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2020年1月7日

115億光年かなたの「宇宙網」を発見した研究者

宇宙は138億年前に生まれ、重力によって物質が次第に立体的な網の目状に集まり、その中で銀河や巨大ブラックホールが成長していった……。それが理論に基づく初期宇宙のシナリオだ。115億年前の初期宇宙において網の目状に水素ガスが分布した「宇宙網」を世界で初めて実際に観測した研究者が開拓研究本部にいる。坂井星・惑星形成研究室の梅畑豪紀 基礎科学特別研究員(以下、研究員)だ。「今回の発見で、宇宙網の中で銀河が形成され、進化していった歴史を探るという、新しい研究領域を開くことができました」淡々と語る梅畑研究員の素顔に迫る。

梅畑豪紀の写真

梅畑豪紀 基礎科学特別研究員

開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室

1986年、奈良県生まれ。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。日本学術振興会 特別研究員(PD)、欧州南天天文台 客員研究員、東京大学 特別研究員、放送大学 プロジェクト研究員を経て、2018年より現職。

サッカーから天文へ

奈良市で生まれ育った梅畑研究員は、「小・中学生時代はサッカー漬けの日々でした」と振り返る。中学3年生で部活動の引退とともにサッカーに区切りをつけ、「高校では新しいことをやりたい」と、次に熱中できることを探した。

そのころは国語など文系科目の方が得意で、小学2年と中学3年のときには作文で表彰されたこともある。受賞はいずれも「宇宙の日」を記念した全国の小・中学生対象の作文絵画コンテストだった。「親によく科学館などへ連れていってもらった影響で、宇宙にも興味を持っていました。中学3年のときに頂いた賞の副賞が天体望遠鏡だったこと、また、ちょうどその年にあったしし座流星群の大出現に遭遇したことが、天文にのめり込むきっかけだったと思います」

天体写真の撮影に熱中するとともに、国立天文台や東京大学の木曽観測所で開催された高校生向けの天文実習セミナーに参加。その研究成果を日本天文学会のジュニアセッションで発表した。「そのような活動を続けているうちに、遠方の銀河を観測する天文学者を志すようになっていました」

アルマ望遠鏡のデータで博士論文を書いた第一世代

やがて梅畑研究員は東京大学大学院の天文学専攻修士課程へ。そのころ、国際協力で南米チリに建設が進められていたアルマ望遠鏡の科学観測が始まった。ちりに覆われた遠方の銀河は、可視光ではほとんど見ることができない。一方、銀河にあるちりは星の光で暖められてミリ波・サブミリ波の電磁波を出す。アルマ望遠鏡は、それを高感度・高解像度で捉えて、遠方銀河や巨大ブラックホールを観測することができる。

100億光年以上かなたの宇宙において、銀河が密集した領域が40カ所ほど発見されている。その一つが、みずがめ座方向、115億光年先の領域SSA22だ。「博士課程のとき、SSA22にある銀河をアルマ望遠鏡で観測した高解像度データを分析して博士論文を書き上げました。私は、幸運にもアルマ望遠鏡を使った研究で学位を受けた最初の世代なんです」

遠くの宇宙を見ることは、過去の宇宙を見ることに等しい。115億光年かなたは115億年前の宇宙だ。「初期宇宙には、私たちの住む天の川銀河の数百~数千倍の速さで星を生み出す銀河が存在し、その中心部では巨大ブラックホールが急成長しました。そのような活発な星形成銀河は、現在の宇宙にはほとんどありませんが、115億~100億年前をピークにたくさん形成されたことが分かってきました。なぜこの時期に活発だったのか、それを探るためにも観測を進めていく必要があります」

宇宙網のシミュレーションの図 図1 宇宙網のシミュレーション
初期宇宙において、物質が重力で網の目状に集まった宇宙網(水色)の中で、活発な星形成銀河や巨大ブラックホール(赤色)ができると理論的に予測されている。
宇宙網の3次元分布の様子の図 図2 宇宙網の3次元分布の様子
VLT望遠鏡で発見した宇宙網の水素ガスからの光のうち、紫は比較的明るい部分、水色は暗い部分に相当。赤色のひし形は、アルマ望遠鏡やX線で観測した活発な星形成銀河や巨大ブラックホール。水素ガスの光(ライマンアルファ線)は本来、紫外線の波長(0.1216μm)だが、宇宙膨張の効果で遠い天体ほど波長が長くなり、115億年先の天体の場合、可視光(0.5μm付近)で観測される。波長の違いから3次元分布を求めた。

発想の転換で宇宙網を発見!

梅畑研究員は2015年4月から1年間、ドイツにある欧州南天天文台(ESO)に客員研究員として赴任。活発な星形成銀河をアルマ望遠鏡で観測する第一人者Rob. J. Ivison教授のもとで研究する機会に恵まれた。「ESOは欧州の天文学を統括している研究機関なので、ミリ波・サブミリ波だけでなく、可視光などさまざまな波長で観測を進める第一線の研究者たちと交流することができました」。ESOは、可視光から近赤外線までの波長を捉える超大型望遠鏡(VLT)をチリに建設し、観測を行っている。「VLTの4台ある望遠鏡の1台にはMUSEという観測機器が搭載されています。この装置に詳しい研究グループとも共同研究を進めていました。MUSEの主な観測目的の一つが宇宙網です」

理論に基づく数値シミュレーションにより、初期宇宙では物質が網の目状に集まった「宇宙網」の中で、活発な星形成銀河や巨大ブラックホールが成長すると予測されていた(図1)。しかし、実際の宇宙網の観測には誰も成功していなかった。「宇宙網を観測できるとしたら、そこに含まれる水素ガスからの光だろうと予測されていました。その波長は可視光として地球に届きますが、極めて暗いため、口径10mほどの主鏡を用いた現在の最大級の可視光望遠鏡でも集光力が大きな問題となります。MUSEはいわば巨大なカメラです。それで弱い光を確実に捉えることで、宇宙網を観測しようと考えたのです」

宇宙空間の水素ガスは、星やブラックホールからの紫外線を受けて光る。そのため、強い紫外線を放つ巨大ブラックホールの周辺などで宇宙網を探す観測が進められていた。しかし宇宙網の存在を示すような、銀河と銀河をつなぐ広範囲な水素ガス分布はなかなか発見されなかった。これに対して梅畑研究員らは、紫外線だけが強い場所ではなく、それに加えて水素ガスがたくさんあると予想される場所に目を向けた。「SSA22のように、星を活発に形成する銀河が集まっている領域は、星々からの紫外線が強いのはもちろん、星の材料である水素ガスがたくさんあるはずなので、明るく光っているに違いないと考えました」

帰国後、2018年からは理研で宇宙網を発見するための研究を続けた。「まずアルマ望遠鏡やNASA(米国航空宇宙局)のX線観測衛星のデータをもとに、SSA22の約400万光年四方の範囲に18個の活発な銀河や巨大ブラックホールが密集して分布することを明らかにしました。さらに、ハワイ島にある日本のすばる望遠鏡が10年以上前に観測したデータを再解析したところ、その範囲に宇宙網らしき構造がぼんやり見えてきました。その範囲をMUSEを搭載したVLTで観測し、ついに宇宙網を発見することができたのです(図2、顔写真のモニター画面)。115億~100億年前の宇宙では、宇宙網に沿って水素などのガスが大量に供給され、活発な星形成銀河や巨大ブラックホールがたくさん形成されたと考えられます。今回の発見は、それを初めて観測で裏付けたものです」

次世代の宇宙望遠鏡や巨大望遠鏡も駆使して

NASAは2021年、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機としてジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を打ち上げる予定だ。「今、欧米の研究者とチームを組みJWSTを使った観測提案を準備しています。JWSTは近赤外線の観測によって、質量が小さな銀河であっても、その中の星の分布を調べることができます。実は、渦巻銀河がいつごろから現れたのか分かっていないのですが、それも明らかにできるでしょう」。可視光の分野でも、口径30mを超える大型望遠鏡の計画が複数、進行している。「集光力が向上するので、さらに広範囲で宇宙網を確認し、ヘリウムや炭素などの分布も観測できるはずです」

そう語る梅畑研究員は、宇宙のかなたに目を凝らしながら、日常生活にも好奇心を持ち続けている。現在の趣味はカーリングで、2013年に東京都大会で優勝したという実力の持ち主だ。「何かのスポーツでオリンピックに出てみたいと、大学に入ってからスキージャンプや自転車に挑戦しました。カーリングを始めたのは大学院からで、学生のチームを組んで4年目の優勝でした。現在も社会人チームに参加し、毎冬12~1月の週末は、たいてい軽井沢の氷上にいます」。何事も自然体で、しかしどこまでも究めていくのがスタイルのようだ。

(取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト、撮影:STUDIO CAC)

『理研ニュース』2020年1月号より転載

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