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2021年1月22日

理化学研究所
名古屋大学
台湾中央研究院天文及天文物理研究所

惑星は恒星と同時に作られていく?

-原始星円盤の形成初期に存在する惑星形成リング-

理化学研究所(理研)開拓研究本部坂井星・惑星形成研究室の大橋聡史研究員、仲谷崚平基礎科学特別研究員、坂井南美主任研究員、名古屋大学大学院理学研究科理論宇宙物理学研究室の小林浩助教、台湾中央研究院天文及天文物理研究所のハウユー・リウ助教らの国際共同研究グループは、成長途上にある原始星円盤[1]に「リング構造」を持つものが存在することに着目し、このリング構造は惑星形成の始まりに起こる塵の付着成長によって作られた可能性があることを示しました。

本研究成果は、惑星は恒星の形成後に作られるという古典的惑星形成論に大きな疑問を提示するものであり、惑星は従来考えられていたよりもずっと早く、原始星とともに作られ始めるという形成メカニズムの可能性を示しています。

今回、国際共同研究グループは、円盤での塵の付着成長のシミュレーションを行った結果、リング構造が現れることを発見しました。このリング構造は、塵が大きなサイズに成長したことで形成され、そこで惑星形成が開始したことを意味しています。実際に、アルマ望遠鏡[2]VLA[3]による電波観測でリング構造が見つかっている23個の円盤におけるリングの位置をシミュレーション結果と比較したところ、形成開始後100万年に満たない若い円盤では、リングの位置をこの形成メカニズムで説明できることが分かりました。

本研究は、科学雑誌『The Astrophysical Journal』の掲載に先立ち、オンライン版に近日掲載予定です。

背景

地球を含む太陽系のような恒星と惑星は、宇宙に漂うガス(主に水素分子)と塵からなる分子雲が自らの重力で収縮することにより誕生します。恒星へと成長途中の原始星の周りにはたくさんのガスや塵(星間塵)が存在し、原始星に向かって落下します。一方、落下してくるガスや塵は角運動量[4]を持っているため、その一部は「原始星円盤」として原始星の周りを回転し続けることになります。原始星円盤の成長が終わり、ガスや塵が留まり続けると「原始惑星系円盤」と呼ばれるようになり、星間塵は互いに付着して大きくなっていき、最終的に惑星が作られます。したがって、これまでは円盤の成長が終わり、新たに円盤に落下してくるガスや塵がなくなった後に惑星が作られると考えられていました。

しかし、近年の観測では、作られたばかりの若い原始星円盤において、既に環状(リング)構造やらせん状構造があることが次々と明らかになっています。このような「構造形成」は惑星形成の始まり、あるいは惑星が既に誕生している可能性を示しており、これまで考えられてきたよりもずっと早い段階で惑星形成の開始を考える必要が生じていました。そこで、国際共同研究グループは、リング構造の起源や惑星形成との関連を調べました。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、リング構造の形成メカニズムとして、惑星の材料となる塵の付着成長に着目しました。塵のサイズが大きくなり、成長することでリング構造が作られる可能性を考え、塵同士の付着成長のシミュレーションを行って観測結果と比較しました。原始星円盤内の塵は、ケプラー回転運動[5]をしているので、内側ほど物質は速く回ります。そのため内側では塵同士の付着が進み、センチメートルほどのサイズまで大きくなります。一方で、外側では回転が遅く、成長には時間がかかります。

まず、シミュレーションによると、このような半径による塵の付着成長時間の違いによって、成長が進んでいる内側と成長が進んでいない外側での境界(成長前線)がリングとして観測されることが分かりました(図1)。時間が経つにつれて、外側でも大きな塵に成長できるため、この成長前線は徐々に外側に広がっていきます(図1)。このようなリング構造が円盤に観測されれば、塵の成長という、いわば惑星形成開始の徴候を捉えたことになります。

星間塵の付着成長シミュレーションによる擬似観測画像の図

図1 星間塵の付着成長シミュレーションによる擬似観測画像

原始星円盤でリング構造(明るいオレンジの部分)が観測され、リングの内側(茶色の部分)では塵が大きなサイズに成長している。一方、リングの外側(紫色の部分)では塵の成長は進んでいない。左から、円盤形成開始後6,400年、1万3,000年、2万6,000年を示しており、時間とともにリングが外側に広がっていくことが分かる。

そこで、これまでアルマ望遠鏡やVLAによる電波観測でリング構造が発見されている23個の円盤に対して、リングの場所と本研究で求めた成長前線の位置を比較したところ、形成開始後100万年にも満たない非常に若い原始星円盤でのリングの場所が成長前線と一致することが分かりました。

特に、おうし座の方向、地球から450光年離れた場所にある太陽型の恒星を形成している領域 L1527にある原始星IRAS04368+2557に着目しました。この原始星は、原始星自体がまだ成長途中にある一方、周囲に既に原始星円盤が作られ始めていることが分かっています。この円盤もまだ成長途中で、周囲のガスや塵が円盤へと降着している非常に若い段階であることが特徴です。ごく最近、アルマ望遠鏡とVLAによる高解像度の観測で、星間塵が出す波長0.7cmの輻射が、中心にある原始星から半径15天文単位(au)[6]の場所で、上下両方向に塊のようなピークを持つことが発見されています(図2左)。

国際共同研究グループは、このような等間隔に並ぶ塊は成長前線によるリング構造を横から見ることで説明できることを示しました(図2右)。成長途中の円盤でこのような惑星形成が開始している様子を示したのは初めてのことです。

原始星円盤L1527の観測画像とシミュレーションによる原始星円盤の比較の図

図2 原始星円盤L1527の観測画像とシミュレーションによる原始星円盤の比較

  • 左:VLA望遠鏡による波長0.7cmの観測画像。星印は原始星の位置を示す。原始星の上下15auの場所に明るい塊が見られる。
  • 右:シミュレーションによるリング構造を持つ原始星円盤の画像。横から見た観測とモデルで、同じ場所に明るい塊が見られる。

本研究では、惑星形成の開始時期が従来考えられているよりもずっと早い可能性を、具体的なモデルによって示しました(図3)。まだ周りの物質が降着し、原始星や円盤も形成途中にある段階で、同時に惑星形成が始まっているかもしれず、従来の惑星形成に関する理解を大きく変える可能性があります。

惑星形成の従来モデルと今回明らかにした新たなモデルの図

図3 惑星形成の従来モデルと今回明らかにした新たなモデル

  • 左:惑星形成の従来考えられてきたシナリオ。原始星や原始星円盤の成長が終わった後、ガスや塵が原始惑星系円盤に長く留まり続けて、塵が付着し惑星形成を始めていく。
  • 右:今回明らかにした新たな惑星形成シナリオ。原始星円盤がまだ成長している段階ですでに塵が大きく成長し、従来よりもずっと早く惑星形成が始まる。

今後の期待

本研究では、原始星円盤がリング構造を持つ可能性とその形成メカニズムを示しました。この成果は、従来の惑星形成論を大きく変える可能性があるため、その一般性を明らかにすることが、今後の重要な課題です。また、複数の成長途中の若い円盤をより詳細に観測し、実際に成長前線の内側で星間塵が成長して大きくなっていることを、観測からも明らかにする必要があります。そのためには、センチ波帯を中心としたさまざまな波長で高解像度の観測を行うことが必要です。一方、星間塵の付着成長シミュレーションも、星間塵の複雑な構造を考慮することで、より成長が促進される可能性があり、今後そのような効果を明らかにする必要があります。

このように、詳細な観測とさまざまな物理過程を考慮した理論計算を組み合わせれば、原始星と惑星の共進化という星・惑星系形成の新たな描像を明らかにできると期待できます。

補足説明

  • 1.原始星円盤
    分子ガスと塵からなる分子雲が自己重力により収縮することで星は誕生するが、その際、大きな角運動量を持ったガスが直接中心には到達できず、原始星の周りに円盤が形成される。これを原始星円盤と呼ぶ。進化が進み、原始星への降着が弱くなった状態を原始惑星系円盤と呼び、惑星系のもとになる。
  • 2.アルマ望遠鏡
    アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA、アルマ望遠鏡)は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設。直径12mのアンテナ54台、7mアンテナ12台、計66台のアンテナ群をチリ共和国のアンデス山中にある標高5,000mの高原に設置し、一つの超高性能な電波望遠鏡として運用している。2011年から部分運用が開始され、2013年から本格運用が始まった。感度と空間分解能でこれまでの電波望遠鏡を10倍から1000倍上回る性能を持つ。
  • 3.VLA
    カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(Karl G. Jansky Very Large Array, 略称VLA)は、アメリカ国立電波天文台が運用する電波望遠鏡である。直径12mのアンテナ27台を米国ニューメキシコ州に設置し、一つの超高性能な電波望遠鏡として運用している。
  • 4.角運動量
    回転運動の向きと勢いを表す量であり、粒子の運動量と基準点(原点)からの距離の積で表される。星からの重力(中心力)は、距離や運動量を変えるが、角運動量を変化させることはできない。(角運動量保存の法則)
  • 5.ケプラー回転運動
    原始星の重力と回転するガスの遠心力が釣り合った運動。太陽系の惑星も同様に、太陽の周りをケプラー回転している。
  • 6.天文単位(au)
    天文学で用いられる距離の単位。1天文単位は地球と太陽の距離に由来し、約1億5000万km。auはastronomical unitの略。

国際共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室
研究員 大橋 聡史(おおはし さとし)
基礎科学特別研究員 仲谷 崚平(なかたに りょうへい)
基礎科学特別研究員 イーチェン・チャン(Yichen Zhang)
主任研究員 坂井 南美(さかい なみ)

名古屋大学 大学院理学研究科 理論宇宙物理学研究室
助教 小林 浩(こばやし ひろし)

東京工業大学 理学部
准教授 奥住 聡(おくずみ さとし)

東北大学 理学部
教授 田中 秀和(たなか ひでかず)

大阪産業大学 工学部
講師 村川 幸史(むらかわ こうじ)

台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)
助教 ハウユー・リウ(Hau-YuLiu)

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究「ALMA偏光観測と輻射輸送計算で探る原始惑星系円盤のリング形成とダスト成長(研究代表者:大橋聡史)」、同基盤研究(A)「円盤形成ごく初期における円盤構造形成の探究(研究代表者:坂井南美)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「地球型惑星形成にともなう大気獲得とその組成進化についての理論的研究(研究代表者:小林浩)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「新しい星形成論によるパラダイムシフト:銀河系におけるハビタブル惑星系の開拓史解明(研究代表者:犬塚修一郎)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「多様な原始惑星系円盤における惑星形成過程の理論的解明(研究代表者:小久保英一郎)」、同基盤研究(A)「磁場駆動円盤風を考慮した原始惑星系円盤進化と惑星形成に関する研究(研究代表者:鈴木健)」、同基盤研究(C)「固体微粒子から惑星まで直接合体成長による惑星形成理論モデルの構築(研究代表者:小林浩)」、同基盤研究(A)「多波長高解像度観測による原始惑星系円盤の解剖と惑星系形成過程の解明(研究代表者:百瀬宗武)」、同研究活動スタート支援「輻射多流体計算を用いたより現実的な原始惑星系円盤内部進化モデルの構築(研究代表者:仲谷崚平)」による支援を受けて行われました。

原論文情報

  • Ohashi Satoshi, Kobayashi Hiroshi, Nakatani Riouhei, Okuzumi Satoshi, Tanaka Hidekazu, Murakawa Kohji, Zhang Yichen, Liu Hauyu Baobab, Sakai Nami, "Ring formation by coagulation of dust aggregates in early phase of disk evolution around a protostar", The Astrophysical Journal, 10.3847/1538-4357/abd0fa

発表者

理化学研究所
開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室
研究員 大橋 聡史(おおはし さとし)
基礎科学特別研究員 仲谷 崚平(なかたに りょうへい)
主任研究員 坂井 南美(さかい なみ)

大橋 聡史研究員の写真 大橋 聡史

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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