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2016年11月2日

理化学研究所
ライデン天文台

系外惑星の巨大リングの回転は公転と逆向き

-シミュレーションで巨大リングが破壊されない理由を解明-

ポイント

要旨

理化学研究所(理研)計算科学研究機構粒子系シミュレータ研究チームのステーヴン・リーデェル国際特別研究員とライデン天文台のマシュー・ケンワージー准教授の国際共同研究チームは、初めてリングを持つ系外惑星[1]として発見された「J1407b」のリングが、その巨大さにも関わらず主星[1]「J1407」の潮汐力[2]によって破壊されずに存在しているメカニズムをシミュレーションにより解明しました。

J1407は、地球から約420光年離れた位置にある恒星[1]です。J1407では“非常に複雑で長時間にわたる「食」[3]”が2007年に起きています。これは2012年に分かりました注1)。2012年当初、この食の正体は明らかではなく、①巨大惑星の周りのリングがJ1407の前を通った、②原始惑星系星雲[4]を持つ恒星がJ1407の前を通った、という二つの可能性が考えられました。そして、食の原因となる天体をJ1407bと名付けました。その後2015年に、マシュー・ケンワージー准教授らがJ1407の食の時間変化を詳細に解析しました。その結果、食は巨大リングを持つ惑星に起因することが明らかになり、J1407bがその惑星に当たることが示されました注2,3)。ところが、もしそうだとすると、主星J1407の潮汐力によってリングが破壊されてしまう可能性が高いことも明らかになりました。J1407bの質量は木星の40倍以下とされる一方、そのリングの半径は約9,000万km(土星のリングの約190倍)と非常に巨大です。そのため、主星J1407の周りの楕円軌道上を公転するJ1407bは、主星に最も近づく近点を通った際にリングの外側部分が主星のロシュ限界[5]の内側へ入ってしまうのです。

そこで今回、国際共同研究チームは、コンピュータシミュレーションでJ1407bのリングが破壊されるかを調べました。その結果、J1407bのリングの回転が公転と逆向きだと、リングが10万年以上にわたって存在できることを突き止めました。一方、土星のリングと同じように公転と同じ向きの回転だと、数十年でリングはかなり小さくなってしまうことが分かりました。

本研究によって、系外惑星のリングには、私たちが想像もしていなかった“巨大かつ回転が公転と逆向き”というものがあることが明らかになりました。今後、リングを持った系外惑星が多く発見されていくことで、リングの形成過程や系外惑星の形成過程との関係にも研究が進展すると期待できます。

本成果は、欧州の天文学・天体物理学分野論文誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(10月11日付け)に掲載されました。

注1)Planetary Construction Zones in Occultation Discovery of an Extrasolar Ring System Transiting a Young Sun-like Star and Future Prospects for Detecting Eclipses by Circumsecondary and Circumplanetary Disks, Mamajek, E. E., Quillen, A. C., Pecaut, M. J., et al., 2012, The Astronomical Journal, 143, 72
注2)Mass and period limits on the ringed companion transiting the young star J1407 M. A. Kenworthy et al. 2015, MNRAS, 446, 411
注3)Modeling Giant Extrasolar Ring Systems in Eclipse and the Case of J1407b Sculpting by Exomoons?  M.A. Kenworthy and E. E. Mamajek, 2012, The Astrophysical Journal, 800:126

背景

1995年の最初の「系外惑星」の発見以来、現在では3,000を超える系外惑星が見つかっています。系外惑星の探索には、当初、恒星の微小な速度変化の分光観測による「視線速度法」が主流でした。しかし最近では、「食」の観測による「トランジット法」が大きな成果を上げています。通常の食では、惑星の公転周期に比べてわずかな時間で惑星が恒星(主星)の前を通り過ぎるため、恒星は数時間から長くても数日だけ暗くなり、元の明るさに戻ります。

「J1407」は、地球から見てケンタウルス座の方向に約420光年離れた位置にある恒星です。質量は太陽の90%、年齢は太陽(46億年)よりもずっと若く1,600万年です。2007年にJ1407では、“非常に複雑で長時間にわたる食”が起きていました。この食は2カ月近く続き、その間に主星の明るさは時間変動を起こしました。このときの明るさの変化(最小から最大)は、40倍にも及ぶ大きなものでした。

当時、この食の正体は明らかではなく、①巨大惑星の周りのリングがJ1407の前を通った、②原始惑星系星雲を持つ恒星がJ1407の前を通った、という二つの可能性が考えられました。そして、食の原因となる天体を「J1407b」と名付けました。その後2015年にJマシュー・ケンワージー准教授らは、1407の食の時間変化をアーカイブデータの解析や追加観測により詳細に解析しました。その結果、食は巨大リングを持つ惑星に起因することが明らかになり、J1407bがそれに当たることが初めて示されました(図1)。すなわち系外惑星J1407bが、公転周期11年以上、離心率[6]0.6程度またはそれ以上、さらに、巨大で複雑な構造をしたリングを持つというモデルが観測を最もうまく説明できることが分かってきました。J1407bの質量は、観測結果から太陽系最大惑星である木星の40倍以下と考えられています。一方でリングは半径9,000万kmと非常に巨大です。例えば土星のリングの半径は、古くから知られているAリングが14万km、近年発見されたEリングでも半径48万kmです。J1407bのリングは土星の約190倍であり、いかに巨大かが分かります。

ところが、このモデルではJ1407bが1公転ごとに主星から3億km程度まで近付きます。そのため、リングの外側部分がロシュ限界の内側に入り、主星からの潮汐力によって剥ぎ取られて破壊されるのではないかと考えられました。

研究手法と成果

今回、国際共同研究チームは、コンピュータシミュレーションで実際にリングが破壊されるかどうかを調べました。土星のリングの回転の向きは公転と同じ向きです。食のモデルから、リングの公転面に対する傾きは決まっていますが、回転の向きは決まっていませんでした。そこで、J1407bの軌道の離心率、質量がさまざま場合だけでなく、リングの回転が公転と同じ向きか逆の向きかも変えながらシミュレーションを行いました。

その結果の一例を図2に示します。最初に左図のようなリングから計算を始めました。このリングを公転と同じ向きに回転させていくと、10万年後には右図のようにほとんど壊れてしまいました。一方、公転と逆向きに回転させていくと、中央図のように、右図よりずっと大きなリングが残りました。

多くのパラメータについて調べた結果、J1407bのリングは公転と逆向きの回転だと10万年以上にわたって観測を説明できる程度に残るのに対して、公転と同じ向きの回転では数十年で観測を説明できないほどリングが小さくなることが分かりました。

本研究は、系外惑星のリングには私たちが想像もしていなかった、巨大かつ回転が公転と逆向きのというものがあることを明らかにしました。

なお、2007年の食が惑星によるものではなく、たまたまJ1407の前を通っただけの無関係な天体が引き起こした可能性も残っています。しかし、その可能性は非常に小さいといえます。

今後の期待

J1407bのリングは系外惑星で見つかった最初のリングです。今後、リングをもった系外惑星が多数の見つかっていくことで、リングの形成過程やその惑星の形成過程との関係についても研究が大きく進展すると期待できます。

また、もう一度J1407の食が観測できれば、J1407bが確かに系外惑星であることの確実な証拠になります。J1407bの軌道周期は11年以上といわれており、次の食の観測が待たれます。

原論文情報

  • Steven Rieder, Matthew A. Kenworthy, "Constraints on the size and dynamics of the J1407b ring system", Astronomy & Astrophysics

発表者

理化学研究所
計算科学研究機構 研究部門 粒子系シミュレータ研究チーム
国際特別研究員 ステーヴン・リーデェル(Steven Rieder)

ライデン天文台
准教授 マシュー・ケンワージー(Matthew Kenworthy)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.系外惑星、主星、恒星、惑星
    系外惑星とは太陽系の外側にある惑星のこと。恒星は核融合反応により自ら熱や光を放つ星、惑星は恒星の周りを公転する星を指す(ただし、連星系ではどちらも恒星である)。主星とは惑星に対する恒星を指すが、恒星が複数存在する連星系ではより明るい恒星を指す。J1407は恒星であり、J1407bは主星J1407の惑星である。
  • 2.潮汐力
    重力によって起こる二次的効果の一種。これらの天体に近づく物体は潮汐力によって細長く引き伸ばされる力を受ける。例えば、地球と月の関係においては海面が月に引き伸ばされる潮汐の原因でもある。ロシュ限界を超えると潮汐力に耐えきれず天体は崩壊する。
  • 3.
    ある天体が別の天体に隠されて暗くなる天文現象。月食は地球が月に影を落とし、月が欠けて見える(暗くなる)現象である。
  • 4.原始惑星系星雲
    惑星ができる前に存在していたと考えられているガスが、恒星(主星)の周りを回転してできている星雲。
  • 5.ロシュ限界
    惑星や、その主星に近づける限界の距離のこと。その内側では主星の潮汐力によって惑星や衛星は破壊されてしまう。
  • 6.離心率
    楕円がどれぐらい細長いかを表す数値の一つ。楕円軌道の離心率は0~1の間の数値で、0ならば円で大きくなるほど細長い楕円となる。地球軌道の離心率は0.0167で、ほとんど円に近い。
系外惑星J1407bの巨大リングのイメージ図

図1 系外惑星J1407bの巨大リングのイメージ

J1407bのリングは半径9,000万kmと非常に巨大である。土星のリングは近年発見されたEリングでも半径48万kmで、J1407bのリングは土星の約190倍となる。図中右側の白い点は、J1407bのリングと比較した際の土星のリングのスケール。

J1407bの巨大リングの経時変化シミュレーションの一例の図

図2 J1407bの巨大リングの経時変化シミュレーションの一例

左:初期のリング粒子分布。中央の赤い丸が系外惑星のJ1407bでその外側の青・赤・黒の領域が巨大なリングを表している。
中央:リングが公転と逆向きに回転した場合の10万年後の粒子分布。
右:リングが公転と同じ向きに回転した場合の10万年後の粒子分布。
右に比べて中央のほうが10万年後に残る粒子が多いことから、リングは公転と逆に回転することで10万年以上にわたって残ることが分かった。左図で、黒ははぎとられた粒子、赤は逆回転のときには残った粒子、青どちらの場合でも残った粒子を示す。

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