2012年7月31日
独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京大学
国立大学法人筑波大学
国立大学法人東京工業大学
カーボンナノチューブの高分散化と配向制御を実現
-ソフトエレクトロニクスに向けたカーボンナノチューブ(CNT)/イオン液晶複合材料-
ポイント
- イオン液晶を用いて、従来の液晶の1,000倍のCNTを高分散化
- イオン液晶とCNTそれぞれの配向を制御することで電気伝導特性を制御可能
- 伸縮性導電材料やアクチュエーターなどソフトマテリアルの実現に一歩前進
要旨
理化学研究所(野依良治理事長)と東京大学(濱田純一総長)、筑波大学(山田信博学長)、東京工業大学(伊賀健一学長)は、カーボンナノチューブ※1(CNT)を従来の1,000倍も高分散化させて、配向性や電気伝導性の制御を可能とした液晶※2材料の開発に成功しました。この成果は、東京大学大学院工学系研究科の相田卓三教授(理研基幹研究所機能性ソフトマテリアル研究グループディレクター兼務)、同博士後期課程の李廷湖、筑波大学数理物質系の山本洋平准教授、東京工業大学資源化学研究所の福島孝典教授(理研基幹研究所エネルギー変換研究チームリーダー兼務)、理研放射光科学総合研究センターの加藤健一専任研究員、高田昌樹主任研究員らによる共同研究の成果です。
優れた機械特性や電気特性を持つCNTは、新規材料として産業利用が期待されています。この特性を生かすためには、CNTを1本1本のレベルまで高分散化させる必要があります。しかし、従来の液晶にCNTを混合する方法では、配向制御は可能となるものの、液晶との親和性が悪く実用化するための十分な量を分散させることができませんでした。一方、これまでの研究から、CNTの表面はマイナス電荷を帯びたパイ電子※3が豊富に存在するため、プラス電荷を帯びたイオン液体※4とは親和性が良いことが明らかになっていました。
今回、共同研究グループは、配向性に優れ、かつイオン液体よりもイオン化した部位が多いイミダゾリウム※5を有するイオン液晶にCNTを混合したところ、5~10重量%にもおよぶCNTが極めて効率的に分散化することを見いだしました。これは従来の液晶に比べ1,000倍も大きな量です。また、混合物を詳しく調べたところ、CNTとの混合により液晶が垂直配向すること、剪断力※6や加熱により液晶とCNTの配向方向を独立に制御可能であること、さらにはCNTの配向によっては電気伝導特性が2桁以上も変化することを明らかにしました。今後、ソフトエレクトロニクス※7の実現に向けたCNT複合材料開発への応用が期待できます。
本研究成果は、ドイツの科学雑誌『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版に掲載されました。また、同誌のVIP(Very Important Paper)に選出されるとともに、裏表紙(Back Cover)にも選出されました。
背景
カーボンナノチューブ(CNT)は、その優れた機械特性や電気特性から、構造材料や電子材料としての応用が期待されています。しかしながら、従来の合成法では、CNT同士が激しく凝集し、塊状の粉末としてしか得ることができません。この状態では、CNTの特性を十分に引き出すことができないため、これまでに多くの研究者が、CNTを1本1本のレベルまで高分散化する方法を模索してきました。その中で、福島、相田らが2003年に発表したイオン液体によるCNTの分散化は大変有用です(T. Fukushima et al, Science 300, 2072-2074.(2003))。この方法でCNTを分散化し、伸縮性導電材料やアクチュエーターなどのソフトな電子材料の実用化に向けた研究が現在活発に行われています。
今回、共同研究グループは、イオン液体に代えて、プラス電荷を有するイミダゾリウムを有するイオン液晶を用いてCNTの高分散化に挑みました。用いたイオン液晶の分子は、ベンゼン環4つからなるトリフェニレンの周辺に6つのイミダゾリウムを付与したトリフェニレン誘導体です(図1a)。トリフェニレン誘導体は、柱(カラム)状に分子が集積した液晶(図1b)を形成しやすいことから、液晶によるCNTの配向制御も期待できます。
研究手法と成果
まず、トリフェニレン誘導体を液体状態(150℃)まで加熱したのち、単層CNTを加え、乳棒で混ぜ合わせることにより、CNT/イオン液晶複合材料を作製しました。150℃で30分程度混ぜ合わせると、黒いペースト状の混合物が生成しました(図2)。CNTの混合比を5~10重量%程度まで増やしても混合物は流動性を保ち、室温でも液晶を形成していることが分かりました。
次に、得られた混合物について、熱分析、SPring-8の物質科学ビームラインBL44B2を利用した放射光X線回折、光学および電子顕微鏡観察(図3)を行い、CNTの分散性や液晶構造について詳細に調べました。その結果、CNTの塊や凝集物はほとんど観測されず、イオン液晶中にCNTが高分散していることが予想されました(図3a、b)。これまでに報告されている液晶のCNT分散能は0.01重量%よりも少なく、今回CNTの混合比は5~10重量%であることから、従来の液晶と比べて1,000倍ものCNTを分散化していることになります。一方、プラス電荷を持たないトリフェニレン誘導体とCNTを混合すると、液晶とCNTが相分離してしまい、CNTがほとんど分散しませんでした(図3c)。また、イオン液体とCNTの混合においてもCNTの塊を観測したことから(図3d)、1分子中6つのプラス電荷を有する部位を持つイオン液晶の方が、よりCNTを高分散化していることが分かりました。
また、偏光顕微鏡※8を用いて液晶カラムとCNTの配向性を確認しながら、剪断力や熱処理による配向制御を試みました。さらに、効率的な電気伝導性に不可欠な要素である、CNTの配向制御による電気伝導の異方性※9について検討しました(図5)。その結果、以下に示す興味深い現象を見いだしました。
(1)CNTと混合すると、液晶カラムが基板に対し垂直に配向
イオン液晶だけの場合、液晶カラムの配向はランダムですが(図4a)、CNTの割合を増やすにつれ偏光顕微鏡像が暗視野に変化し(図4b、c、d)、試料全体で液晶カラムが垂直配向していることを発見しました。
(2)液晶カラムとCNTの配向をそれぞれ制御可能
CNTと混合して垂直配向した液晶カラムは、剪断力を加えると応力方向に配向し、同時にCNTも同じ方向に配向することが分かりました。これは、従来の液晶やイオン液体とCNTの混合物ではできなかったことです。従って、CNTのイオン液晶に対する極めて高い分散性と、液晶分子との強い相互作用が、CNTの配向に重要な役割を果たしていると考えられます。また、剪断力により基板の面内方向に配向した複合体を150℃で5分間熱処理すると、CNTは面内配向を保った状態で液晶カラムのみ垂直配向に戻すことができ、さらに150℃で1時間の熱処理をすると、CNTはほぼ初めの状態(ランダム配向)に戻りました。
(3)CNTの配向制御により、電気伝導特性を制御
CNTがランダムに配向している状態から、基板の面内方向に配向している状態へと変化させると、電気伝導度が最大で2桁以上も変化することを見いだしました(図5)。この変化は可逆的に繰り返して再現できました。また、液晶とCNTの配向状態は、室温では半年以上維持できることが明らかになりました。
今後の期待
今回のCNT/液晶複合材料は、フレキシブルでかつ効率の良い電荷輸送を実現できることから、ソフトエレクトロニクスへの応用が期待できます。特に、液晶による配向性の制御と自己修復性を兼ね備えている利点は大きく、今後、アクチュエーター、光フィルターなど、新しい導電・光学材料としての応用が期待できます。
原論文情報
- Jeongho Jay Lee, Akihisa Yamaguchi, Md. Akhtarul Alam, Yohei Yamamoto, Takanori Fukushima, Kenichi Kato, Masaki Takata, Norifumi Fujita, Takuzo Aida: “Discotic Ionic Liquid Crystals of Triphenylene as Dispersants for Orienting Single-Walled Carbon Nanotubes” Angewandte Chemie International Edition,(2012). DOI: 10.1002/anie.201205477
発表者
国立大学法人東京大学 大学院
工学系研究科 化学生命工学専攻
教授 相田 卓三(あいだ たくぞう)
(理研基幹研究所 グループディレクター兼務)
国立大学法人筑波大学
数理物質系 物質工学域
准教授 山本 洋平(やまもと ようへい)
独立行政法人理化学研究所
放射光科学総合研究センター 高田構造科学研究室
主任研究員 高田 昌樹(たかた まさき)
お問い合わせ先
播磨研究所 研究推進部 企画課Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800
報道担当
理化学研究所 広報室 報道担当Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
補足説明
- 1.カーボンナノチューブ
炭素原子だけからなるチューブ状ナノ構造体。単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブがある。本研究では単層カーボンナノチューブ(SWNT HiPCO)を使用している。 - 2.液晶
液体と固体の中間の性質を持つ状態で、流動性がありながら周期構造を有する。 - 3.パイ電子
π軌道にあり、パイ結合に関与する電子。有機伝導体や炭素材料において電気伝導を担う。 - 4.イオン液体
室温近傍で液体相をしめすイオン性の化合物。 - 5.イミダゾリウム
窒素原子2つを含む5員環(図1aの青の部位)。 - 6.剪断力
物体内部のある面に対し平行方向にすべらせるように作用する応力。本研究では、ガラス基板に挟んだ試料に対し、圧力をかけた状態でガラスをずらすことにより試料に剪断力を加えている。英語ではShear Force。 - 7.ソフトエレクトロニクス
伸縮性を持つ導電材料によるエレクトロニクス。アクチュエーターやフレキシブル基板上への電子素子の集積など、従来の無機材料による硬い(ハード)エレクトロニクスでは実現できない機能の発現が特徴。 - 8.偏光顕微鏡
偏光を入射光として用いる光学顕微鏡。液晶は、偏光面を回転させ複屈折を起こす性質を持つ。2枚の偏光子の偏光方向を直交させて(Cross-Nicole)液晶試料の観察を行うと明視野像になる(図4a)が、液晶カラムが垂直配向する場合には複屈折を生じず、暗視野像となる(図4d)。 - 9.異方性
物質の物理的性質が、結晶の方向に依存したり回転によって変化したりする場合、その物質は「異方性(anisotropy)」を持つといえる。対義語は「等方性(isotropy)」。
図1 イオン液晶分子(トリフェニレン誘導体、BF4塩)の分子構造(a)と柱(カラム)状に分子が集積したカラムナー液晶の構造模式図(b)
図2 イオン液晶とCNTの混合の様子と得られたペースト状混合物(右上)
150℃で30分程度混ぜ合わせると、黒いペースト状の混合物が生成。CNTの混合比を5~10重量%程度まで増やしても混合物は流動性を保ち、室温でも液晶を形成。
図3 光学および透過型電子顕微鏡の写真
(a)と(b)は、CNT/イオン液晶複合体。CNTの塊やバンドル(束)はほとんど観測されず、イオン液晶中にCNTが高分散している。
(c)は、プラス電荷を持たない非イオン液晶/CNT複合体。液晶とCNTが相分離してしまい、CNTがほとんど分散しない。
(d)は、イオン液体/CNT複合体。小さいながらも、CNTの塊を観測した。
図4 CNTのイオン液晶への添加に伴う偏光顕微鏡像の変化
CNTの添加に伴い、液晶カラムがランダム配向から垂直配向へと変化している。
(a)イオン液晶だけ(b)1重量%のCNTを添加(c)3重量%のCNTを添加(d)5重量%のCNTを添加。
図5 配向制御によるイオン液晶/CNT複合体の25℃での電気伝導度のCNT混合比依存性(左)と、CNTおよび液晶カラムの配向方向(右)
左図:SWNTは「単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube)」の略。電気伝導度は、CNTがランダム配向時(状態3)に比べて、面内方向に配向している時(状態1)の方が2桁ほど小さくなる。
右図:状態1:横方向への剪断処理直後。
状態2:5分熱処理後。
状態3:1時間熱処理後。