コンカーレントセッション
再生、生物的ストレス応答、非生物的ストレス応答、エピジェネティックとRNA制御、細胞間シグナル伝達におけるペプチドの新規機能、代謝とシステム生物学、発生制御、研究ツールとリソース。 - ワークショップ
倍数性と雑種強勢、シロイヌナズナバイオインフォマティクスの未来、植物の老化と細胞死、アブラナ科マップアラインメントプロジェクト、植物における細胞分離過程、TAIRツールとデータセットの最大利用。
(5)市民公開講座
植物研究の一端を一般の方々向けに紹介するための市民公開講座(Yokohama Citizen Open Seminar)を開催致します。直接会場にお越し下さい。
開催日程:6月8日 午後3時30分
開催場所:パシフィコ横浜 会議センター3階 315号室
参加費:無料
使用言語:日本語
(6)主催機関など
- 主催
-
第21回国際シロイヌナズナ研究会議開催準備委員会
- 委員長
-
篠崎一雄(理研PSC)
副委員長:岡田清孝(基礎生物学研究所) - 総務・財務担当幹事
-
小林正智(代表幹事)(理研BRC)、内藤哲(北大)、長谷あきら(京大)、高木優(産総研)、斉藤和季(千葉大/理研PSC)、西村幹夫(基生研)
- プログラム・会場担当幹事
-
松井南(代表幹事)(理研PSC)、米田好文(東大)、荒木崇(京大)、塚谷裕一(東大)、中村保一(遺伝研)
- HP・広報担当幹事
-
関原明(代表幹事)(理研PSC)、青木考(かずさDNA研)
- 共催
-
理研植物科学研究センター、理研バイオリソースセンター
大学共同利用機関法人自然科学研究機構 基礎生物学研究所 - 共催学会
- 日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物細胞分子生物学会、植物化学調節学会、日本分子生物学会、日本遺伝学会、日本作物学会、日本育種学会
(7)国別参加者数
33カ国、1,279名。この内、海外からは673名。(2010年5月31日現在)
過去のICARの開催状況
左右にスクロールできます
回 | 開催年 | 開催地 | 参加国数 | 参加者数 |
---|---|---|---|---|
1 | 1965 | ゲッティンゲン、ドイツ | 不明 | 25 |
2 | 1976 | フランクフルト、ドイツ | 不明 | 25 |
3 | 1987 | イーストランシング、米国 | 不明 | 217 |
4 | 1990 | ウィーン、オーストリア | 不明 | 450 |
5 | 1993 | コロンバス、米国 | 不明 | 不明 |
6 | 1995 | マディソン、米国 | 不明 | 640 |
7 | 1996 | ノーリッジ、英国 | 不明 | 不明 |
8 | 1997 | マディソン、米国 | 不明 | 不明 |
9 | 1998 | マディソン、米国 | 不明 | 不明 |
10 | 1999 | メルボルン、オーストラリア | 不明 | 不明 |
11 | 2000 | マディソン、米国 | 不明 | 875 |
12 | 2001 | マディソン、米国 | 不明 | 925 |
13 | 2002 | セビリア、スペイン | 不明 | 1,130 |
14 | 2003 | マディソン、米国 | 不明 | 842 |
15 | 2004 | ベルリン、ドイツ | 不明 | 1,281 |
16 | 2005 | マディソン、米国 | 不明 | 974 |
17 | 2006 | マディソン、米国 | 25 | 622 |
18 | 2007 | 北京、中国 | 40 | 1,425 |
19 | 2008 | モントリオール、カナダ | 33 | 815 |
20 | 2009 | エディンバラ、英国 | 37 | 約900 |
21 | 2010 | 横浜、日本 | 33 | 1,279 |
ICAR2007(2007年北京開催)、ICAR2004 (2004年ベルリン開催)に次ぐ3番目に大きな規模となります。
お問い合わせ先
独立行政法人理化学研究所 植物科学研究センター
センター長 篠崎一雄(しのざきかずお)
Tel: 045-503-9579 / Fax: 045-503-9580
植物ゲノム発現研究チーム
チームリーダー 関 原明(せき もとあき)
Tel: 045-503-9587 / Fax: 045-503-9584
横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113
報道担当
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715