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2010年10月6日

理化学研究所

2010年ノーベル化学賞について理研 基幹研究所 玉尾皓平 所長からのコメント

この度のRichard F. Heck先生、根岸英一先生、鈴木章先生の御受賞は、同じ有機合成化学・有機金属化学を専門とする立場から、大変嬉しく思います。

今回3名のご業績は、パラジウム触媒を用いた炭素―炭素骨格を形成する反応の開発であり、今回受賞理由となった反応はいずれも有機合成化学、有機金属化学上、極めて重要な反応です。

Heck先生は、1968年にメチルパラジウム化物がオレフィン(炭素―炭素二重結合)と室温で反応することを見出したのを契機に、1972年、後に溝呂木―Heck反応と呼ばれる、パラジウム触媒による有機ハロゲン化物(有機ヨウ素、有機臭素化合物など)とオレフィンとの二成分連結反応(クロスカップリング)の開発に至りました。

根岸先生は、1976年に有機ハロゲン化物と有機ジルコニウムもしくは有機アルミニウムとのクロスカップリング反応の開発を経て、1977年、後に根岸反応と呼ばれる有機ハロゲン化物と有機亜鉛化合物とのクロスカップリングの開発に成功しました。有機亜鉛を用いたこの反応では、様々な官能基の存在下、選択的にクロスカップリングが進行する有用な反応です。

鈴木先生は、1979年に有機ハロゲン化物と有機ホウ素化合物との反応、後に鈴木-宮浦反応と呼ばれるカップリング反応の開発に成功しました。この反応でも、様々な官能基の存在下、選択的にクロスカップリングが温和な条件で進行することが見出されました。有機ホウ素化合物が空気、湿気にも安定であって扱いやすことから、もっとも汎用性の高い反応として、複雑な医薬品合成等に幅広く用いられました。特に、ハーバード大学の岸義人教授が最も複雑な天然物パリトキシンの全合成の最終ステップに応用され、注目を集めました。

これらいずれの反応も、天然物、生物活性化合物、有機半導体、有機EL発光剤などの骨格合成の鍵反応として非常に多く使用されており、有機合成化学を一変させるような非常にインパクトの大きいものでした。さらには抗がん剤などの医薬品合成にも数多く使用され、有機合成化学、有機金属化学が人類のための持続可能な社会を先導する科学として貢献するに至りました。

私自身、1972年にニッケル触媒クロスカップリング反応を開発し、この分野を共に切り開いてきた仲間の一人として、心よりお祝い申し上げます。

独立行政法人理化学研究所
基幹研究所 所長
玉尾 皓平

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