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研究最前線 2022年3月3日

ポータブルで超小型のNMR装置の開発に成功

1911年に「超電導」という現象が発見されて100年余り。超電導体は核磁気共鳴(NMR)装置やMRI装置に実装され、リニアモーターや電力ケーブルへの応用も期待されています。しかし、その現象を起こすには超電導体を極低温に冷やす必要があり、大掛かりな冷却設備が不可欠でした。そこで、仲村高志専任技師が企業と共同で新たに開発したのが、高さ約1m、人が運べるサイズのNMR装置です。

仲村 高志の写真

仲村 高志(なかむら たかし)

生命機能科学研究センター
構造NMR技術研究ユニット
専任技師
1962年高知県生まれ。高知大学大学院理学研究科物理専攻修士課程修了。筑波大学大学院数理物理学研究科電子・物理工学専攻修了。博士(工学)。大塚電子株式会社にて小動物用のMRI装置や固体NMR装置の研究開発などに従事した後、1998年理研入所。2021年より現職。

24年間かけ"不可能"に挑戦

特定の金属や化合物を極低温まで冷やすと電気抵抗がゼロになる「超電導」。超電導体に大電流を流して得られる超電導磁石は、材料や生体組織を分子レベルで高精度に分析するNMR装置や、画像診断のためのMRI装置に欠かせない。しかし、超電導体を極低温まで冷やすには、-269℃の液体ヘリウムなどの冷媒が不可欠だ。そのため、NMRには大掛かりな冷却設備が必要で、設置場所も限られてくる。

2021年12月、冷媒の代わりに電気で冷却する超電導磁石を使うことで、どこにでも運べる超小型のNMR装置の開発に成功したのが、仲村専任技師だ。「研究開発に着手したのは約24年前。技術開発を行うイムラ材料開発研究所(現イムラ・ジャパン株式会社)から、新たな超電導磁石を発見したので実用化したいと相談を受けたのがきっかけです」と振り返る。

現在、NMR装置などに使われている超電導磁石は、超電導体を細長い線状にしてコイルに巻いたものである。高温超電導体の発見により、線状にはせずバルク(かたまり)のまま使っても、液体ヘリウムより何十℃も高い約-220℃の温度で強い磁場を発生する超電導磁石ができることが知られていた。とはいえ、NMR装置に求められる非常に均一な磁場をバルクの超電導磁石で実現できるとは誰も思っていなかった。しかし、その挑戦を始めたのだ。

極地や深海、宇宙で活躍する日を夢見て

試行錯誤の末、2011年にはまず、超電導バルク磁石を用いた世界初の超小型MRI装置の開発に成功。その後、さらに開発した超小型MRI装置の成果をもとに、超小型NMR装置の開発を目指した。「NMR装置には、2011年に我々が開発したMRI装置に比べて、さらに磁場の均一性を高める必要がありました。そこで、磁場の乱れを低減する技術の開発や磁石の改良を繰り返すことで、2021年、ついに従来の超電導NMR装置に近い性能を持つポータブルの超小型NMR装置の開発に成功しました。通常の分析であれば十分な精度です。また、高価な液体ヘリウムを使う必要もありません」と胸を張る(図1)。

今後は、研究現場に卓上のNMR装置として導入されることを目指すほか、極地や深海、宇宙で活用してほしいと夢を膨らませる。「最新鋭の調査船でも、NMR装置までは搭載していません。このNMR装置なら、電力さえあれば使えるので、現地で採取した試料をただちに分析できます。これにより新たな発見につながれば、研究者冥利に尽きるというものです」

NMR装置のポータブル化は、幅広い分野の研究開発に大きなインパクトを与えるだろう。

ポータブルで超小型のNMR装置の写真

図1 ポータブルで超小型のNMR装置

従来のNMR装置(左奥)は冷媒による冷却容器など装置が大掛かりになるため移動は難しい。今回、仲村専任技師らが開発したNMR装置(右手前の銀色の筒)は台車に載せて人が運べるサイズ。しかも移動させても性能は低下しない。

(取材・構成:山田久美/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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