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特集 2022年5月30日

理研だからできること ―五神 真 新理事長に聞く―

2022年春、五神真氏が理事長に就任しました。五神理事長はこれまで東京大学で研究や教育に力を注ぐ一方、副学長、学部長、総長を歴任し、研究組織をまとめる立場としても豊かな経験の持ち主です。新理事長は理研を通してどんな未来像を描くのでしょうか。

五神 真の写真

五神 真(ゴノカミ・マコト)

理事長

――かつて朝永振一郎が理研を「科学者の自由な楽園」と呼び、今も理研にそんな印象や期待感を持っている方が少なくありません。

そういうイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。私が理事長に着任することを知った諸先輩方からはそうした"楽園復活"への期待の声も多く聞かれました。

財団理研の大河内正敏所長(1921~1946)が、主任研究員が裁量権を持って研究室を主宰する研究室制度をつくり、研究者の自由な発想で長期的なテーマを自由にやろうという方針の下に生まれた研究環境が「楽園」と評されたのです。それを支えたのは、鈴木梅太郎博士の研究室で開発された高純度ビタミンAの大量生産法の商業的な成功など、自分たちで生み出した潤沢な資金です。自ら生み出した資金をどう活用し楽園を築くか、これを実践することができました。

現在の理研の主な収入は国からの運営費交付金や補助金です。国民が何を期待しているかをより強く考え、その上で「楽園」を築かねばなりません。当時とは構造がだいぶ変わっていることも自覚しておく必要があります。

――現在は特定国立研究開発法人として運営されており、国民は理研に対して1人当たり年間886円を負担している計算になるそうです。

前職の東京大学では、財源を多様化せよという国の方針のもとに、大学が歴史的に蓄積してきた資源を活用して多様な財源を呼び込もうと、総長として6年間、市場も交えた真剣な対話を積み重ね、従来の発想にないことも多く行ってきました。

一方で、理研はそういう場とは少し違うと思っています。つまり、市場と直接対話をして研究資金を呼び込むこと以上に、市場メカニズムの中ではできないけれども国民にとっても人類全体の未来にとっても必要なことをしっかりやっていく責任がある。そこを国民に納得していただけるようにきちんと説明しながら、理研が生み出す価値を明確化していくことが大切だと思うのです。

もちろん産業界との連携は大事です。しかし、それは理研が社会から遊離しないように自己確認するために重要なのです。国立大学における産学連携とも違うのです。理研でなければできないこと、理研だからこそできることをみんなで吟味して、中長期的に、国民の納得のできるリターンを出していくことが大切です。

――大きな目標に向かってどのように取り組みますか。

パンデミック、エネルギー、脱炭素などの地球規模の課題に対して、私たちがいま持っている知恵だけでは対応しきれないことは明らかです。新たな知恵を出し続けていく必要があり、知恵を出す努力を続ける人たちをエンカレッジする必要があります。科学の発見の喜びが大きな原動力になることは私自身が研究者として体験していますが、その努力が周りからもポジティブに評価される環境を用意する必要を感じています。

研究者が自ら「探究したい」ことと、未来の人々が「必要だ」と思うことが自然に重なるような場をつくっていきたい。高い理想を共有する仕掛けがあれば、分野が違っても優れた専門家同士が共感し、協力できることが見つかる可能性があり、コラボレーションが生まれ、思いもよらない新しい発見につながるかもしれません。人類にとって本質的な問題は何かということを心に留めながら、各分野の先端を走る研究者同士が対話できる場をつくることができれば、遠い未来の人類社会に資する価値が生み出されるはずです。

そんな研究所が日本にあることを知って、それを誇っていただくことで、国民の皆さんにも価値ある投資として、理研への負担を納得していただけると良いと思っています。

――理研における女性研究職の割合は15%、研究管理職では9%ほどで、まだかなり伸び代がありそうです。

現在、日本全体を見ても女性の力が十分活用されていないことは確かで、改善できれば国としても大きく成長できるはずです。これは東大時代からやり残した課題なので、ぜひ理研でリベンジしたいですね。

国際標準から見ると、日本にはまだ特殊なところがあります。理研はかなりグローバルな環境ですから、そういう意味では先導するのに良い立場です。理研も日本を良い方向へ進めるための駆動力になっていきたいですね。

――今でも東大に研究室を維持していらっしゃるそうですね。

クロスアポイントメント制度を利用しています。そうはいっても研究に割ける時間はあまり多くないのですが、これまで打ち込んできた研究の総括もしたいと思います。

総長時代も研究の現場から離れたことはありませんでした。発見の喜びや研究のワクワク感は実体験としてたくさん持っているので、その実感を研究者たちと共有できることは、マネジメントの場面での私の強みになると思っています。

――理事長のお考えや理研の活動・成果をどのように発信していきますか。

私たちが何を伝えたいか、まず十分な議論が必要です。日本の科学のポテンシャルは高く、海外企業も日本の頭脳には注目をしています。日本の優秀な頭脳が密度高く集積している理研の価値を、どう見せていくかが大事です。

研究者は常に国際的な場で研究しています。時代も、形あるモノから知恵や情報に価値をシフトさせてきています。世界からの期待を考えると、研究者は外からもっとビジブルになるべきと思います。その意味でも発信はまだ伸び代は大きいです。私自身、理研をさらに知るうちにまた本を書きたくなるかもしれませんね。

理研の活動を通じて、無から有を生み出す知の創造が、地球と人類の未来の成長の機会を生み出す原動力となることを世界に発信していきたいと思います。

意見交換の様子

就任早々に、理研の各研究拠点・施設を訪問、研究者たちと意見交換を行った。

Profile
中学時代からアマチュア無線に熱中し、私立武蔵高等学校ではアマチュア無線同好会に。秋葉原で部品を買い集め、専門雑誌『トランジスタ技術』を愛読した。東京大学理学部物理学科卒業。修士課程、博士課程に進み、理学博士。専門は光量子物理学。1988年から東京大学工学部物理工学科講師、1998年東京大学大学院工学系研究科教授。2010年東京大学大学院理学系研究科教授。副学長、理学系研究科長・理学部長を務めた後、2015~21年第30代東京大学総長。社会を変革する駆動力としての大学の意義を唱え、初の大学債を発行するなど、ユニークな視点と大学経営が注目された。学生時代は古典ギター愛好会に所属し、今もクラシックギター演奏で気分転換を図るが、一番の気分転換は研究室での議論。

(取材・構成:古郡悦子/撮影:古末拓也、相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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