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2021年10月14日

理化学研究所
オリエンタル白石株式会社

超小型非破壊検査装置「中性子塩分計RANS-μ」を開発

-鉄筋腐食に対するインフラの予防保全に貢献-

理化学研究所(理研)光量子工学研究センター中性子ビーム技術開発チームの若林泰生研究員、大竹淑恵チームリーダー、高村正人上級研究員、オリエンタル白石株式会社の大石龍太郎常務執行役員、渡瀬博所長らの共同研究チームは、超小型の非破壊検査装置「中性子塩分計RANS-μ(ランズ-マイクロ)」を開発しました。

本研究成果は、沿岸や山間部にある橋(橋梁)のように塩害[1]を受けるコンクリート構造物の検査技術として利用でき、落橋などの重大な事故を未然に防ぎ、橋梁の長寿命化を可能とするインフラ予防保全に貢献するものと期待できます。

これまでの塩害の劣化診断では、構造物に穴を開けてコンクリートを採取する必要があり、採取箇所が制限される、多数検体の測定が難しいなどの課題がありました。

今回、共同研究チームは、カリフォルニウム-252(252Cf)中性子線源[2]を利用し、橋梁点検車に搭載可能で、コンクリート構造物内の腐食発生限界塩分濃度1.2kg/m3を計測可能になる技術の開発に成功しました。透過能力の高い中性子と、中性子と反応後発生するガンマ(γ)線を利用することで、コンクリート表面から鉄筋が存在する深さ3~7cmまでの塩分を非破壊で検出可能になります。

本研究成果は、日本コンクリート工学会『中性子線を用いたコンクリートの検査・診断に関するシンポジウム』(9月27日)において発表し、同シンポジウム論文集に掲載されました。

橋梁点検車に搭載した「中性子塩分計RANS-μ」による塩分測定の概念図の画像

橋梁点検車に搭載した「中性子塩分計RANS-μ」による塩分測定の概念図

背景

沿岸や山間部の橋(橋梁)などのコンクリート構造物では、海水や凍結防止剤に含まれる塩化物イオン(Cl-)の浸透により、鉄筋が腐食する塩害が深刻化しています。腐食は構造物内部の鉄筋の断面積を減少させる上、周囲のコンクリートをひび割れさせ、落橋などの重大事故につながる恐れがあります。このような事故を未然に防ぐために、構造物の劣化診断の必要性がますます高まっています。また、劣化診断を行い、腐食が始まる前に補修できれば、コストの削減や橋梁の長寿命化にもつながります。

従来の塩害の劣化診断では、現場で採取したコンクリートを用いて、構造物表面から鉄筋付近までのかぶりコンクリート(一般的に厚さ3~7cm)に、どのように塩分が分布しているか(塩分濃度分布)を測定し、鉄筋の腐食状態を予測します。この方法は、測定精度は高いものの、構造物に穴を開けてコンクリート試料を採取するため、部分的な破壊を伴い、採取箇所も制限されることから、多くの検査は難しいという課題があります。

そこで研究チームは、透過能力の高い中性子線とその後発生するガンマ(γ)線を利用することで、コンクリート表面から7cmまでのかぶりコンクリート中の塩分濃度分布を非破壊で測定する装置の早期実用化を目指し、開発を進めています。

中性子線を試料に照射すると、試料中の元素(原子核、同位体[3])と反応してγ線が発生します。この特徴を利用した分析法を「中性子誘導即発γ線分析法[4]」といいます。中性子と試料中の特定の元素が反応すると、複数の特有のエネルギーを持ったγ線(即発γ線)が反応率と元素の量に応じた特有の量(γ線強度)で放出されます。中性子誘導即発γ線分析法では、この即発γ線を検出し、そのエネルギーおよび強度から、試料内に存在する元素の同定と定量を行います。

これまで、研究チームでは中性子誘導即発γ線分析法を利用し、非破壊でコンクリート構造物の深さ方向の塩分濃度分布を評価する技術を開発してきました。この方法では、コンクリート表面から深さ方向に中性子線を照射し、コンクリート表面近くに設置したゲルマニウム半導体検出器(Ge検出器)により、コンクリート内部で発生したγ線を検出します。中性子が到達してγ線を発生する深さが異なると、発生したγ線のエネルギーに依存して、コンクリート中から表面までの透過率が異なるため、検出器に到達するγ線の量(強度)が異なることを利用した「γ線強度比較法[5]」により、どの深さで生じたγ線かを推定します。

また、中性子ビームの入射範囲とコンクリート内部から放出されるγ線の検出範囲を限定し、特定の深さからのγ線のみを検出する「コリメート法[6]」と組み合わせ、コンクリート内部の塩分濃度分布を測定できることを示しました(図1)。これらの手法は、「理研小型中性子源システムRANS(ランズ)[7]」を用いて、原理実証実験を行うことで、その実現可能性を示しました注1-3)

塩分濃度分布の非破壊測定手法の原理実証実験セットアップの例の図

図1 塩分濃度分布の非破壊測定手法の原理実証実験セットアップの例

セットアップでは、γ線を検出するGe検出器1(およびコリメート用鉛ブロック)は、2層目をのぞくように配置し、Ge検出器2は1層目をのぞくように配置した。塩分調整したコンクリートプレートを、コンクリートの特定の深さに塩分があった場合の模擬として、1~3層目に設置した。1層目に設置した場合は、2層目と3層目は、塩分がない状態とした。検出部周りの鉛ブロックおよびLiF(フッ化リチウム)タイルは、それぞれバックグラウンドγ線および中性子を遮蔽するために用いている。

  • 注1)若林泰生, 吉村雄一, 水田真紀, 大竹淑恵, 池田裕二郎,"小型中性子源および即発ガンマ線を用いたコンクリート構造物内塩分濃度分布の非破壊診断技術の開発",日本材料学会 コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集, Vol.17, pp. 659-664 (2017).
  • 注2)2018年10月25日プレスリリース「中性子によるコンクリート内塩分の非破壊測定
  • 注3)Y. Wakabayashi, C. Iwamoto, M. Mizuta, T. Hashiguchi, Y. Yoshimura, Y. Ikeda, and Y. Otake,"DEVELOPMENT OF A NONDESTRUCTIVE DIAGNOSTIC TECHNIQUE FOR SALT DISTRIBUTION IN CONCRETE STRUCTURES USING NEUTRON AT RANS", Advances in Construction Materials, Proceedings of ConMat20, pp.1882-1892, (2020).

研究手法と成果

現在、共同研究チームでは、加速器中性子源を用いた「車載型小型加速器中性子源[8]」の開発・実用化に取り組んでいます。今回は、加速器中性子源と比べると中性子強度は落ちるものの、軽量で小さく取扱いが容易な、放射能が3.75メガベクレル(MBq、1MBqは100万ベクレル)以下のカリフォルニウム-252(252Cf)中性子線源(表示付認証機器[9])を用いて、既存の橋梁点検車両に搭載可能な「中性子塩分計RANS-μ(ランズ-マイクロ)」を開発しました。

まず、252Cf線源を用いた塩分検出能力の検証、および252Cf線源を含まないRANS-μの重量・サイズを再現したモックタイプ[10]を作製し、橋梁点検車両への搭載試験を行いました。具体的には、塩分濃度を0kg/m3、3kg/m3、6kg/m3に調整した厚さ3cmのコンクリートプレートを用意し、遮蔽体で囲った252Cf線源を用いて中性子を入射し、中性子誘導即発γ線分析を行いました(図2)。γ線検出器(Ge検出器)はこれまで使用したものと同じです。

測定に用いたコンクリートプレートの設置の組み合わせは、①1層目3kg/m3+2層目6kg/m3(図2に示す状態)、②1層目3kg/m3+2層目0kg/m3、③1層目0kg/m3+2層目3kg/m3です。本測定では、3.75MBq以下の252Cf線源を用いて、塩分濃度3kg/m3が検出可能かどうかを確認し、1.2kg/m3を検出するために必要な条件の検証が目的です。

カリフォルニウム-252(252Cf)中性子線源を用いた塩分測定セットアップの図

図2 カリフォルニウム-252(252Cf)中性子線源を用いた塩分測定セットアップ

測定に用いたGe検出器は図1におけるGe検出器2と同じものである。252Cf線源をポリエチレン、鉛で囲い、Ge検出器側はさらにLiF(フッ化リチウム)タイルと鉛を設置した。コンクリートの特定の深さに塩分があった場合の模擬として、3cm厚のコンクリートプレートを設置した。測定に用いたコンクリートプレートの組み合わせは、1層目3kg/m3+2層目6kg/m3、1層目3kg/m3+2層目0kg/m3、1層目0kg/m3+2層目3kg/m3である。検出部周りの鉛ブロックおよびLiFタイルは、それぞれバックグラウンドγ線および中性子を遮蔽するために用いている。

その結果、組み合わせ③の測定時に塩素由来のγ線を検出、つまりコンクリート表面から深さ3cmまでに塩分が存在せず、4.5±1.5cmの深さだけに塩分濃度3kg/m3が存在する状態における塩分の検出に成功しました。これにより、少なくとも3.75MBq以下の252Cf線源でコンクリート中の塩分濃度3kg/m3が検出可能であることが示されました。図3に測定結果の一部として、2.7MBq(実験時の推定放射能)の252Cf線源を用いて、組み合わせ①である1層目(塩分濃度3kg/m3)と2層目(塩分濃度6kg/m3)のコンクリートプレートを設置した際のγ線スペクトルを示します。

現在、検出感度が5倍以上となる検出システムを開発中であり、そのシステムを利用することで、深さ3~7cmでコンクリート中の鋼材腐食発生限界塩分濃度である1.2kg/m3を検出することが可能になります。

γ線エネルギースペクトルの図

図3 γ線エネルギースペクトル

1層目に3kg/m3、かつ2層目に6kg/m3のコンクリートプレートを設置し取得したγ線エネルギースペクトル((a)全体スペクトル、(b)塩素のγ線である1,165keV周辺の拡大、(c)塩素のγ線である1,951keV周辺の拡大)を示した。横軸はγ線エネルギー、縦軸はチャンネル当たりのカウント数である。35Cl(塩素)由来のγ線を緑色の矢印で示した。測定時の252Cf線源の放射能および測定時間を(a)内の右側のボックスの中に示した。35Cl由来のγ線が確認できたことから、3.75MBq以下の252Cf線源を用いて、塩分が検出可能であることが分かった。

次に、福島ロボットテストフィールドの試験橋梁において、想定されるRANS-μのサイズ・重さを再現したモックタイプを用いた橋梁点検車(バケット式ならびに歩廊式)への搭載試験を行いました(図4)。その結果、バケット式ならびに歩廊式橋梁点検車の許容荷重内に十分収まる重さ(100kg以下)・サイズ(100x80cm2以内)、桁下面まで到達可能な検査装置の実現が十分可能であることが分かりました。

福島ロボットテストフィールドでのRANS-μモックタイプの搭載試験の図

図4 福島ロボットテストフィールドでのRANS-μモックタイプの搭載試験

福島ロボットテストフィールドの試験橋梁におけるモックタイプの橋梁点検車への搭載試験の様子。モックは分割し、ワゴンタイプ乗用車の後部座席部に収容し、現地へ持参。モックの組立はバケット上や歩廊上で行った。リフター機能により、桁下面に到達することを確認した。

今後の期待

本研究により、今回開発した装置がコンクリート構造物の塩害に対する非破壊検査法の一つとなる可能性が示されました。この装置の測定対象は橋梁や道路に限らない、また元素も塩素に限定されないため、トンネル壁や建築物などの非破壊検査にも適用が期待できます。

今後、γ線検出器や検出器周りのアンチコンプトンシールド[11]252Cf線源の遮蔽構造の最適化を行い、コンクリート内塩分の検出能力向上や濃度分布測定手法の確立を目指します。また2022年度、実橋梁においてRANS-μを用いた測定試験を予定しており、その後、社会実装へ向けた実用機開発フェーズへと進む計画です。

補足説明

  • 1.塩害
    インフラコンクリート構造物の劣化要因の一つ。沿岸や山間部の橋梁などのコンクリート構造物において、海水や凍結防止剤に含まれる塩分の浸透で鉄筋が腐食することで、膨張によるコンクリートのひび割れ・剥落、鉄筋断面積の減少による破断などが起こり、落橋などの重大な事故につながる。ひび割れなど塩害の症状が構造物表面に現れる頃にはかなり劣化が進行しているため、早めの劣化診断が重要である。
  • 2.カリフォルニウム-252(252Cf)中性子線源
    放射性同位元素(RI)を用いた標準線源の一種。252Cfが自発核分裂する際、1壊変当たり3.76個の中性子を放出する。半減期は2.645年。
  • 3.元素、原子核、同位体
    元素は、原子番号(陽子数)によりその名前および記号が決められている。例えば、塩素は原子番号17、元素記号Cl、ニホニウムは原子番号113、元素記号Nhである。原子核は、陽子数と質量数(陽子と中性子の数を合わせた数)で種類が決まる。元素記号の左肩に質量数を表記し、例えば、7Liはリチウム7、35Clは塩素35と呼ぶ。同位体は、同じ元素で中性子数が異なる原子核のことで、例えば、35Clと37Clは自然界に存在する塩素の安定同位体、36Clは塩素の放射性同位体である。
  • 4.中性子誘導即発ガンマ(γ)線分析法
    中性子照射試料中の特定の原子核と中性子が反応すると、複数の特有のエネルギーを持ったγ線(即発γ線)が、特有の量(γ線強度)で放出される。その即発γ線を検出し、そのエネルギーおよび強度から、試料中に存在する元素の同定と定量を行う分析手法。基本的に非破壊で試料の再利用が可能なため、考古学上の貴重なサンプルや、隕石などの微量分析などに使われている。
  • 5.γ線強度比較法
    物質中の特定の原子核と中性子との反応で生じた即発γ線の特有のγ線強度、γ線のエネルギーの違いによる透過率の違い、通過する物質の厚さによる透過率の違いを利用し、物質中の即発γ線が生じた場所から物質表面に透過する間に通過した、物質の厚さ(通過距離)を推定する手法のこと。γ線強度比較法という名前は、研究チーム独自の呼称。この手法を利用し、本研究ではコンクリート構造物内の塩分が存在する場所を推定する。
  • 6.コリメート法
    中性子ビームの入射範囲とコンクリート内部から放出されるγ線の検出範囲を限定することで、特定の深さから生じたγ線のみを検出する方法。本研究では、γ線検出器の検出部前に鉛を設置することで検出範囲を限定(コリメート)し、特定の深さをのぞく。中性子ビームと検出器の角度を変化させることで、のぞく深さを変えることができる。
  • 7.理研小型中性子源システムRANS(ランズ)
    線形加速器で加速させた7MeV陽子(1MeVは100万電子ボルト)をベリリウム(Be)標的に照射し、Be(p,n)反応により、エネルギーが最大5MeVの中性子を発生させる中性子源システム。Be標的のすぐ後にポリエチレンモデレーターを設置し、発生した高速中性子を熱中性子に減速させ、ビーム状にして取り出す。RANSから取り出される中性子ビームは、減速されない高速成分と熱中性子が混在している。RANSは、RIKEN Accelerator-driven compact Neutron Sourceの略称。
  • 8.車載型小型加速器中性子源
    橋梁などインフラ構造物のアスファルト下の空隙や土砂化、本発表における塩害などの非破壊検査に必要な車載可能な加速器中性子源。現在、理研光量子工学研究センター中性子ビーム技術開発チームで開発中。その研究開発のためのプロトタイプとして、RANSを小型化・軽量化したRANS-IIが中性子工学施設で稼働中。その知見を経て、車載型に向けて、RANS-IIをさらに小型化したRANS-IIIも着々と開発中である。
  • 9.表示付認証機器
    本研究で用いている252Cf線源は、表示付認証機器と呼ばれるものである。表示付認証機器は、使用目的・使用条件・保管条件、運搬条件が定められており、入手後に原子力規制委員会へ届け出ることが義務付けられている。
  • 10.モックタイプ
    実検査装置のサイズや重さ、形状などを模した模造機のこと。
  • 11.アンチコンプトンシールド
    γ線検出器内でコンプトン散乱事象により生じたγ線に関して、γ線検出器内で検出したγ線と、検出器外へ逃げたγ線を周りに設置したシンチレータなどの検出器で検出したγ線との反同時(アンチコインシデンス)計測で、γ線スペクトルのS/N比を向上させるための手法に用いる。環境γ線など周辺からのγ線を遮蔽(シールド)する用途も兼ねている。

共同研究チーム

理化学研究所
光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チーム
チームリーダー 大竹 淑恵(おおたけ よしえ)
上級研究員 高村 正人(たかむら まさと)
研究員 若林 泰生(わかばやし やすお)

オリエンタル白石株式会社
常務執行役員 大石 龍太郎(おおいし りゅうたろう)

技術本部 技術研究所
所長 渡瀬 博(わたせ ひろし)

研究支援

本研究の一部は、国土交通省道路局が設置する新道路技術会議の技術研究開発制度により、国土交通省東北地方整備局の委託研究「中性子によるコンクリート塩分濃度非破壊検査の技術開発」によって実施されました。

原論文情報

  • 若林 泰生・Mingfei Yan・岩本 ちひろ・藤田 訓裕・水田 真紀・高村 正人・大石 龍太郎・渡瀬 博・池田 裕二郎・大竹 淑恵, "小型中性子源 RANS ならびにカリフォルニウム線源を利用したコンクリート構造物の塩害に対する非破壊検査装置の開発", 日本コンクリート工学会「中性子線を用いたコンクリートの検査・診断に関するシンポジウム」論文集

発表者

理化学研究所
光量子工学研究センター 中性子ビーム技術開発チーム
研究員 若林 泰生(わかばやし やすお)
上級研究員 高村 正人(たかむら まさと)
チームリーダー 大竹 淑恵(おおたけ よしえ)

若林 泰生研究員の写真 若林 泰生
大竹 淑恵チームリーダーの写真 大竹 淑恵

オリエンタル白石株式会社
常務執行役員 大石 龍太郎(おおいし りゅうたろう)
技術本部 技術研究所
所長 渡瀬 博(わたせ ひろし)

大石 龍太郎常務執行役員の写真 大石龍太郎
渡瀬 博所長の写真 渡瀬 博

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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