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研究最前線 2022年7月14日

血管内治療の腕を磨くトレーニング装置を開発

心筋梗塞や動脈瘤などの治療に用いられる血管内治療デバイスは操作が難しく、トレーニング環境の整備が求められています。そのニーズに応える装置の開発に取り組んでいる横田秀夫チームリーダー(TL)と深作和明客員研究員に話を聞きました。

横田 秀夫と深作 和明の写真

(左)横田 秀夫(ヨコタ・ヒデオ)チームリーダー
(右)深作 和明(フカサク・カズアキ)客員研究員

光量子工学研究センター
画像情報処理研究チーム

トレーニングが困難な血管内治療

動脈の血管の一部が膨らんだ動脈瘤は破裂すると大きな出血を引き起こす。脳動脈瘤の破裂には死亡や後遺症のリスクがあるので、破裂リスクが高いと考えられた場合、治療の対象となる。その治療法としては、動脈瘤の中に微細な金属を詰める「コイル塞栓術」が世界的に主流になりつつある。

コイル塞栓術では、カテーテルと呼ばれる中空の細い管を血管に挿入し、動脈瘤に到達したらコイルを送り込む。血管には多くの分岐があるため、X線で位置を確認しながら慎重にカテーテルを操作する必要がある。操作は治療を行っている医師の感触に頼るしかないため、技術伝承は難しい。そこで、さまざまなトレーニング装置が考案・製品化されている。

治療用のX線透視装置を使い、実物の治療用カテーテルを人体模型の血管に入れるトレーニング方法は、実際の治療に近いという点で有用だが、治療以外の場で医師がX線被ばくしてしまうという問題点があった。また、透明な血管模型をカメラで撮影した映像を用いるトレーニング機器もあるが、実際に手術で用いるX線透視と映像の特徴が異なり、トレーニング環境としては不十分だった。

血管モデルの可視光による画像と非被ばく血管内治療シミュレータによるX線模擬画像の写真

図1 血管モデルの可視光による画像(左)と非被ばく血管内治療シミュレータによるX線模擬画像(右)

可視光による画像(左)は立体感があり、奥行き方向の位置関係が分かるので、実際のX線画像より操作が容易になってしまう。今回開発した装置の画像(右)は平坦でX線画像に近い。

蛍光色素でX線像に近い画像表示を実現

横田TLと深作客員研究員らが開発したトレーニング装置では、生命科学研究などでよく用いられる「蛍光観察技術」を利用した。透明な血管モデルを用意して、カテーテルの先端などに蛍光色素を付け、人工血管にも同じ蛍光色素を薄めた液を満たした。蛍光色素が発する光だけを通すフィルターを装着したカメラで撮影したところ、X線透視に近い平坦な画像を再現できたという(図1)。

血管内治療の熟練者に本機を評価してもらったところ、X線透視下での実際の治療に近いという評価が得られた。今後、初学者に使ってもらい、本機によるトレーニングと上達度の関係を科学的に評価する予定だという。

今後の研究目標について、東京都にある南町田病院脳神経外科の医師でもある深作客員研究員は、「臨床医として、治療成績の向上に役立つ知見を集め、こんなものをつくってほしいという要望を出していくのも私の仕事」という。また横田TLは「新しい技術で人の命をどう救うか、医療に携わる医師と研究者で共に考えていきたい」と語る。ベテラン二人のコラボレーションが後継者の道を切り拓いていくことに期待したい。

(取材・構成:中沢真也/撮影:古末拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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