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2020年3月5日

画期的な遺伝子同定手法を開発した研究者

イネの収量のように複数の要素によって決定される性質の場合、それに関わる遺伝子の同定は困難とされており、多くの研究者は手を出さない。しかし、同定できれば収量の多いイネの作出につながる。そこで、革新知能統合研究センター遺伝統計学チームの矢野憲司 特別研究員(以下、研究員)は、複数の要素を総合的に解析できるように機械学習を組み合わせた手法を開発。イネの収量に関わる遺伝子の同定に成功した。「私はじっくり考えたいタイプなので、ほかの人がやらないけれども達成できれば大きなインパクトがあることをやっていきたい」そう語る矢野研究員の素顔に迫る。

矢野憲司の写真

矢野憲司 特別研究員

革新知能統合研究センター 目的指向基盤技術研究グループ 遺伝統計学チーム

1989年、広島県生まれ。名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程修了。博士(農学)。東京大学大学院農学生命科学研究科 特別研究員を経て、2017年より理研 革新知能統合研究センター訪問研究員。2019年より現職。

イネの収量に関わる形態とGWASの結果の図 図 イネの収量に関わる形態とGWASの結果

庭には野菜が育ち、家の中にも緑があふれている。そんな家庭で育った。「子どものころから生き物、特に植物が好きでした。教師だった母の影響もあり、理科の教師になろうと思っていました。方向転換したのは、高校2年のときに参加したサイエンスキャンプがきっかけです」と矢野研究員。高校生が第一線で活躍する研究者・技術者から実験や講義など直接指導を受ける科学技術振興機構主催の体験合宿プログラムだ。2014年に終了したが、理研ではサイエンス合宿の名称で今も独自に実施している。「指導してくださった方がみんな、とても楽しそうだったのです。研究者というのは自分の興味のある現象や課題の真理を探求し、社会に貢献できる素晴らしい職業だと思い、研究者になろうと決めました」

そして農学部へ。「夏目漱石や太宰 治、宮沢賢治の本をよく読んでいました。特に『銀河鉄道の夜』で描かれている深い友情に感動し、宮沢賢治が大好きになりました。彼が今でいう大学の農学部を出ていることを知り、農学部を選んだのです」

大学院では植物遺伝学の分野で著名な松岡 信教授に師事し、イネのDNA塩基配列を統計的に解析して有用な形質に関わる遺伝子を同定する研究を始めた。「データ解析だけでなく、種もみをまいて苗を育て、田植え、稲刈りをし、そこからDNAを抽出し全ゲノム塩基配列の読み取りもやりました。大学院で生物学と情報科学、両方の技術を習得できたことは、現在の私の強みになっています」

2017年に理研へ。そして2019年、機械学習とゲノムワイド関連解析(GWAS)を組み合わせた手法を開発し、日本で育成された169品種を用いてイネの収量に関わる遺伝子の同定に成功した。GWASは、ヒトの疾患に関わる遺伝子の同定に用いられている。「植物では遺伝子の同定に量的形質遺伝子座解析を使うのが一般的ですが、実験材料の用意に交配が必要なので時間も労力もかかります。GWASはそうした手間は不要です。しかし、イネのような作物には使えないといわれていました。そうした中で私は、さまざまな工夫や改良によってGWASがイネに使えることを示してきました。今回、さらに機械学習を組み合わせることで、複数の要素によって決定される性質に関わる遺伝子の同定を可能にしたのです」

共同研究をしている名古屋大学の圃場で169品種を栽培し、矢野研究員も穂やもみの数を数えた。「いつも食べている品種でも、穂やもみを見る機会はほとんどありません。品種ごとにずいぶん違い、育種家がどういうことを考えてこの品種をつくったのかを想像するのも楽しかったです。収量は、環境的な要因によっても変わります。複雑な環境要因に関わっている遺伝子を総合的に解析して同定するのが、次の目標です。技術的なブレークスルーはすでに見つけています」

読書以外にも趣味が多い。「高校と大学では乗馬もやっていました。障害物を跳び越す競技で、人馬一体になったと感じる瞬間はとても楽しいものです。登山もします。何事もチャレンジしないのはもったいない──これは母の教えであり、自分のモットーにもなっています」

2020年7月から1年間、フィンランドのヘルシンキ大学病院に研究の場を移す。「私が開発した手法は、複数の要因が絡み合って発症する生活習慣病にも使えると考えています。医療先進国でもあるフィンランドで、生活習慣病に関連する遺伝子の同定を目指します。大きな植物園もあるので、フィンランド行きが今から楽しみです」

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2020年3月号より転載

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