1. Home
  2. 研究成果(プレスリリース)
  3. 研究成果(プレスリリース)2017

2017年7月22日

理化学研究所

機能性ポリオレフィンの合成・制御に成功

-ヘテロ原子と触媒との相互作用で極性基の導入が容易に-

要旨

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループの侯召民グループディレクター(侯有機金属化学研究室主任研究員)、王春翔基礎科学特別研究員、羅根特別研究員、西浦正芳専任研究員(侯有機金属化学研究室専任研究員)らの国際共同研究チームは、希土類金属[1]触媒を用いて、金属イオンとヘテロ原子[2]との特異な相互作用を活用することにより、ヘテロ原子を含むα-オレフィン[3]とエチレンとの共重合[4]を任意の混合比で実現し、さまざまなヘテロ原子を含む機能性ポリオレフィン[3]の合成に成功しました。

ポリエチレンに代表されるポリオレフィンは、現代社会に欠かせない重要な汎用性高分子材料です。しかし、ポリオレフィンにはヘテロ原子などの極性[5]ユニットがないため、極性基[5]を含む高分子材料や顔料、ガラス繊維などとの親和性が低く、これらの材料との混合利用が難しいといった問題点があります。これまでに、ヘテロ原子を含むオレフィンモノマー(極性モノマー)をエチレン(非極性[5]モノマー)と共重合させ、対応するヘテロ原子を含むポリオレフィンを合成する研究が行われてきました。しかしヘテロ原子を含むオレフィンモノマーは通常、エチレンより重合活性が低いため、従来の手法では、導入できる量や得られる共重合体の分子量が低いといった課題がありました。

そこで、国際共同研究チームは、希土類金属がヘテロ原子に対し特異な親和力を持つことに着目しました。希土類に属するスカンジウムやイットリウムなどと、酸素や硫黄などのヘテロ原子との特異な相互作用を生かした触媒設計や分子設計を行うことで、ヘテロ原子を含むα-オレフィンとエチレンとの共重合を任意の混合比で実現し、さまざまなヘテロ原子を含む高分子量の機能性ポリオレフィンの合成に成功しました。国際共同研究チームは、このヘテロ原子によって促進されたオレフィン重合を、Heteroatom-assisted Olefin Polymerizationの頭文字をとって「HOP」と名付け、α-オレフィンのヘテロ原子が金属イオンに配位して重合反応が進行する作用機構を理論計算によって明らかにしました。

本研究成果は、ヘテロ原子の重合触媒への影響に対する従来の認識を覆すものであり、極性モノマーと非極性モノマーの共重合触媒の設計・開発に新しい指針を与えるものです。また、得られたポリマー材料はポリオレフィン部位と極性ユニットの両方を任意の割合で持つため、少量の添加で効果を発揮する環境調和型のポリオレフィン改質剤としての用途展開に加え、従来のポリオレフィンとさまざまな極性ポリマー材料などをつなぐ、異種材料の接着剤としての応用が期待できます。

本研究は、米国のオンライン科学雑誌『Science Advances』(7月21日付け:日本時間7月22日)に掲載されます。

※国際共同研究チーム

理化学研究所 環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民(コウ・ショウミン)(侯有機金属化学研究室 主任研究員)
基礎科学特別研究員 王 春翔(ワン・チュンシャン)
特別研究員 羅 根(ルオ・ゲン)
専任研究員 西浦 正芳(にしうら まさよし)(侯有機金属化学研究室 専任研究員)

大連理工大学
教授 羅 一(ルー・イー)

背景

ポリエチレンに代表されるポリオレフィンは、さまざまな包装材や農業用フィルム、ゴミ袋などとして幅広く利用されており、現代社会に欠かせない重要な汎用性高分子材料です。しかし、ポリオレフィンには極性ユニットがないため、極性基を含む高分子材料や顔料、ガラス繊維などとの親和性が低く、これらの材料との混合利用が難しいといった問題点があります。この問題を克服し、ポリオレフィンの高付加価値化や用途拡大をはかることが求められています。例えば、高分子量のポリエチレンと水酸基を持つガラス繊維をうまく混合させることができるポリオレフィン改質剤を開発できれば、繊維強化プラスチックの機械物性の向上が可能になると考えられます。そのためには、ヘテロ原子を含むオレフィン(極性モノマー)とエチレン(非極性モノマー)を共重合させて、ヘテロ原子などの極性基をポリオレフィンへ導入する手法が有効と考えられ、これまで世界中でさまざまな触媒を用いた研究が行われてきました。しかし、強いルイス酸性[6]を持つチタンやジルコニウムなどの前周期遷移金属[7]触媒では、ヘテロ元素化合物が触媒毒[8]として働き、通常重合が進行しないという問題点がありました。一方、ニッケルやパラジウムなどの後周期遷移金属[7]触媒では、比較的高い極性基耐性を示すものの、得られた共重合体の極性モノマーの組成比や分子量が低いことが課題となっていました。

侯召民グループディレクターらはこれまで、希土類触媒を用いて、さまざまなオレフィン重合やヘテロ原子の配位を活用した有機合成反応の開発を進めてきました注)。そこで今回、希土類金属触媒を用いたエチレンとヘテロ原子を含むオレフィンとの共重合反応の開発に挑みました。

注)Nishiura, M.; Guo, F.; Hou Z. “Half-Sandwich Rare-Earth-Catalyzed Olefin Polymerization, Carbometalation, and Hydroarylation” Acc. Chem. Res. 48, 2209 (2015)

研究手法と成果

ヘテロ原子を含むオレフィンは通常、エチレンより重合活性が低いため、両者の共重合において、高い分子量と高い極性モノマー取り込み量を同時に実現するには、オレフィンの重合[4]をいかに促進するかが鍵となります。国際共同研究チームは、希土類金属がさまざまなヘテロ原子に対し特異な親和力を持つことから、ヘテロ原子と希土類金属との相互作用を通してオレフィンの炭素-炭素二重結合の金属への配位を促進し、それによってオレフィン重合を促進させることができるのではないかと考えました。

そこで、希土類金属に属するスカンジウムやイットリウム触媒を用いて、酸素原子と炭素-炭素二重結合の間に適切な間隔(メチレン基で2~3個)を持つα-オレフィンを選んで反応させました。すると、酸素原子を持たないオレフィンよりはるかに速く、かつα-オレフィンを識別して立体選択的に重合が進行しました。また、1気圧のエチレン雰囲気下で反応を行うと、共重合反応が速やかに進行しました。さらに、硫黄やリン、窒素、セレンなどのヘテロ原子を含むα-オレフィンも同様にエチレンと速やかに共重合することができ、対応する共重合体を得ました(図1)。

これらの共重合反応において、ヘテロ原子を含むα-オレフィンの量や用いる希土類触媒の種類を調節することにより、モノマー組成比を広い範囲で制御できる高分子量の共重合体が得られました。このように、この手法を用いることで、さまざまなヘテロ原子を含む機能性ポリオレフィンの合成が可能となりました。

国際共同研究チームはヘテロ原子によって促進されたオレフィン重合を、Heteroatom-assisted Olefin Polymerizationの頭文字をとって「HOP」と名付けました。さらに、α-オレフィンのヘテロ原子が金属イオンに配位して重合反応が進行する作用機構を理論計算によって明らかにしました(図1)。

今後の期待

国際共同研究チームは、希土類金属触媒を用いて、金属イオンとヘテロ原子との特異な相互作用を活用することにより、ヘテロ原子を含むα-オレフィンとエチレンとの共重合を任意の混合比で実現し、さまざまなヘテロ原子を含む機能性ポリオレフィンの合成に成功しました。

本研究成果は、今後、極性モノマーと非極性モノマーとの共重合に有効な触媒の設計・開発にとって重要な指針を与えるものです。また、得られたポリマー材料はポリオレフィン部位と極性ユニットの両方を持つため、少量の添加で効果を発揮する環境調和型のポリオレフィン改質剤としての用途展開に加え、従来のポリオレフィンとさまざまな極性ポリマー材料などとの相溶性[9]や着色性などを高める添加剤、異種材料をつなぐ接着剤としての応用が期待できます。

原論文情報

  • Chunxiang Wang, Gen Luo, Masayoshi Nishiura, Guoyong Song, Atsushi Yamamoto, Yi Luo, Zhaomin Hou, "Heteroatom-assisted olefin polymerization by rare-earth metal catalysts", Science Advances, doi: 10.1126/sciadv.1701011

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 先進機能触媒研究グループ
グループディレクター 侯 召民 (コウ・ショウミン)
(侯有機金属化学研究室 主任研究員)
基礎科学特別研究員 王 春翔(ワン・チュンシャン)
特別研究員 羅 根(ルオ・ゲン)
専任研究員 西浦 正芳(にしうら まさよし)
(侯有機金属化学研究室 専任研究員)

侯グループディレクター、王基礎科学特別研究員、羅特別研究員、西浦専任研究員の写真 左から侯グループディレクター、王基礎科学特別研究員、羅特別研究員、西浦専任研究員

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 産業連携本部 連携推進部
お問い合わせフォーム

補足説明

  • 1.希土類金属
    元素の周期表で第3族にある、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)と原子番号57のランタン以下のランタノイド族の計17元素のこと。
  • 2.ヘテロ原子
    有機化学の分野で炭素、水素以外の原子のこと。ヘテロとは、「異なる」を意味する古代ギリシア語heterosからきた言葉である。典型的なヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、リンなどが挙げられる。
  • 3.オレフィン、α-オレフィン、ポリオレフィン
    オレフィンとは、エチレン(CH2=CH2)、プロピレン(C2H4=CH2)、ブテン(C3H6=CH2)などのように、分子内に炭素-炭素二重結合(C=C)を持つ炭化水素化合物のこと。アルケンともいう。α-オレフィンは、炭素−炭素二重結合がα位にある、つまり末端にあるオレフィンのこと。オレフィンをモノマー(単量体)として合成されるポリマー(高分子)を総称してポリオレフィンと呼ぶ。
  • 4.重合、共重合
    1種類の単量体が化学反応によって多数つながることを重合といい、2種類以上の単量体が重合することを共重合と呼ぶ。
  • 5.極性、極性基、非極性
    有機化合物における極性とは、結合間で電荷分布に偏りがある場合をいい、偏りがない場合を非極性という。本研究におけるヘテロ原子は、化合物内でマイナスに電荷が偏っている。極性を持つ官能基を極性基という。
  • 6.ルイス酸性
    ルイス酸とは電子対を受け取る物質のこと。この性質をルイス酸性という。ルイス酸は外殻が閉殻構造をとるのに少なくとも2電子不足している化学種で、電子を受け取ることで安定構造となる。ギルバート・ニュートン・ルイスが1923年に定義した。
  • 7.前周期遷移金属、後周期遷移金属
    一般に遷移金属元素は3~7族が前周期、8~11族が後周期に分類される。チタンやジルコニウムは4族、ニッケルやパラジウムは10族の金属元素であることから、それぞれ前周期遷移金属と後周期遷移金属と分類される。
  • 8.触媒毒
    微量の存在で、触媒の作用を著しく減少させるか、全く失わせる物質。
  • 9.相溶性
    複数の種類の高分子鎖同士を混合した場合、あるいは、高分子と可塑剤などとを混合した場合に、分子レベルで完全に混ざり合うこと。
希土類金属触媒によるエチレンと極性モノマーとの共重合反応(HOP)の図

図1 希土類金属触媒によるエチレンと極性モノマーとの共重合反応(HOP)

ヘテロ原子(酸素、硫黄、セレン、リン、窒素)の希土類金属(スカンジウム、イットリウム)イオンへの配位によって、ヘテロ原子を含むα-オレフィン(極性モノマー)の炭素-炭素二重結合の配位および重合反応が促進され、ほぼ任意の混合比でエチレンとの共重合を実現できた。

Top