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2013年4月5日

理化学研究所

イネ科のモデル実験植物「ミナトカモジグサ」の種子を8日から提供

-バイオマス生産に役立つスーパー植物の開発に貢献-

ポイント

  • 次世代の実験植物として期待されている単子葉植物のリソース提供
  • 実験室内で育てることが可能でゲノム配列も解読済み
  • 変異体や完全長cDNAの整備も進行中、環境研究や穀物の育種研究に貢献

概要

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、次世代のモデル実験植物として期待されている「ミナトカモジグサ」の種子の提供を4月8日から開始します。

ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)はイネ科の単子葉植物で、個体が小さく実験室内で育つことなどから、草本(木部が発達せず多くは地上部が1年~数年で枯れる植物)のモデル実験植物として注目されています。2010年には標準系統(Bd21)のゲノムが解読され、2.7億塩基対の中から遺伝子数25,532個が見つかっています。

2010年度に開始した理研のバイオマス工学研究プログラム(BMEP)[1]では、植物バイオマスの効率的生産から、植物バイオマスを原料とした化成品材料及び燃料などの革新的なプロセスの確立、高機能なバイオプラスチックの創成などを目指し、ミナトカモジグサを活用した植物の改良に取り組んでいます。理研バイオリソースセンター(BRC)はこのプログラムに参加し、ミナトカモジグサの栽培と遺伝子導入の技術開発を進めてきました。

今回、室内での栽培条件の最適化に成功し、安定した種子増殖が可能になったことから、ミナトカモジグサBd21株の種子の提供を開始します。今後、バイオマス研究や穀物の育種研究が一段と進むことが期待されます。

背景

植物研究では、モデル実験植物としてアブラナ科のシロイヌナズナ[2]Arabidopsis thaliana)がよく利用されています。そのゲノムサイズは1.3億塩基対、遺伝子数は27,416個と判明しており、遺伝子レベルで網羅的な機能解析が進行中です。すでに世界中で莫大な数のリソースが作製され、日米欧のリソースセンターが研究者に配布しています。理研バイオリソースセンター(BRC)は、アジアにおけるシロイヌナズナリソースの拠点として国際的に高い評価を得ています。

現在直面している環境問題や食料問題など、地球規模の課題を解決するには、シロイヌナズナの研究成果を次の段階へと進めることが欠かせません。特にイネ、ムギなど代表的な穀物を含むイネ科の単子葉植物の研究には、アブラナ科の双子葉植物であるシロイヌナズナの遺伝子情報がそのまま使えない場合があります。しかも多くの作物は、一生を実験室内で育てることが難しく、目的の遺伝子を導入した個体の作製と栽培には大掛かりな設備が必要です。そこで、実験室内で育てることが可能で、イネ科の単子葉植物であるミナトカモジグサがモデル実験植物として注目されていました。

ミナトカモジグサは、イネ科の中でもコムギと同じイチゴツナギ亜科に属しています。草丈は30cm程度とコンパクトで、蛍光灯の下でも育ち、3~4カ月で種子を収穫できるなど、実験用の植物として適しています。また、遺伝子導入の技術も開発されており、実験環境の整備も進んでいます。2010年には、国際協力により標準系統(Bd21株)のゲノムが解読され、2.7億塩基対の中から25,532個の遺伝子が判明しました。2011年には国際的な研究コミュニティの形成が進み、最初の欧州ブラキポディウム(Brachypodium)ワークショップがフランスで開催、2012年11月には日本ブラキポディウムワークショップが横浜市立大学で開かれました。2013年6月には第1回の国際会議がイタリアで行われる予定です。

一方、2010年度に開始した理研バイオマス工学研究プログラム(BMEP)では、ミナトカモジグサを活用して「高生産性・易分解性を備えたスーパー植物[3]」を開発しています。また、ミナトカモジグサの重粒子線照射系統[4](変異体)や完全長cDNA[5]の整備も進めており、シロイヌナズナと同様、理研が開発したリソースが研究コミュニティにとって必要不可欠になります。

理研BRCでは、ミナトカモジグサのリソース整備に参加するとともに、栽培や遺伝子導入の技術開発を進めてきました。栽培技術の向上により、1個体から収穫できる種子の数が150粒程度、発芽率90%以上を達成したため、ミナトカモジグサリソースの標準系統である「Bd21株種子」の提供を開始します。

提供事業について

(1)ミナトカモジグサの栽培について

理研BRC実験植物開発室では、2010年のBMEP参加と同時にミナトカモジグサの栽培を開始しました(図1)。当初はシロイヌナズナと同じ条件で栽培したため、草丈の調節が難しい、稔性が低い(種子が形成されにくい)、収穫した種子が発芽しないなどの問題点が生じました。そのため、光量・光周期を調整し、湿度管理も徹底するなど栽培条件の最適化を図った結果、安定した種子の数や発芽率を実現しました。調整した栽培条件については、種子の提供に合わせて研究コミュニティに公開します。

(2)提供手続きの流れ

Bd21株種子は以下の手順で提供します。

  • 1.利用の申し込みはplant [at] brc.riken.jpまでご連絡ください。(※[at]は@に置き換えてください。)
  • 2.提供に必要な書類一式(生物遺伝資源提供同意書:MTA2部と提供申込書1部)を理研BRC実験植物開発室より発送します。
  • 3.書類に必要事項を記載の上、所定の宛先まで返送ください。
  • 4.書類が到着次第、発送準備を開始します。通常は到着後10日以内に種子50粒をバイアルに密封して発送します。
  • 5.提供手数料の請求書も別途発送しますので、請求書に記載の口座に提供手数料のお振り込みをお願いします(振込手数料は支払者負担)。

ミナトカモジグサリソースについての詳細は下記ホームページをご参照下さい。
ミナトカモジグサBd21株種子の提供開始のお知らせ

今後の展開

海外のリソース機関から生物資源を入手する場合には、検疫により入手が困難だったり種子の品質に問題があったりします。BMEPでは、ミナトカモジグサの変異体や完全長cDNAの整備を行っており、これらのリソースについても準備ができ次第、理研BRCから日本をはじめ世界中の研究コミュニティに提供する予定です。ミナトカモジグサを活用した研究成果は大型の草本植物へ展開することが可能で、バイオマス生産に役立つスーパー植物の開発につながると期待できます。またミナトカモジグサはコムギに近い植物であるため、ムギ類の研究にとって格好のモデル植物です。理研BRCが進める基盤整備により研究が活性化し、環境や食料などの課題解決につながると期待できます。

発表者

独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 実験植物開発室
室長 小林 正智(こばやし まさとも)

お問い合わせ先

バイオリソース推進室 磯村 史嘉(いそむら ふみよし)
Tel: 029-836-9058 / Fax: 029-836-9100

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.
    バイオマス工学研究プログラム(BMEP)
    2010年度より理研が開始した社会知創成事業の1つ。組織・分野を超えた連携研究により、バイオテクノロジー技術を駆使して、植物によるバイオマス増産から、新規酵素によるバイオマスの原料化、バイオマス材料を用いた高機能なバイオプラスチック(最終製品)の創成など、一気通貫型の革新的なバイオプロセスの確立を目指す。理研BRCからは実験植物開発室、微生物材料開発室、遺伝子材料開発室が参画している。
  • 2.
    シロイヌナズナ
    アブラナ科に属するモデル実験植物。2000年12月に高等植物として初めて全ゲノムの塩基配列が解読された。理研BRCは遺伝子を破壊した系統と完全長cDNAを中心に、30万を超える数のシロイヌナズナリソースを保存している。
  • 3.
    スーパー植物
    既存の育種で達成できていない、高い生産性や微生物による分解のしやすさなどの有用性を備えた植物。BMEPではゲノム科学の成果を応用することにより、スーパー植物の創出を目指している。
  • 4.
    重粒子線照射系統
    理研が保有する加速器を用いて植物の種子に重イオンを照射すると、ゲノムの配列上に部分的な欠損が生じる。欠損した場所に遺伝子が存在するとその機能が失われ、個体の性質や形に変異が起こる。変異体を解析することにより、遺伝子の機能解明が期待できる。理研が作出した桜の新品種「仁科蔵王」と「仁科乙女」はこの方法を使って作られた。
  • 5.
    完全長cDNA
    cDNAは、mRNA(メッセンジャーRNA)から人工的に合成したDNAのこと。mRNAは細胞の中でゲノムのDNAを鋳型として作られ、タンパク質の設計図として使われる。完全長cDNAはmRNAの全長配列をもとに作成したcDNAを指し、完全なタンパク質を合成するために必要となる情報全てを持っている。理研BRCはシロイヌナズナをはじめさまざまな生物種の完全長cDNAを保存している。
ミナトカモジグサの写真

図1 ミナトカモジグサの栽培

シロイヌナズナの栽培条件から光量・光周期、湿度管理を調整した結果、室内栽培が可能となった。3~4カ月で1株あたり約150粒の種子を収穫できる。

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