2012年8月23日
独立行政法人理化学研究所
ディナベック株式会社
安全性の高いiPS細胞を国内外の大学・研究機関へ提供開始
-センダイウイルスベクターを用いて作製されたiPS細胞の利用で学術研究が促進-
理化学研究所(野依良治理事長)は、理研バイオリソースセンター(理研BRC)※1を通して、センダイウイルスベクターを用いて樹立したiPS細胞やその派生細胞を、国内外の非営利機関の非営利学術研究に限って、8月15日から提供開始します。
ディナベック株式会社※2(代表取締役社長:長谷川護)が独占的に実施権を保有するセンダイウイルスベクター※3技術を用いて、最終的にベクターや外来遺伝子を含まない安全性の高いiPS細胞を作製することができます。 なお、センダイウイルスベクターの特長として、従来のベクターと違い染色体を改変させず、理論的に遺伝子毒性が存在しないことが挙げられます。
理研BRCは、ディナベック社と「センダイウイルスベクタートランスファーライセンス学術研究向け覚書」を交わし、国内外の研究者がセンダイウイルスベクターを用いて樹立したiPS細胞をディナベック社にライセンス料を支払うことなしに学術研究向けに広範に提供することが可能となりました。さらに非営利機関がセンダイウイルスベクターを用いて作製したiPS細胞を理研BRCに寄託することも可能となりました。本覚書により、iPS細胞を利用した関連研究を加速させる仕組みを構築しました。これにより、iPS細胞関連研究分野の発展に貢献することが期待できます。
概要
ディナベック社は、独自に開発したセンダイウイルスベクターに関する基本特許について、日欧米中などを含む世界の主要各国で独占的な実施権を有しています。国内では株式会社医学生物学研究所(MBL社)、海外では米国ライフテクノロジーズ社などがディナベック社からライセンスを受けて「CytoTuneTM」の商標で販売しています。センダイウイルスベクターは、iPS細胞を非常に効率よく作製することができるだけでなく、従来のベクターと違って染色体の構造を変化させない「細胞質型RNAベクター」です。従って、遺伝学的安全性が高く、遺伝子医薬品やバイオ製品分野で高い安全性と信頼性、利用実績があり広範に利用されています。
一方、iPS細胞の作製技術については、京都大学が特許を保有しています。今回、理研とディナベック株式会社が覚書を交わしたことにより、非営利機関は、非営利学術研究に限ってディナベック株式会社へライセンス料を支払うことなしにセンダイウイルスベクターを用いて作製したiPS細胞を理研BRCから提供を受けること、また理研BRCへ寄託することができるようになりました。
今後は、センダイウイルスベクターを用いて作製したiPS細胞が樹立した研究室に死蔵されることなく、他の研究者も広範に利用することが可能となるため、iPS細胞関連研究が加速され、iPS細胞の臨床応用研究や疾患特異的iPS細胞を介した疾患研究創薬分野等へも大きく貢献すると期待できます。
お問い合わせ先
独立行政法人理化学研究所 筑波研究所 バイオリソースセンター 細胞材料開発室
室長 中村 幸夫(なかむら ゆきお)
筑波研究推進部 企画課
主幹 吉田 元裕(よしだ もとひろ)
Tel: 029-836-9078 / Fax: 029-836-9100
報道担当
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
補足説明
- 1.
- 理研バイオリソースセンター
- 生物遺伝資源(バイオリソース)は、ライフサイエンス研究を推進するうえで極めて重要な知的基盤である。近年、ライフサイエンスの研究成果が産業化に結びつくことが多くなり、バイオリソースに係わる知的財産権の取扱いが重要視されるようになってきた。このような環境下、理研バイオリソースセンター(理研BRC)は2001年に設置された。 理研BRCは、「信頼性」「継続性」「先導性」をモットーに、国内外の関係機関との緊密な連携のもと、実験動物(マウス)、実験植物(シロイヌナズナ)、細胞材料、遺伝子材料、微生物材料および関連情報などを収集している。国際的基準に従ったバイオリソースの標準化や技術開発を行い、厳格な品質管理のもと、バイオリソースおよび関連情報を国内外の研究者や企業へ提供している。これまで、我が国で開発された独自のバイオリソースを中心にオンリーワンの地位を確立し、利用者の多い、大規模化・集約化が効率的なリソースを中心に整備・提供を行っている。
- 2.
- ディナベック株式会社
- 2003年に設立されたバイオベンチャーで、アステラス製薬㈱、協和発酵キリン㈱、第一三共㈱、久光製薬㈱の他、ベンチャーキャピタル多数が出資している。虚血肢などの循環器系をはじめ、呼吸器系、がん、エイズなど多岐にわたる疾病領域において、センダイウイルスベクターによる遺伝子治療、遺伝子ワクチンの開発研究を行っている。センダイウイルスベクターの試験管内、動物個体レベルにおける高い遺伝子導入効率と高発現性を利用して、組換えタンパク質の発現や、タンパク質の新機能の解析、新規遺伝子の機能解析研究など、基礎研究から創薬開発まで幅広くビジネス展開している。
- 3.
- センダイウイルスベクター
- ベクターとは、組換えDNAを増幅・維持・導入させる核酸分子のことで、一般的に遺伝子組換え技術に用いられる。センダイウイルスベクターは、これまでのベクターとは全く概念が異なり、「細胞質型RNAベクター」と呼ばれる。従来のベクターはDNAとして働き、細胞核の中に入り込んで宿主の染色体と組み換えを起こす恐れがあった。また、組み換えが起こるとその前後の染色体構造に損傷を与えるため、本来の遺伝子機能を変化させるリスクも伴う。従来のベクターが持つこうした負の側面(遺伝子毒性)が、遺伝子治療や遺伝子ワクチンの発展の障害となっていた。一方、センダイウイルスベクターはRNAであり、染色体に組み込まれず細胞質内に存在して遺伝子を発現するため、理論的に遺伝子毒性が存在せず、従来のベクターに比べヒトに投与した場合の遺伝学的安全性が高いことが特徴。ディナベック社では、こうした優れた特性を生かした「細胞質遺伝子治療」、「RNA型遺伝子ワクチン」という新しい概念の治療法の開発に取り組んでいる。